35話 前シエルバ伯爵家当主シュヴァル③

 シュヴァルはアニーシャと婚約したことにより公私ともに充実した日々を過ごしていた。

 精神的にきつかった生徒会での仕事や王太子殿下に寄せられる相談事も体力的には疲れたが、アニーシャと付き合うようになってから、気持ちの余裕ができたのか何故か苦痛ではなくなった。


 面倒な相談も今まで以上に相談者の身になって考えることが出来るようになった。他人事とは考えずに相手の立場に立つと自然と自分の考えを導くことが出来た。自分の思いを押しつけるのではなく、相手の話を聞き自分が思ったことを提案した。

 親身に話を聞くだけで納得して帰っていく者が増えた。


 生徒会の仕事も他の会員たちに割り振り、ひとりで抱え込むことを辞めた。適材適所を考えた。人に頼ることを恥ずべき行為だとは思わず、人に頼られることも面倒に思わなくなった。

 生徒会員同士で意見を交わしスムーズな運営が出来るようになってきた。仕事は減らないが効率が良くなった。


 ♢♢


 学園では年に二回、前期と後期に三週間ずつの長期休暇が設けられている。王都のタウンハウスや寮に残る者もいたが生徒の大半が領地に帰って行った。


 お互いの両親からは手紙で婚約の了承をもらっているので、シュヴァルは彼女の両親に挨拶がてらアニーシャをフェミナ伯爵領に送って行くことを打診していた。

 アニーシャの初めての長期休暇の時はランドルと二人でボーランド子爵家の馬車に乗り合わせ帰省していた。


 アニーシャは最初はシエルバ伯爵領からは遠回りになるからとシュヴァルの申し出を断っていたが、彼の熱意に負けて申し出を受け入れることにした。シュヴァルと付き合い始めたとはいえアニーシャは、二人きりの馬車の旅に照れていた。今回の帰省の日を秘かに楽しみにしていた。


 長期休暇に入りシュヴァルとアニーシャはシエルバ伯爵家の馬車に乗り帰省した。

 最初はお互いに緊張していたが、未婚の男女が馬車の中で二人きりになるわけにはいかず、アニーシャの侍女とシュヴァルの従者が乗り合わせ、彼らが気を遣い話題に事欠くことはなかった。

 二人にとって楽しい帰省の旅となった。


 シュヴァルはフェミナ伯爵の好意で邸の客室に一泊させてもらい、アニーシャと帰りもフェミナ伯爵家まで迎えに来る約束をして、翌日シエルバ伯爵領に帰って行った。


 シュヴァルの紳士としての振る舞いや人柄に、フェミナ伯爵家族は大喜びだった。

 アニーシャもシュヴァルのことが誇らしかった。手紙や書類のやり取りだけではなくシュヴァルの人柄をみて、両親や家族に申し分のない婚約者として彼が認められてアニーシャは幸せいっぱいだった。


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