36話 前シエルバ伯爵家当主シュヴァル④

 アニーシャをフェミナ伯爵領に送り、シエルバ伯爵領に戻ってから直ぐに、シュヴァルは彼女に手紙を書いた。


 遠回りになるがシュヴァルも両親にアニーシャを紹介したかったので、約束していた日の3日前に迎えに行くことを手紙で伝えた。

 アニーシャは快く了承してくれた。

 その後も何度か手紙のやり取りをしていた二人はお互いに会えるのを楽しみにしていた。


 この国の貴族は馬車の移動は防犯対策や不慮の事故などを避けるため、夜は緊急時以外に走らせることはほとんどない。

 約束の日のお昼前に到着したシエルバ伯爵家の馬車は早朝に宿泊先を出発したのだろう。

 アニーシャはシュヴァルの気持ちが嬉しかった。


「シュヴァル様お迎えに来てくださってありがとうございます。早朝の出立でお疲れでしょう?少しお休みになりませんか?」

「ありがとう。ではお言葉に甘えて少しだけ、休ませていただこう」

 アニーシャと離れて10日ほどだが彼女と会うのが久しぶりに感じて、シュヴァルは少し照れてしまった。


「出来れば両親と共に昼食を召し上がりませんか?」

「予定より早い時間の訪問なのに昼食までさせてもらってよいのだろうか?」

「はい。既にご用意が出来ておりますのでどうぞお気になさらずに」

「···ありがとう」

 シュヴァルはフェミナ伯爵家の気遣いに感謝していた。


 アニーシャの両親と昼食をいただいていると、

「やはり、昼食のご用意をしてよかったでしょ」

 と、アニーシャの母親に囁かれた彼女は真っ赤な顔になった。

 アニーシャの顔を見てシュヴァルも真っ赤になった。

 昼食を終えフェミナ伯爵夫妻に見送られ二人はシエルバ伯爵領へと向かった。


 アニーシャに会ったシエルバ伯爵夫妻は彼女をとても気に入り早速母親と打ち解けていた。

 2年後のアニーシャの卒業を待って二人は正式に結婚することになる。


 学園に戻る馬車の中でアニーシャは真剣な顔でシュヴァルに話をしていた。

「わたくしのお母様のことで心配なことがあるのです」

 彼女の母は数年前から精神的な病を抱えているようだった。


 彼女の母はフェミナ伯爵家に嫁ぐ時に実家から侍女を数名連れてきていたが、最も信頼を寄せる侍女が数年前に病に倒れたため暇を出され、母親の側にいられなくなったことで、精神的に不安定になっていったようだった。


 普段は穏やかに過ごしているが、季節の変わり目や天候などにも左右される病状のようだった。塞ぎ込み食事を取らなくなるようだ。

 アニーシャは母親の病のことでシュヴァルに迷惑がかかることを恐れていた。ボーランド子爵家のランドルとの噂のことも正直に打ち明けた。


 シュヴァルは私は君以外を妻にする気はない、心配ないよと、アニーシャの手を取り優しく囁き励ました。

 休暇の間にシュヴァルはアニーシャとフェミナ伯爵家、ランドルとボーランド子爵家の事情をすべて調べ上げていた。

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