34話 前シエルバ伯爵家当主シュヴァル②
この学園では学年ごとに女子生徒は制服のリボン、男子生徒はネクタイで色分けされていた。
一年生は一時間前に授業が終了していたようだ。
シュヴァルはお礼を言う前に立ち去った一年生の女子生徒に感謝しつつ、ベンチに座ることにした。
両腕を組み空を見上げ、大きく息を吐き出し気持ちを切り替えを行い、女子生徒の去って行った方をしばらくぼんやりと見ていた。
視線を落とすと小さな紙切れのようなものが落ちていた。気になって近づき拾い上げてみると菫の刺繍の入った栞だった。
そういえばさっきの彼女は本を大事そうに抱えていたような···彼女の落とし物なのだろうか?
シュヴァルはしばらく栞をじっと見つめ、そっと土をはらい制服の胸ポケットに仕舞った。
翌日、中庭のベンチに行ってみると昨日の女子生徒が読書をしていた。
女子生徒はシュヴァルに気がつくとそっと立ち上がり、お辞儀をして立ち去ろうとしていた。
「少しいいだろうか?私は三年生のシエルバ伯爵家のシュヴァルだ」
シュヴァルは胸のポケットに仕舞ってあった栞を取り出し、
「昨日ここでこの栞をみつけたのだが、君の落とし物ではないか?」
女子生徒はぱっと目を見開き、
「ありがとうございます。やはりここで落としていたのですね。栞はわたくしので間違いございません。わたくしは一年生のフェミナ伯爵家のアニーシャと申します。ご親切痛み入ります」
アニーシャは栞を受け取り、
「この栞はお婆様からいただいた物なのです。見つけていただいて感謝しております」
アニーシャはシュヴァルに輝くような笑顔でお礼を言っていた。
シュヴァルとアニーシャはこの事がきっかけで、中庭のベンチで話をするようになり付き合うようになった。
気に入っている本の話、お互いの領地の話、街中の流行りなど、アニーシャと話をしているとシュヴァルは心が安らいでいった。
シュヴァルの母方で従兄弟にあたるボーランド子爵家のランドルとアニーシャは同級生で、同じクラスだと言っていた。
ボーランド子爵領とフェミナ伯爵領は隣接しており、ランドルとアニーシャは幼馴染みだった。
両家は親同士の仲が良く、家族ぐるみの付き合いがあるようだった。
アニーシャはランドルのことを兄のような存在だと言っていたが、シュヴァルはほの暗い感情を抱えていた。シュヴァルが在学中にアニーシャに婚約を申し込んだのもランドルのことを聞いたからだった。
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