31話 会合での出来事②

「これは隣国での話なのですが、不妊の原因は夫の方にもあると···それで、私共の商会ではご夫婦で飲んでいただく薬茶のご用意がございます。もし宜しければお試しに飲んでみてはいかがでしょうか?もちろんこの国の薬師に、成分の安全性を確認させてあり、ご心配はございません。とても不快なお話をしてしまいましたので、料金をいただくつもりはございません」


 エクウスは少し不愉快になったが、他国にも自ら足を運んでいる商人の言葉に説得力を感じていた。

「そういうこともあるかも知れないな。では遠慮なく貰うことにしよう」


 ヴォルガはうつむき加減だった顔をあげ、

「さすがはシエルバ伯爵様、余計なお世話だと叱責を覚悟しておりました。すぐに新しい物を取り入れられる柔軟な考えのお方だ。貴方様とのご縁が出来て光栄に思います」

 ヴォルガは頭を下げながら自慢気な顔をしていた。


 得意気なヴォルガの顔を見ながら、エクウスは直感で、底が知れないが信用できる男だと思った。

 噂話や誹謗中傷の延長ではなく、親身になって話をしてくれているのがわかり正直嬉しかった。

 夫婦間の跡継ぎ問題は貴族の間ではデリケートな部分である。今後の商売に繋がるとはいえ、高位貴族のエクウスに、この手の話を切り出すのには勇気がいっただろうと思った。

 不敬罪だと騒ぎだす者がいても不思議ではない内容の話である。


「そういえば、確かシエルバ伯爵さまの奥様は、メディウム男爵家のお嬢様でしたね?一度お会いしたことがあるのですが、聡明で美しいお嬢様でした」

「ありがとう。私も良い妻だと思う。メディウム男爵は会合に参加してないようだな」


「メディウム領は流感の煽りと、領地の再建にお忙しいのだと思います。シエルバ伯爵様の元で、お嬢様がお幸せであればご安心でしょう」

 シエルバ伯爵領に戻ったら、メディウム男爵領の状況も調べてみようと思った。


「シエルバ伯爵様。今日は有意義なお話ありがとうございました。また、お声掛けさせて頂いてもよろしいでしょうか?」

「ああ、君と話をするのは楽しい。近くに来たら領主邸にも寄ってくれ」

「ありがとうございます。是非領主邸にもお伺いさせていただきます」


 ヴォルガは深々と頭を下げ、エクウスとの話に満足し、嬉々とした様子で常連で親しい参加者たちの輪に入っていった。

 エクウスも他の参加者たちの集まりに顔を出しに行った。


 エクウスは、少し酔いが回り酒癖の悪い年配の男に絡まれてしまった。

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