32話 会合での出来事③

「やあ、シエルバ伯爵様。会合に参加されるとは珍しい事もあるのですな」

 酔った年配の男は足取りも覚束ない様子で近づきエクウスに話しかけた。


「貴方は···ティミド子爵ですか?」

 エクウスは父親と同年代の男に確かめるように聞いた。


「ああ、これは嬉しいな。顔を覚えていてくれていて光栄だよ。前シエルバ伯爵様のシュヴァル様と私は学園時代の友人だったんだよ」

 酔いのまわったティミド子爵は自慢気に話していたが、エクウスは予め参加者の名簿を確認していたので、全くの感で男の名前を言っただけだった。もちろん父親からティミド子爵の話を聞いたこともない。


「父親は学生時代どんな生徒でしたか?」

 エクウスは酔った年配の男と話を続けるのは嫌だったが、父親の学生時代の話に少し興味をもった。

「シュヴァル様はとても優秀な学生だったよ。フェミナ伯爵令嬢とは学園で知り合って結婚したんだよ」


「ええ、父と母から聞いています」

「シュヴァル様はとても優秀で、当時の王太子様の側近候補だったよ。シュヴァル様の従兄弟のボーランド子爵令息のランドル様と、フェミナ伯爵令嬢は幼馴染みで学年もクラスも一緒。二人はとても仲がよかったね。当時の私は、ボーランド子爵令息様とフェミナ伯爵令嬢が結婚すると思っていたんだが···」

「えっ。騎士団長のランドル・ボーランド様ですか?」


「そうだよ。領も隣同士で子供の頃から家族ぐるみの付き合いがあったらしいよ。学園の長期休暇も仲良く二人で領地に帰っていたしね。シエルバ伯爵様と婚約したと聞いた時は、クラスメイトもびっくりしていたな」


「そうなんですか···聞いたことがなかったです」

「シュヴァル様が在学中に婚約を申し込んだのも、二人の仲の良さに嫉妬していたのかな?フェミナ伯爵令嬢を一途に愛していらっしゃったからね」

「はい。父と母はとても仲がよかったです」


「貴方の体格は武官が多いフェミナ伯爵家の血だね。ご立派になられましたね」

「ありがとうございます。では、楽しい夜を過ごしましょう」


 エクウスはティミド子爵との話を切り上げ、知らなくて良いことを聞いてしまったかのように、もやもやとした気分になった。


 ランドル様と母の仲が良かった···

 そういえば、母は事あるごとに実家のフェミナ領に帰っていたような···

 父に隠れてランドル様と会っていたのか···


 母に限って不貞などあり得ないが。


父のシュヴァルと最後に交わした言葉が急に気になった。

「シエルバ伯爵家の血筋に拘らなくてもよい」

離縁したばかりの自分への慰めの言葉ではなかったのか···


 エクウスは頭を軽く横に振り不要な考えを捨てた。今夜は強い酒をのんでも酔いそうになかった。

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