30話 会合での出来事①

「これはこれはお珍しい。シエルバ伯爵様ではないですか?お声掛け失礼いたします。私は商人のヴォルガと申します。お目にかかれて光栄です。貴方様とはゆっくりお話がしたかったのです。是非お話を聞かせて下さい」

 王国でも有名な豪商ヴォルガが丁寧な挨拶で声をかけてきた。


 この国だけでなく他国でも手広く商売をしていて、自らも各地を忙しく飛び回っている彼は、少し日焼けしているせいで、真っ白な歯がとても印象的だった。ひと目でわかる上質な生地の衣服は、上品で洗練されていた。

 身につけているアクセサリーも数が少なく、派手さはなく控えめな物だった。宝石は大きさよりも品質重視しているようだった。


 一方的に話しかけられたがエクウスは、ヴォルガの出立ちや物腰の柔らかい口調に好感が持てた。

 彼からは今後の仕事に役立つ情報を引き出せるかもしれない。王国内の最近の景気の情報だけでも知りたかった。


「君の噂は聞いているよ。流感のせいでシエルバ伯爵領内は景気が悪くてね。助言をしてくれないか?」

 エクウスは遠回しな言い方をせず、あえてヴォルガに正直に話してみた。


「それでは恐れながら。シエルバ伯爵領は景気がよい方だと思います。王国のみならず隣国もかなりの影響を受けております。穀物の在庫に余裕があれば解放して、少し高値を付けて販売されると良いかと···。シエルバ伯爵領の穀物は他領よりも品質が良く評判が良いです。もし宜しければ、わたくしに売っては頂けませんか?」


 ヴォルガの言葉にエクウスは目を丸くした。

 今まで穀物の量のみで評価をしていたが、正直、品質のことをあまり考えてはいなかった。そうか付加価値か···。専門家を呼んで一部の地域で品質の向上を目指すことも視野に入れることにしよう。

 良い助言をもらったな。


「ヴォルガの商会で買ってくれるのなら、領地に帰ってから早速在庫を確認し、すぐに連絡する」

「ありがとうございます」

 エクウスとヴォルガは笑顔で握手を交わしていた。


「穀物の買い取りとは別の話ですが···少し立ち入ったお話になりますが、お気を悪くされたらこの話は聞き流して頂ければと···」

「ああ、わかった」


「シエルバ伯爵様にはまだ跡取りになるお子さまがいらっしゃらないとお伺いしたのですが?お節介なお話で申し訳ございません」

「ん···そうだな。今の妻と結婚してから1年になるが、だが妻はまだ若い、少し気にはなっているが···」

 ヴォルガの話を聞きエクウスは眉間に皺を寄せて答えていた。

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