41話 新任侍女長ローザの思惑

 ローザは幼少期から家族に大切に育てられてきた。

 特に秀でた才能もなく子爵家の次女ということもあり、シエルバ伯爵家の使用人として働くことになったが、家族は『憧れのエクウス様のお側でお仕事出来てよかったわね』と言って励ましてくれた。


 ローザは手際がよく仕事を覚えるのが早かった。伯爵家の指導がよかったのかローザは次第に自分の仕事に自信が持てるようになった。彼女は侍女の仕事が向いていたのか、人に仕えることに不満は感じなかった。


 王都のタウンハウスではシエルバ伯爵家の家族が滞在する期間だけ、侍女として家族の身のまわりの世話をし、他の期間は王宮での臨時の手伝いや、伯爵家の調度品の管理、季節に応じての模様替えや備品の整理、合間にはマナーの復習等を行っている。


 伯爵家の家族の滞在時は領地の使用人も共に移動してくるので、王都のタウンハウスの使用人は必要最低限な人数で邸の保全や管理などの業務を回している。

 ローザは年若く機敏で、人当たりもよく使用人たちに気に入られていた。末っ子特有の処世術なのかもしれない。


 伯爵家に仕えて数年後にエクウスは結婚してしまい、自身の結婚のことを真剣に考えるようになった。ローザの縁談はイプルス子爵家に複数届いていたが、両親には仕事に慣れてからと結婚を渋っていた。


 結婚適齢期を少し過ぎたローザは父親の薦めで、イプルス子爵家と縁が深く、父の同僚の息子であるウェイン子爵家の嫡男と結婚の話が上り、シエルバ伯爵家の仕事を続ける条件で結婚を承諾していた。

 ウェイン子爵は仕事熱心なローザを快く思い、彼女の仕事を優先することを約束していた。


 ウェイン子爵家の家族は皆は穏やかな性格で夫もとても優しかった。夫は常にローザを気遣い、子どもが生まれても彼女に負担のない生活を送らせてくれていた。ローザは周りからみても恵まれた結婚生活を送っていた。


 華やかな王都で順風満帆な結婚生活の中、ローザはシエルバ伯爵家本邸の勤務の打診に胸が騒いだ。


 王都のタウンハウスにリリアージュを連れてきた時、彼女に想いを寄せるエクウスの様子を見て失意を感じていたが、ローザは心の中にあった僅かな恋心が揺れるのを感じていた。

 久しぶりに見たエクウスは若い頃にはなかった色香がにじみ出ていた。


 ローザは自分に向けられていないのがわかっていたが、リリアージュを見つめるエクウスの今までにはなかった恋慕を秘めた眼差しに胸がときめいてしまった。


 ローザはエクウスから目が離せなかった。

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