40話 使用人の交替②
執事長の交替にはまだ半年の余裕があるが、侍女長の選任は急務だった。
エクウスは現在王都のタウンハウスで侍女長の補佐をしているローザ・ウェイン子爵夫人をシエルバ伯爵本邸の侍女長として迎え入れることにした。
年齢はエクウスと同世代で、実家は代々王宮で文官として仕える領地を持たない貴族のイプルス子爵家の次女で身元も確かだった。
イプルス子爵家は三人兄妹で父親の跡を継ぐ予定の長男は、親子で文官として王宮に勤めている。長女は学園時代に夫に見初められ伯爵に嫁いでいる。ローザは末娘であった。
難があるとすれば、ローザが王都のタウンハウスで侍女として勤め始めた頃、エクウスに度々秋波を送っていたことだが、今はウェイン子爵家に嫁ぎ、子どもも設けているので心配は不要だろう。
エクウスは使用人たちに秋波を送られることには慣れていた。筆頭伯爵家の縁が欲しい者は今でも後を立たない。
夫と子どもと離れることになり、王都以外で生活をしたことのないのも気がかりだが、事は急を要した。
しばらくの間様子を見ると共に、王都の侍女長にも詳細を伝え、念のために他の後任候補も探すように伝えてあった。
ローザにも数ヶ月は試用期間だと告げている。
ローザは今でもエクウスに想いを寄せていた。
既に夫や子どもがいる身だが、エクウスを初めて見た時の胸の高鳴りが忘れられないでいた。
ローザは王都のタウンハウスで過去に何度かエクウスの妻を見ていたが、地方出身で自分より10歳以上も年が若く、家格が下のリリアージュには素直に従える気がしなかった。
シエルバ伯爵本邸で侍女長ともなれば、使用人として大出世であり給金も上がる。しばらくの間、王宮で文官の仕事をする夫や子どもたちと離れて暮らすこと、王都以外の慣れない土地での暮らしにも不安がある。しかし、ローザはエクウスの下で働くことに何よりも魅力を感じていた。
胸に秘めた恋心に微かに火が灯った。
ローザがシエルバ伯爵本邸の侍女長として着任したとき、エクウスとリリアージュが王宮で国王陛下への挨拶のため、王都のタウンハウスに夫婦で滞在していた時よりも気持ちが離れているように見えた。
夫婦の食事は朝食のみが一緒で、会話も弾んでいない。リリアージュがエクウスの顔色を伺うような態度だが、エクウスは妻の様子に気を留めず淡々と食事をしている。
結婚してから一年ほどしか経っていないのに夫婦に甘い雰囲気がなかった。
ローザは執事長や他の使用人たちからシエルバ伯爵夫婦の事を聞いてみることにした。
思った通り最近夫婦仲が良くないようだった。
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