39話 使用人の交替①
エクウスは会合を終え真っ直ぐシエルバ伯爵邸へと帰って来た。
主の帰宅の先触れがあり、リリアージュと使用人たちはエクウスを玄関で出迎えた。
会合の疲れか馬車での移動の疲れなのか、少し気落ちしているエクウスの表情を読み取ったリリアージュは、エクウスのことを執事長に任せ出迎えの挨拶だけをして下がることにした。
他の使用人たちにはエクウスが直ぐに休めるように軽食や飲み物、湯浴みや寝具の準備を整えさせていた。
エクウスはそのまま自室に戻っていった。
前シエルバ伯爵当主シュヴァルの代から仕えている執事長は年齢と持病の腰痛で、数年前から仕事を続けて行くことに不安を感じていた。
流感の影響で使用人たちの半数近くが入れ替わり、新任の使用人たちの細かい教育と自身の抱えている仕事で己の限界を感じていた。
長い間二人三脚でシエルバ伯爵家を盛り立てていた侍女長の辞職の影響も大きかった。
先日、侍女長の娘が二人目の子どもの出産で産後の日達が悪く命を落としてしまい、生まれたばかりの子どもと3歳になる子どもの世話をすることになった。
侍女長の娘婿は商人で度々家を空けることがあり、既に彼の両親は他界している。
兄弟はいるが頼れないという。娘婿だけでは子どもたちの面倒が見られず、一時的に孤児院に預けることになってしまう。
愛娘の残した子どもたちを憂い、侍女長は鍛冶屋の旦那と共に孫たちの面倒を見るために、他領の娘の家の近くに家を借り移り住むことになった。
腕のいい鍛冶屋の旦那は住むところにこだわらなくても、仕事が失くなることはないそうだ。
執事長は近々シエルバ伯爵家を去ることを人知れず決意していた。
エクウスが会合から帰って来た一週間後、執事長は半年後の退職を申し出た。
エクウスは難色を示していたが、執事長の持病を気づかい暇を出すことを受け入れた。
執事長の家系は代々シエルバ伯爵家の執事を排出している家だが、執事長には息子がなく妹の次男を候補に考えていた。
執事長の甥は現在勉強のため、他領で執事として働いている。首席で学園を卒業し執事としても優秀であるが、独善的でもある。
執事長は甥の性格や経歴などをエクウスに示し、仕事をしていくうちに支障があれば、エクウスの縁戚の中から執事長を選ばれても依存はない旨を提言していた。
息子がいなかった執事長は自分の代で家系から執事が排出されなくなっても仕方がないと思っていた。執事としての資格は家系ではなく主が決めること。家系に甘んじることなく本文をわきまえ、執事としての誇りを持ち誠心誠意主に仕えること。
執事長の矜持だ。
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