50話 不慮の事故

 エクウスは自室の寝室に行きながら、

「トニー、私は直ぐに休む。明日は昼食時までは起こしに来ないでくれ」

 エクウスは睡魔に襲われ、服を乱雑に脱ぎ捨て下着姿でベットに入った。


 昼近くになりエクウスはしつこくドアをノックするトニーによって目が覚めた。二日酔いで頭痛と吐き気がし体調が悪い。

「なんだ!騒がしい!」

 エクウスは唸るような声を上げた。

「旦那様。奥様が···。お目覚めになりません!」

 トニーはガタガタと震え、声を絞り出すように言った。両手は固く握りしめてられていた。

「わかった。直ぐに行く」

 異変を感じたエクウスは下着姿の上に側にあったナイトガウンを羽織り夫婦の寝室に向かった。


「これは···どういうことなんだ···」

 言葉にならないような声を上げ、エクウスは両手で顔を覆い膝から崩れ落ちた。


 リリアージュは後頭部から血を流し、ベットの脇にあるチェストにもたれ掛かるように息を引き取っていた。彼女の膝には猫が寄り添っていた。


「どうして?···どうして直ぐに知らせない!もう、昼ではないか!今朝は···ローザを呼べ」

 エクウスはトニーに命令すると他の使用人たちを下がらせ寝室の扉を閉めた。


 エクウスは立ち尽くし呆然としていた。ひとりになり昨夜の出来事について記憶を辿っていた。家に帰って来た記憶にあるものの、リリアージュと話をしたのか···ああ、確か出迎えに出てなかった彼女にひとこと言ってやろうと寝室に···まずい。

 エクウスは震え出した。


「旦那様、お呼びでございますか?」

 ローザはエクウスしか見ていなかったので、現状がわからず、いつもの調子で答えていた。


「ローザ、リリアージュの朝の支度をした者を呼んでくれ。トニーは主治医を迎えに行ってくれ」

「···」

「どうしたローザ、答えろ」

「朝の支度には誰も来ていません」

「なんだと!どうなっている?」

「奥様は、ご自分で支度をされるとおっしゃられたので···」


 ローザはやっとチェストにもたれ掛かるように座り込んでいるリリアージュを見て、膝から崩れ落ちた。

「ああ···ああ、奥様、どうして···旦那様、申し訳ございません!」

 ローザは真っ白になった顔を床に擦り付けエクウスに何度も謝罪していた。


「ローザ。お前は下がって自室で謹慎していろ!いいな!一歩も外に出るな!他言無用だ。逃げたらお前の家族共々容赦しない」

 ローザは震える膝に手を当てなんとか立ち上がり、自室に下がった。


「旦那様、主治医をお連れしました」

「入ってもらえ」

 ローザが退室した後エクウスはリリアージュを抱き抱えベッドに寝かせていた。


「奥様は早朝にお亡くなりになられたと思います。それと、どうやらご懐妊されていたようです」

 主治医の診断を聞きエクウスは気を失ってしまった。

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リリアージュは僕が幸せにする 絵山 佳子 @takemama16

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