7話 シエルバ伯爵邸

 翌日になりリリアージュは使用人に案内してもらいシエルバ伯爵邸を見て回っていた。


 伯爵家自慢の図書室には外国語で書かれた本もたくさんあり、代々伯爵家当主の教養の高さが感じられる。

 古書だけでなく、流行の小説なども充実していて、細やかな本の管理が行き届いていた。


「明日からは早速伯爵家に教師がお見えになり、伯爵夫人としての勉強が始まります。息抜きにどうぞ図書室をお使い下さいませ。本をお部屋にお持ちになっても結構です。ご希望の本がございましたら、遠慮なく使用人にお申し付け下さい」

「お気遣いありがとうございます」

「奥様、私たち使用人に丁寧な言葉は不要でございます」

「分かったわ。気をつけるわね」

「奥様はお優しい方ですね」

 使用人は微笑み丁寧に頭を下げた。


 最後に庭園と温室を案内してもらった。

 季節の花が咲く庭園は軽く散歩するのに丁度良い広さだった。

 庭の東側に四阿もあり、季節によっては花を愛でながら軽食やお茶を楽しむのも気持ちがいいだろう。

 隣には小さな温室があり貴重な品種の花やランなどが植えられてあった。


 春になったばかりの少し肌寒い今日みたいな日は庭園を歩いた後、温室のソファーでひと休みして癒されるのも楽しみのひとつになりそうだった。

 実家の男爵家など物置小屋に感じられる程、伯爵家の邸は広い。広くて豪華だ。豪華といっても調度品は華美ではなく上品で洗練されたものばかりだった。

 流石名門の伯爵家の邸である。


 エクウスはリリアージュがゆっくりと過ごせるように、朝食と昼食は部屋に運ぶように使用人に言い渡し、夕食は二人で取る約束をしていた。

 執務を早めに切り上げたエクウスは、リリアージュとの夕食を楽しみにしていた。

 エクウスは控えめで清楚なリリアージュに好感を持っていた。


 夕食の時間になりエクウスはリリアージュを自室まで迎えに行った。

 婚約期間中でもあるので、彼女の部屋はまだ客室にしていた。

 リリアージュは迎えに来てくれたエクウスのエスコートを受け、食堂に向かった。

 初めて男性のエスコートを受けるリリアージュは恥ずかしくて下を向いてしまった。


「顔が赤いようだが、体調は大丈夫かな?」

 エクウスが優しく言葉をかけてくれた。

「は、はい。大丈夫です。男性にエスコートされるのが初めてなので、緊張してしまって···」

 エクウスは真っ赤な顔のリリアージュに、

「私も緊張しているよ」

 と言って微笑んでくれた。

 優しいエクウスの言葉にリリアージュは少し緊張が和らいだ気がした。

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