6話 シエルバ伯爵家へ

 リリアージュはシエルバ伯爵家に慣れるために、二週間後に実家のメディウム男爵を出発することにした。

 シエルバ伯爵家とメディウム男爵家は近く、馬車で半日もあれば着いてしまう。

 リリアージュは弟のルーカスを宥め、手紙のやり取りと、伯爵様には外出許可をもらいたまには実家に帰って来ることを約束していた。


 母はリリアージュの手を優しく握った後、お祖母様の形見であるペンダントを首にかけてくれた。

 朱色の珊瑚をお花の形に細工したひと粒のペンダントはとても愛らしい物だった。

 リリアージュは珊瑚のお花を掌に乗せいろいろな角度から見ていた。

「お母様ありがとうございます。大切にいたします」

 リリアージュは満面の笑みで母にお礼を言った。


「リリアージュ、結婚しても貴女が私の娘であることには変わりありません。本当にどうしようもないと思ったら私に必ず相談しなさい。大きな声では言えないけれど、旦那様の愚痴ぐらいならいつでも聞きますよ」

 母は笑って答えると「一緒に暮らせば色々なことがあるのよ」と口元を右手で覆い囁いた。

 リリアージュは小さく頷いた。


 リリアージュは、自分の恋愛感情に関係なく男爵家や領民のために結婚するのが、貴族の娘としての義務だと思っていた。

 この国の一般の貴族の家庭では、表向きだけは仲睦まじく振る舞い、夫婦はそれぞれ愛人を持ち、子どもは乳母が育て、衣食住を与えるだけの希薄な人間関係の家族が多数だった。


 メディウム男爵家は異質だった。

 夫婦仲は良く家族でのおでかけや歓談、食卓は家族で囲みとても穏やかな家庭だった。

 それぞれが思いやり信頼している。

 男爵家の家族の誰もがそう思っていた。


 二週間はあっという間に過ぎ、両親に育ててもらったお礼を言い、ルーカスを抱きしめ、リリアージュは新しい生活に向けて責任と希望を持って、シエルバ伯爵家に向かった。

 伯爵邸に着くとエクウスが執務室から出てきて、リリアージュを玄関まで迎えに来てくれた。


「メディウム嬢、我が邸にようこそ」

「伯爵様自らのお出迎え痛み入ります。お初にお目にかかります。わたくしはメディウム男爵家の娘、リリアージュでございます」

 リリアージュはカーテシーをして挨拶をした。

「私が貴女の夫になるエクウス・シエルバだ。明日にでも使用人に邸の案内をさせよう。今日はゆっくり部屋で休むといい。食事も部屋に運ばせよう」

「お心遣いありがとうございます」

「伯爵家にはゆっくり慣れてくれれば良い」

 リリアージュは初対面にもかかわらず、気づかいをしてくれるエクウスに好感を持った。

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