45話 学友たちとの交流会②

 本来ならシエルバ伯爵邸で正式に夜会やお茶会などを開き、事業や商談などの場を設け、伯爵家の仕事を宣伝しても良いのだが、格式重視で綺麗事だけの上流階級の貴族たちの情報ならすでに把握している。

 それに筆頭伯爵家の夜会ともなれば、招待状を出したとしても下位貴族は参加しにくいだろう。


 エクウスは出来れば下位貴族や庶民との意見交換をして、商品のヒントや新たな販路、顧客を広げるための情報を得たかった。商品の価格帯や需要など生の声が聞きたかった。

 多様な情報を仕入れるためには、少しくらいの無礼な振るまいなど、今のエクウスにとっては些細なことだった。


「シエルバ伯爵様。今日は奥様はいらっしゃらないのですか?」

 酔った男がエクウスに寄ってきたが、エクウスは下品な男たちに愛らしいリリアージュを下卑た目で見られるだけでも嫌悪感を感じていた。

「ああ、少し体調を崩していてね。明日の午前中にでも紹介しよう」

 明日の午前中なら酔いつぶれた男たちには、リリアージュを会わせなくて済むだろうと軽く受け流した。


「そうなんですか。残念です。お若くて可憐な女性だと聞いて是非とも奥様にご挨拶したかったのですが···」

「ありがとう。妻に伝えておくよ」

 エクウスは名も知らぬ男の言葉に吐き気がした。


 本当はリリアージュに挨拶させるつもりでいたが、酒が入り昨夜また彼女の頬を打ってしまった。

 聞き上手なリリアージュに甘えてしまっている自分に腹立たしく、今朝少し頬の腫れた彼女の顔を見るのが辛かった。

 エクウスは明日の朝食の時に彼女に謝罪し、旧友たちと挨拶を交わして貰おうと思っていた。


 リリアージュと結婚してから2年になるが、まだ子どもが授からない。エクウスは伯爵家の跡継ぎのことや彼女との今後を真剣に考える時期にきていることを痛切に感じていた。

 リリアージュが望むなら彼女との離縁も視野に入れなくてはならない。


 今までの妻たちとは違い、エクウスはリリアージュを手放せる自信がなかった。

 しかしこちらの都合ばかりを押しつけるわけにもいかず、彼女の事を考えるならこれから先の

 生活に困らないように金銭的な援助をすることも視野にいれていた。

 若い彼女ならやり直せることが出来る。

 だかエクウスはリリアージュの気持ちを聞く勇気がなかった。


 学友のたちの交流会は無事に終わり、エクウスはいくつかの商談を整えることが出来満足していた。

 交流会の後、エクウスは1ヶ月をかけて領地の視察と商談に出ることにした。

 エクウスはリリアージュと距離を置き、伯爵家の跡継ぎの問題や今後の夫婦の事を考える時間を設けることにした。

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