10話 結婚式②
結婚式を執り行っている教会は、シエルバ伯爵領内にある教会の中でも最も伯爵家と縁があり、華やかなではないが厳かな雰囲気の教会だった。
東側は森で、西側は墓地になっていて伯爵家代々のお墓も並んでいる。
建物の歴史も古く老朽化が進んではいるものの、定期的に丁寧に修繕され大切にされている。
教会の責任者である司祭もシエルバ伯爵領出身で、王都の大司祭の優秀な弟子の1人である。
教会の回りの沿道には新郎新婦をひと目見ようと、たくさんの領民たちが押し寄せていた。伯爵家の使用人たちは、予期せぬ事態に混乱しながらも領民たちの整理にあたっていた。
結婚式を無事に終え、新郎新婦よりも先に教会の外に出た招待客たちは、あまりの人の多さに驚いていた。
「お父様、お姉様はお幸せですね」
リリアージュの弟のルーカスは興奮気味に両親に向かって囁いた。
「本当によかった。リリアージュも幸せそうだったな」
メディウム男爵は目を細めて娘の晴れ姿に思いを募らせた。
男爵夫人は感動のあまり目を潤ませ、二人の言葉にただ頷くばかりだった。
新郎新婦が教会の外に出てくると、領民たちから割れんばかりの歓声があがった。
「伯爵様、美しい奥様とお幸せに!」
「とても綺麗な奥様ね」
「ああ、女神様だ」
領民たちは思っていることを口に出していた。
本当なら不敬罪にあたっても仕方がないが、領民たちの心の底からの歓迎は、エクウスを不快にさせることはなかった。
前回までの結婚式は格式にこだわり、大勢の貴族たちを招待し、王都で盛大な結婚式と披露宴を行ったが、リリアージュが伯爵領にこだわり、シエルバ伯爵家と縁の深い教会で結婚式を挙げられたことにエクウスは感慨深い気持ちになった。
執務に追われ領民たちとの交流も殆どなかったエクウスは、領地の支えである彼等との接し方を見直す良い機会になったと思った。
エクウスは領民たちに向かって、自然と大きく手を振っていた。
「祝福をありがとう」
と声を発したことで、またもや領民たちから大歓声を受けた。
リリアージュは領民たちの大歓声に胸が熱くなり、一筋の涙とともに彼等に向かって手を振っていた。彼等が歓迎してくれた事はこの先、忘れることはないだろう。
伯爵夫人として領民たちのために出来ることを精一杯やることで、今日の歓迎のお返しをしようと心に誓った。
エクウスとリリアージュは馬車に乗り窓のカーテンを開け、沿道の領民たちに手を振っていた。
御者は気を利かし、領民たちがいる間は歩くような速度でゆっくりと馬車を動かしていた。
領民たちは今日のシエルバ伯爵の結婚式のことを喝采し、数年経っても彼等の間で話題が尽きることはなかった。
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