9話 結婚式①

 ウエディングドレス姿のリリアージュはとても美しかった。

 目を引くような華やかな美人ではなかったが、名前の由来通り白百合の花のように気品があり、清楚で凛とした佇まいだった。

 領民の中には女神様だと言って跪きお祈りする者までいた。


 純白のウエディングドレスはエンパイヤラインで、ホルターネックの上部は手の込んだレースになっていて、小柄で華奢なリリアージュによく似合っていた。ヘッドドレスは腰までの長さで、所々にラインストーンが散りばめられてあり、ダイヤモンドをあしらったティアラと共に光を浴びてキラキラと輝いていた。

 ネックレスとピアスはパールで纏められてあり、全体的にシンプルだが上品さが際立った。

 ブーケは白百合と白い小花で作られていた。


 エクウスは、伯爵夫人としての気品が漂う堂々とした振る舞いに、とても男爵家出身の十代娘とは思えないリリアージュに満足をしていた。

 夜会などで外見だけを取り繕い、男にすり寄る女性を見てきたエクウスは、格下の家の娘でも本人の自覚や教育によって、聡明な女性がいるものだと改めて認識した。

 リリアージュは伯爵夫人として申し分はなかった。


 努力家のリリアージュはこのまま社交界に出たとしても、他の高位貴族の夫人たちにも引けを取らないだろう。


 新郎新婦は結婚式のためにエクウスが王都から呼び寄せた大司祭の前で宣誓をし、結婚宣誓書にサインをした後、触れるだけの誓いの口づけをした。

 リリアージュの唇は少し震えていた。

 誓いのキスが終わると真っ赤になってうつ向いてしまったリリアージュはとても愛らしかった。

 数分前の堂々とした立ち振舞いの女性とは同一人物とは思えない十代の女性らしい顔を見せた。


「大丈夫?」

 エクウスがリリアージュにだけ聞こえる声でささやくと、小さく頷いた彼女は少し目を潤ませていた。

 エクウスはリリアージュを愛おしいと感じ、夫婦としてともに生涯を終えることを心の底から神に誓った。リリアージュを生涯、大事にすると心に刻んだ。


 リリアージュはエクウスの気遣いが嬉しかった。男性との口づけなど生まれて初めてのことだったので、エクウスを拒絶しているわけでもないのに、体が自然に震えてしまった。

 気を悪くされたのではないかと、羞恥と後悔で思わず下を向いてしまった私に、エクウス様は優しい声をかけてくださった。

 エクウス様の妻として誠心誠意尽くしていこうと、リリアージュは心に誓った。


 幸せそうなエクウスとリリアージュの姿を見て、メディウム男爵家の家族たちは胸を撫で下ろし、二人の幸せを心から願っていた。

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