26話 峠の景色
慰霊碑は街道に近い高台にあり、太陽の光で緑が眩しく、壮大な景色が眼下に広がっていた。
エクウスとリリアージュをはじめ、シエルバ伯爵家の使用人たちも、死者を想い、目を閉じ右手を胸にあて頭を垂れていた。
風で木の葉が揺れる音、微かに聞こえる湧き水の音、鳥のさえずりが聞こえる。少しの間ここで、静かで穏やかな時間を過ごした。
夕方までには伯爵家に到着する予定になっている。
エクウスは馬車の中で、幼少期の頃の両親との思い出や、伯爵夫妻のことを話してくれた。
リリアージュはエクウスの話を興味深く聞いていた。
リリアージュが聞き上手であったため、エクウスは十歳以上年下の彼女に、精神的に依存しつつあった。
他人に弱みをみせることを極端に嫌っていたエクウスは、両親が亡くなってから、身の上ばなしなどをしたことがない。それは今までの妻たちにも同様であった。
しかしリリアージュの前では何故か饒舌になり、話をしていて気分がよく、心の安らぎを感じていた。
シエルバ伯爵家には予定どおりの到着となった。
「旦那様、奥様、おかえりなさいませ」
リリアージュは、本邸の使用人たちの出迎えに少しの懐かしさを感じていた。
リリアージュは湯浴みと食事を済ませると、旅の疲れもあり、強い睡魔を感じてそのまま自室で就寝していた。
充分に睡眠を取ることができたリリアージュは、体調も良くいつもより早い時間に目が覚めた。
ひとりで夜着を脱ぎ、自分で着られるデイドレスに着替え、買ってきた植物図鑑をテーブルに広げ、興味深い部分をノートに書き出していた。
「奥様。おはようございます。直ぐに洗顔のお湯を用意いたします。身仕度を整えさせていただいた後、食堂にご案内いたします」
「ありがとう。お願いね」
食堂に案内してもらうと既にエクウスは席に着き、執事と執務のことで話をしているようだった。
「エクウス様、おはようございます」
「リリアージュ、おはよう。朝食の後で庭を散歩しないか?」
「はい。エクウス様とのお散歩は楽しみです」
朝食を終えるとエクウスは、リリアージュをエスコートして庭に出た。
庭の奥まで来ると、整備中なのか、まだ何も植えられていない場所があった。
「リリアージュ。この庭は君専用の庭だ。君が買ってきた花の種や苗木を、好きなように植えるといい」
「えっ。まぁどうしましょう。···エクウス様···わたくしとても嬉しいです。あ、ありがとうございますっ」
エクウスの言葉に感激したリリアージュは、少し声が上ずってしまい、顔が真っ赤になってしまった。
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