24話 王都から伯爵領へ

 王都滞在の第一目的である、王宮で王様や王太子との謁見も無事に終わり、王都の縁戚や取引先の挨拶回りも予定どおり済ませ、エクウスとリリアージュはシエルバ伯爵領に帰ることになった。

 帰りの道中は少し進路を変え、行きとは違う別の街に宿泊することになっている。

 往路で立ち寄った街で買い物をした物は、馬車が手配され、既にシエルバ伯爵領に向かっている。


 この街でもリリアージュは目を輝かせ、植物の苗木や花の種を買い込んでいた。買い物に同行していた侍女は、相変わらずつまらなさそうな顔をしていたが、リリアージュは気づいていない。

 庶民が利用するような本屋にも立ち寄り、流行りの小説や動植物の図鑑などの購入もしていた。

 今回の支払いも、経理担当者から預かっているお金の殆どが残っている。


 帰りの馬車の中で、望んでいた物が手に入り楽しそうに話しかけてくるリリアージュを見ながら、エクウスは目を細め相づちを打っていた。

 エクウスはリリアージュを喜ばせるために、王都から伯爵領の執事に手紙を送り、邸の1階にリリアージュの部屋を整え、部屋から出入りできる彼女専用の庭を造るように命じていた。


 リリアージュの負担にならないように、予定より多めに休憩を取ったせいで、最後の宿に着くのが遅くなってしまった。

 エクウスは馬車の移動には慣れているが、リリアージュは外出することが少なく、馬車に乗り慣れていない。エクウスはリリアージュの負担を少しでも減らしたかった。


「エクウス様、夕焼けがとっても綺麗ですわ」

 宿に着くのが遅くなり、お腹も空いているだろうリリアージュは、馬車の外の景色にうっとりとした顔で話しかけてきた。

「ああ、綺麗だな」

 エクウスは全く不平不満や我儘を言わないリリアージュが不思議だった。


 エクウスの知っている貴族の令嬢は、細かいことですぐに不満をもらしていた。

 今回の王都行きにしても、日数がかかり過ぎるとか、馬車に乗る時間が長いとか、食事の時間とか、食材や味付けがどうとか、宿の格式だとか、細かいことやどうしようもないことに文句が多すぎた。貴族の女性はみなそういうものだと思っていた。


 ──ぐぅ~

「申し訳ございません」

 お腹が鳴ったリリアージュは、小さな声で言うと真っ赤な顔で俯いてしまった。

「わたしもお腹が鳴らないだけで、空腹だよ。もうすぐ宿に着くだろう。君のお腹が正直なだけだよ」

 と言ってエクウスは優しい笑みを浮かべ、リリアージュの頭を優しく撫でた。


 リリアージュは「はい」と言ってにっこり笑った。

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