19話 謁見の準備

「奥様、お気に召しましたか?」

 リリアージュの感嘆の声にエクウスは、からかうように囁いた。

「ええ、旦那様。とても素敵な所ですね」

 リリアージュは満面の笑みで返事をした。

 エクウスのエスコートで馬車を降り、改めて邸を見上げた。


「旦那様、奥様。お帰りなさいませ」

 玄関ホールに入ると使用人たちが揃って頭を深く下げ、挨拶をしてくれた。

 エクウスが先頭に立つ執事に向かって、

「妻のリリアージュだ」

 と、紹介をしてくれた。

 リリアージュは胸を張り、

「リリアージュです。よろしくね」

「奥様。何なりとお申し付け下さいませ」

 執事は胸に手を当てて頭を下げた。


 邸の中は豪華絢爛というわけではなく、調度品は洗練された上品な物ばかりだった。美術品に目利きがなくても、一つ一つがとても高価な品物だということは直ぐにわかる。

 リリアージュは格式高い伯爵家のタウンハウスに圧倒され動揺していたが、伯爵夫人としての矜持を持ちゆっくりと歩き、使用人の案内で自室となる部屋に向かった。


 シエルバ伯爵領の邸と同じで、リリアージュの部屋には内扉があり、扉の向こうは夫婦の寝室になっていた。

 リリアージュの部屋にも一人用のベットがあった。明日の王様との謁見に備えて、今日はゆっくり休みたかったが、湯浴みを手伝った侍女たちに、夫婦の寝室に行くように促された。


 最高級のシルクで作られたナイトドレスは、領地の物と同じで、軽くてとても肌触りが良かった。

 化粧品や香油も王都で手に入る最高級の品物のようだった。香りが爽やかで肌によく馴染み、しっとりとした質感になった肌は、自分が触れても触り心地が良かった。


 先に寝室にいたエクウスはリリアージュを気遣い、

「今日は早めに休もう」

 と、言ってくれた。

 リリアージュはほっとしたが、心の中では残念な気持ちが残っていた。


 リリアージュは翌日、侍女たちに日が昇る前に起こされ、湯浴みと全身のマッサージなど、王様との謁見に向けての準備が始まった。

 伯爵夫人としての挨拶のため、リリアージュにはローブモンタントが用意されていた。

 薄いグリーンのシルクの生地に、銀糸で大輪の花がいくつも刺繍されてあった。グリーンはエクウスの瞳の色、シルバーは髪色だった。


 大輪の花の回りには蔦を模した刺繍とともに、無色透明のラインストーンが散りばめられてあり、動きとともにキラキラと輝いていた。

 髪はアップスタイルで、髪止めには大きなパールが使われていた。

 ネックレスとピアスもパールで統一されていた。

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