22話 王太子との対面

「王太子殿下。まさか今日お会い出来るとは思いませんでした」

 エクウスがため息混じりに呟いた。

「エクウスが王宮に来ていると聞いたら顔ぐらい出すさ。夜会では伯爵家以上の家格の娘に会うことしかできないから、奥方の顔も見たかったし。それで?新婚生活の方はいかがかな?」


「はい。仲良くやっていますよ」

「それだけ?」

 エクウスの簡単な返事にラルフレットは納得いかないようだった。

「シエルバ伯爵夫人はどうなの?」

「はい。エクウス様にはとても良くしていただいています」

 頬を少し赤らめながらも、しっかりとした受け答えをしたリリアージュに、

「ふーん。本当に仲が良さそうだね」


 ラルフレットは口角を上げ、エクウスの方を見ていた。

「王太子殿下。執務の方はよろしいのでしょうか?」

 エクウスが焦った口調で問うと、

「ああ。そうだね。伯爵夫人にも会えたし執務に戻るよ。エクウスの珍しい表情も見られたし···ねっ」


 ラルフレットはエクウスを見ながら、終始にこやかな顔で応接室を出ていった。

 王太子殿下は陛下と同じ金色の髪で、瞳は透き通るようなアイスブルーだった。

 王家では不思議なことに、多少濃淡はあるが、子息は代々金色の髪とブルーの瞳が受け継がれていた。


 国王陛下と王子たちは、近衛や騎士団と合同で行う鍛練が日課で、中性的で穏やかな顔つきにも関わらず日焼けのせいで精悍に見える。

 執務の多い彼らにとって、近衛や騎士団との鍛練は息抜きと、体力作りに欠かせないものとなっていた。


 騎士団長とエクウスの父親が従兄弟にあたるため、エクウスは学生の頃に王太子とともに何度か鍛練に参加したこともあるようだった。

 鍛練においては身分の差は関係なく、騎士団長や近衛指揮官は怒号や叱責に遠慮がない。

 エクウスは背が高く体躯も良い。見込みがあったのか厳しく指導されていたようで、鍛練に参加するのが嫌だったらしい。


 リリアージュはエクウスの話を真剣に聞いていた。

「シエルバ伯爵様。この後に予定がなければ陛下が晩餐を一緒にと、言われておりますが?どういたしましょう?」

 王宮の案内人がエクウスに声をかけた。

 エクウスとリリアージュは顔を見合せ、二人が王宮に滞在する予定の時間が大幅に過ぎていることに驚いた。


「陛下のお誘いをお断りするのは恐れ多いが、他にも挨拶に伺う予定があるので、遠慮させて頂くと伝えてもらえないだろうか」

「かしこまりました」

 エクウスの返事を聞き、王宮の案内人は頭を下げ応接室を出ていった。


「リリアージュ。直ぐに伯爵家に戻ろう」

エクウスはリリアージュにだけ聞こえる声で言うと、二人は早い足取りでまっすぐ王宮の出口を目指した。

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