23話 王宮からの帰り道

 エクウスとリリアージュは伯爵家に帰るため馬車に乗り込んだ。

「エクウス様。国王陛下のお誘いをお断りしてもよかったのでしょうか?」

 不安そうな顔のリリアージュに、

「たぶん晩餐の席では君とのことを執拗に聞かれ、陛下や王子たちに揶揄されるに決まっているだろう。···俺は耐えられない」

 と、エクウスは右手を額にあて、俯いて答えていた。


 リリアージュは「まあ」というと、両手を頬にあて真っ赤な顔で俯いた。

「君も初めて王宮に行き、緊張して疲れただろう?伯爵家に帰り軽い食事をして、早めに休んだ方がいい」

「ありがとうございます」

 馬車に乗り込んでから極度の緊張が解けていき、疲れを感じていたリリアージュは、エクウスの優しさに甘えることにした。


 伯爵家の邸に着くとリリアージュはそのまま自室に行き着替えの後、軽く湯浴みを済ませた。

「奥様、お疲れさまでした。お食事をお持ちしますので、しばらくお待ち下さいませ」

 侍女はエクウスの指示通りに手早く動き、部屋に食事を持ってきてくれた。


 侍女がワゴンで運んで来てくれたのは、暖かい野菜のポタージュスープと柔らかなパン、チキンのソテーと付け合わせの温野菜、季節のフルーツがたくさん入ったゼリーだった。


 リリアージュは最初にポタージュスープをいただくことにした。

 濃厚そうに見えたスープは口当たりが良くあっさりとした味で、パンは外側は硬めで中はもちもちして柔らかく食べごたえがあった。

 チキンはハーブの香りと黒胡椒の味が絶妙で、付け合わせの温野菜はコンソメで炊きあげたのか、フォークで潰せるほど柔らかく、後味は野菜独特の青臭さがなく、塩味が丁度よかった。


 季節の果物をたくさん使ったゼリーは、過度な甘さを加えずに、果物本来の甘味であっさりと仕上げてあった。

 食後に紅茶と一緒に食べていると、急に睡魔が襲ってきた。


 シエルバ伯爵領本邸の料理長の料理も味付けは最高だったが、王都のタウンハウスの料理長の腕も抜群だった。

 本邸とタウンハウスとの連携で、料理の好みが反映されているのか、リリアージュは大満足で完食していた。


「料理長にとても美味しかったと、伝えてね」

 リリアージュは食器を片付ける侍女に、料理長への言伝てを頼んでいた。

「料理長に伝えておきます」

 侍女は頭を下げ、微笑みながらリリアージュの部屋を出ていった。


 リリアージュは少し悩んだが夫婦の寝室でなく、自室のベットで休むことにした。

 夫婦の寝室からリリアージュの部屋にそっと入って来たエクウスは、リリアージュの頬にかかった髪を指ではらい、優しくキスをした。

「おやすみ。リリアージュ、いい夢を」

 そう言うと、エクウスはリリアージュの部屋から夫婦の寝室に帰っていった。

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