第27話兄の努力をおかずにしてする努力は最高だ
黒子より義刀とアクフが刀を持って下山したことが報告された。その為、刀次は義刀が持っている刀が本物かどうかを確認する必要があったので、甲虎城に義刀を呼び出した。
「父様。こちらが某が見つけた〘
そう言いながら義刀は〘
「ふむ……。」
代々〘
因みに刀身を見て本物か見分ける方法の中身は竹戸の王か王になる者以外は知られないようになっている。
まず、刀次は義刀が持って来たものが本物であるかどうかを、鞘などの部分を見てじっくり確認する。
この間、義刀は(武器を見る目があるアクフ殿が、大丈夫と言っていらしゃったか大丈夫だとは思うが……やはり緊張する。)などと考え手に汗握っていた。
それらを確認して何も問題ないことを確認した後は、本題である刀身を抜刀して見る。
「ふむ……!」
刀身には緑の中に光る黄色があった。
「義刀。本物の刀には緑の中に発光する黄色が存在するが、これにはそれがある。よって義刀。お前は試練達成だ。それと、〘
「っ……!ありがとうございます!」
義刀は喜びを噛み締めながらお辞儀をする。
「この試練を乗り越える事ができたのであれば、『
「はい!有難うございました!」
刀次はほのかな笑みを浮かべていた。
――
その後日。義刀が試練を達成した記念に宴が開かれた。当然、義刀と共に参加していたアクフも出席する流れとなった。
そして、今は宴の真っ最中。他の人は集団で酒を飲んでいる中、挨拶などの会話を一通り終えた義刀とアクフは少し離れた場所で二人で楽しんでいた。
「アクフ殿!竹戸自慢の酒輝夜はいかがですか?とても美味しいですよ!」
「うーん、俺は酒のんだこと無いからなー、ちょっと抵抗あるかな。」
アクフは絶賛酒を飲むか飲まないかを迷っていた。
(でもここは飲まないと失礼に当たるのか?)
「おや?アクフ殿は15未満でしたか?」
「多分今年で17だ。」
「でしたら躊躇うことはないでしょう?」
(まぁ、一応年齢的には飲める年だけど、今まで飲んでこなかったからかなり抵抗があるかなー。うーーーーーーん。まぁ今後仕事の付き合いとかで飲むこともあるだろうし、これも一つの経験だと思って飲むか。)
「なら一つ貰う。」
「はい、今注ぎますね!」
その言葉を聞いたアクフは義刀の御酌しようとする手を止めた。
「自分で注ぐから大丈夫だ。それにしても、王族が俺みたいな他国の平民にそんな態度で大丈夫なのか?」
「えー、それにつきましては普通はこうではありません。ですが、アクフ殿は某の命の恩人ですし、師匠でもありますからこの態度でやってます。この国の慣習として受けた恩を仇で返すべからずというものがあるのですが、国民の模範となる為王族が率先してやっている感じですね。」
「それじゃ、人生初の酒を飲むか。」
アクフは竹製のコップに一滴もこぼさないよう慎重に注いで、口に運んで一気に飲んだ。
喉を通りいに入った途端、アクフの意識はガクンとふらつき体もふらつきだす。
「なんふぅあこぉれあふぁまがくらくらするぅ。」
その様子を見て義刀はアクフに駆け寄る。
「アクフ殿!アクフ殿!」
(輝夜は竹戸産の酒の中でもとりわけ酔いにくい酒なはずなのにアクフ殿が酔ったような状態になるのは明らかにおかしい。つまり……。)
「………誰だ、アクフ殿の酒を毒を持った不届き者は!」
その場全員が聞こえるように叫ぶ。
叫びにいち早く反応したのは警備部隊弐だった。
警備部隊弐はアクフの体に触れて安否を確認しだす。
「警備部隊弐。アクフ殿は無事なのか?」
「少々お待ちを、我々も詳しく見ないと何も言えませんから。」
それからしばらく警備部隊弐による診察が続き、場が少し凍りついた状態でアクフの安否かどうかの診察を全員が見守っていた。
「……あの、大変申し訳無いのですが……。」
「まさか、もう助からないのか!?」
「いえ、これなら明日には治っているでしょう。これはただ酔っただけの状態です。」
「それは良かったが……、しかし、アクフ殿が飲んだのはとりわけ酔いにくい輝夜だったはずだ。しかも一杯しか飲んでいないのだぞ、酔っぱらうなんて早々無いはずだ。」
「それはですね、竹戸の酒は全体的に他国の人からしたら酔いやす過ぎるんです。だからアクフ様が酔うのもごく自然なことです。」
因みに輝夜はアルコール度数25%である。そして一番酔いやすい酒となると96%にもなるのだ。義刀はその一番酔いやすい酒をガバガバ飲んでいた。
「そうか、某の知見の不足で取り乱してすまぬ。下がって良いぞ。」
「「「「「はは!」」」」」
返事をした後、警備部隊弐は速やかに下がった。
その後はアクフが泥酔してしまった事件の為空気が盛り下がり、数時間後には終わった。
――
アクフ泥酔事件後の昼下がり。
アクフと義刀はいつも通り日が燦々と照りつけ緑色に輝いている竹林で鍛錬をしている。そんな二人を高い所から見つめる者が一人。
(兄の努力をおかずにしてする努力は……………最高だ。)
一見世迷い言としか思えない事を思っているのは竹戸始まって以来の天才、想護 刀家その人であった。
そんな刀家は塩分をふんだんに含む竹戸特産の竹茶を啜った後、自分も刀を振り出した。
何故竹戸始まって以来の天才である刀次がこうなっているかといえば、義刀の影響が強い。
刀家は生まれてから自身の類稀である才能のお陰でどんな事もほんの少し頑張れば上手く行った。最初のうちは褒められたりして嬉しくやる気に満ち溢れていたが、少し時が経つと上手く行けば行く程心は、どうしょうもないくらいに大きい虚無感で包まれる様になっていった。
そして『
その時、刀家の心は完全に虚無感で包まれてしまい、一人の時ぽつりと
「この世は僕には退屈過ぎる。」
という世界に希望を持たず意気消沈したものだった。刀家の生きる理由は簡単には打ち破れない困難を打ち破ることだったのにそれが無くなった為である。
刀家の生きる理由は簡単には打ち破れない困難を打ち破り、達成感を得ることだったのにそれが無くなった。その為、そこからの刀家は最低限の努力だけして、新しい他人から与えられる困難が立ちはだかるまで惰眠を貪るような生活になってしまった。
刀次からは少々心配な目で見られ母親からは子とも心配されていた。しかし、そんな生活を続けていると七歳の時にターニングポイントが訪れる。
それは散歩途中に当時12歳であった義刀の鍛錬を見たことだった。
当時の刀家は子供ながらに義刀が出来損ないであることを知っていたのだ。だから、余程才能がなくて努力もしてないんだろうと思っていた。
だが、それは違った。
義刀はただ単純に才能がなかっただけだったのである。だがそれでも挫けず、躓いても何度も何度も立ち上がる固い信念が宿った努力をしていた。
この努力に刀家は惚れた。それと同時に、(自分よりも格段に才能がない兄上がこんなにも素晴らしい努力しているのに兄上よりも才能がある私が努力しなくてどうする。)とも思った。
この時から刀家は"他人から与えられる困難"が来るのを待つのではなく、"自分から自分に与える困難"考えて乗り越えようと考えた。
その日から刀家はバレないように義刀を見ながら努力できる場所を作り"自分から自分に与える困難"をこなすようになった。
と、そんな過去があり今になって思ったのが、(兄の努力をおかずにしてする努力は……………最高だ。)というものであった。
(それにしても最近来たらしいアクフ?だったか、兄者の努力は素晴らしく全世界から称えられるべきものだ。邪魔しない内はよいが、邪魔をするのであれば排除するか。)
刀家は自ら溢れる殺気を隠さずアクフにぶつける。しかし、素振りの気が散ると思い殺気を抑えた。
そして、鍛錬の一部である素振りをする為に刀を構え前方に真っ直ぐ振り下ろす。
これのお陰ででここ数年でそこそこの新技開発が出来ていたのだ。さらに目標も出来ていたのだ。
その目標とは義刀にいつまでも素晴らしい努力をさせることだった。
刀家自身、義刀は時間はかかりはするが、必ず『
『
今開発できている技は『神殺し』、『鬼殺し』、『邪殺し』、『魔殺し』の4つだ。名前がワンパターンかつ仰々しいのは年頃なのと刀家にネーミングセンスの才能を持たないからである。
(まだまだ兄上にいつまでも努力してもらうには少なすぎる。よし、今日も精進しよう。)
というわけで刀家は今日も兄の努力をおかずにして努力することに励んでいた。
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