王暴の魂塊譚

大正 水鷹

傭兵編

第1話空から落ちし武の恵み

 ここは大国エジプト、何故この国が大国たり得ているかというとこの国の10人に1人は持っている技能、魂塊こんかいのお陰だ。


 魂塊とは。

 

 通常この世に溢れる生きる魂は体に固定されているが、死ぬときそこから抜け出し魂の一部は抜け落ちて転生している。


 その魂の抜け落ちた部分を集め塊にし北欧で言う妖精みたいにし、物に擬態させたり、物に纏わりつかせる事ができる技能だ。 


 各国から様々な人々が集い商売などをしているエジプトの首都カイロからそこそこ離れた場所で、ある青年の日常が害される出来事が起こった。


 それは若くして一人暮らしをしている青年……アクフが外出している時に隕石が落ちてきたのだ。


 その隕石よる被害はかなり大きく、街から離れた場所にあるアクフの家を破壊し、とても大きいクレータを作った。


「はぁぁぁ!どうして、こうなったんだろう?」


 アクフの足元には、様々な粉々に砕け散っている武器と家の残骸が散乱していた。

 

『キュゥゥ……。』 


 アクフはイルカの姿をしており、魚の女神ハトメヒトを模した魂塊。名前はバファイと残骸の中、粉々に砕け散っている武器の回収は諦め、砕けた隕石を他人に盗られないうちに回収した。

   

 アクフは後日、バファイと共に砕けた隕石の一部を残して、ファラオに献上し、褒美として家を立て直して貰えることなった。


 だが、アクフには家族がいない、しかも頼れるような人もいない為、その間に住む家を探さないといけなくなってしまった。


「取り敢えず、近くの地域で住み込みの傭兵募集していたから、そこにしばらくいるか。」  


 因みにアクフの両親が、大王国エジプトに並ぶ国家スパルタに攻められて、殺されている過去を持つ。


 アクフは傭兵募集している地域に行く前にファラオに献上したとき、残した一部の隕石の一部を行きつけだった鍛冶屋に依頼して、貯金を切り崩し、隕鉄の剣にした。


 アクフは傭兵募集している地域に一週間かけて移動した。


「よう、俺は、軍団長のサビテニだ、お前が今回の傭兵募集を見て、来てくれた奴か?」

 

「はい、俺の名前はアクフで、こっちにいる魂塊がバファイです。」


『キュュュ!』

 

 サビテニがバファイを見る。続いて、アクフが持っている隕鉄の剣を凝視し、少し驚いた。


「アクフお前、隕鉄の剣なんて持っているという事は金持ちなのか?」


「隕鉄の剣になにか特別な価値がありましたっけ?」 


「アクフ、急で悪いがお前のバファイの能力は何だ?」 


「半径10メートルの範囲を調査できる能力『探知サーチ』です。」


「なら、その『探知サーチ』の範囲が何倍かに広がる、一応、もっとわかりやすく言うと魂魂の力が引き出される。」


 因みにこの世には隕鉄以外にも魂塊を強化できる素材が後2つ存在する。

 

「そうだったんですね!すいません、もこの隕鉄の剣は俺の家に降ってきて、破壊した隕石の一部なんですよ。」

 

 アクフは自分の腰にしまっている、隕鉄の剣を見て言った。 


「それで、家がなくなったからここに来たと、アクフも災難だったな、せめてここの兵団では歓迎しよう。」


「ありがとう御座います!」


『キュュュ!』  

   

 ――


 アクフが駐屯所を見渡すと数十人の兵士がいた。


「全員そこら辺の敵兵の百人だったら、一人で相手できる精鋭達だが、スパルタ等の大国が攻めてこないとも限らない。という事で、アクフの様な傭兵を雇った訳だ、傭兵と騎士の間で色々あるかもしれないが仲良くしてくれ。」


 そう言い残してサビテニは去っていた。   


 アクフは早速、服装等で目立っていた兵士に接近した。

 

「こんにちは、これから一緒に戦う機会があるかもしれないので、自己紹介しようと思いまして来ました、名前はアクフです!前までは親の仕事を継いで、大道芸人をやっていました!後、俺の魂塊は水の神ハトメヒトを模した魂塊のバファイです!」 


「それはどうも、俺の名前はソルバだ、相棒は冥界の神アヌビスを模した魂塊、ワヒドだ。」

 

 ソルバの隣に十字架などの金色の装飾品を着ている魂塊、ワヒドが現れた。

 

『ワフルッ!』 


「さっき団長から聞いたと思うが、ここの団長補佐だ、よろしく。」


 ソルバが明らかにアクフに向かって嫌な顔をしながら、挨拶+自己紹介を終えた。


 その後、アクフはソルバと雑談しようとしたが、ソルバに先程と同じ嫌な顔でのらりくらりと躱された。


 アクフは残りの兵士と似たような会話をして、与えられた自分の部屋に戻り剣の修行を始めた。

 

 それから、アクフは一ヶ月の間、傭兵としての仕事と食事の時間以はずっと剣の鍛錬していたが他の傭兵との交流がないわけで無かった。


 傭兵仲間のナワマとの交流があった。


 その交流とは食堂で出てくる料理について話すだけだったが、確かに二人の間には友情があった。

 

 その姿を兵士達に見られて兵士達中のアクフの評価は上がっていった、そんな日状態に異常が起こった。


 エジプトの周辺国が攻めてきたのだ。  


「おい!お前ら、今すぐ戦の準備をしろ!」


 焦り気味にサビテニが言うと、詰め所にいた全ての兵と傭兵が武器を取って出陣する。


――


 斬撃音と血の匂いが混じり合う戦場でアクフは踏ん切りが付かずにいた。


(想定はしてはしていたんだが、想像以上だな。)


 アクフは元々大道芸人だった為、首を取るのではなく、笑いを取る生活をしていたので人を殺す事の踏ん切りが容易につくはずもない。   


 だが、近くによってきて剣を振り回し、アクフを殺そうとしている兵士の攻撃をよ

けつつ周りを見渡す。


 そして、アクフの目に写ったものは傭兵としての一ヶ月間で食事の時間に知り合い意気投合した、友ナワマの首が転がっているのを見た。


 アクフはナワマの生首を見て、少しだけ動揺した。


 (うっ、ナワマ…お前が死んだのか。ナワマのだけは死なないと思っていたが………、いや、ここは戦場であって町中じゃない、決めるんだ、ナワマの意思を継ぐ為に人を殺す覚悟を。)


 次の瞬間、アクフは抵抗を感じながらも自分を殺そうとしていた兵士の隙を見計らい、隕鉄の剣で切った。  

 

 (血なまぐさい、返り血が酷い。これが…人を殺すということか。正直なところ、もう二度と味わいたくはない感覚だが。この兵士を殺さないと、この街に住む人が俺の親のように死ぬかも知れない、なんの罪もない人が!理不尽に死んでいい道理は、ない!!!)


 アクフはバファイを纏わせている隕鉄の剣を構え、前え前えと進んでいく、アクフに攻撃しようとした兵士を斬り伏せながら。


 進んでいく。


 この世界では魂塊等を使える兵士と使えない兵士では天と地ほどの差がある。


 それはなぜか、理由は基本的に身体能力向上がある為、更に個別能力もあるが、それにより、普通の兵士より強い一撃が実現できるのだ。


 その身体能力向上によりどんどん魂塊を持たない兵士を倒していく。


 だが、かなり進んだアクフの目の前には、魂塊持ちの敵将がアクフに突進してきた。   


 その敵将が持っていた、魂塊のモデルはせみだった。


 そして、敵将が魂魂を纏わせた剣をアクフに振りかざす。


 それをアクフはギリギリのラインで、バファイを纏わせた剣で応戦する。  


 敵将が、魂塊が個別能力を発動させたのか、持っている剣から轟音が鳴り響く。


「くッ!」


 その轟音により、アクフの両耳の鼓膜が破れた。


 アクフは五感の一つを奪われたことにより、シーンとした感覚に襲われ、先程と違った感覚に戸惑い。


 隙を生み出してしまった。


 その隙をつかれて、アクフの腕に深い傷が入る。


 アクフはこの状況を解決できる方法を探す、が、何も見つからない。 


 その後、バファイの『探知サーチ』で、奇襲してくる敵を敵将の隙を見計らって返り討ちにした。その後、増援してくる味方は上手く連携をとりながら、敵将にダメージを与える。  


 そして、増援してくれた味方と奇襲してきた敵が両方地面に生首になって転がっていた。


 アクフは既に体中が傷だらけになっていた。


 だが、腕が痛くても。


 足が疲労で千切れそうでも。


 それでも、戦闘は終わらない。


 そんな、戦いはこのまま行けば、間違いなくアクフが負ける。


 追い詰められもう後が無い。急いで傷を止血しないと。


 ………たとえ、勝ったとしても、死ぬ。


 (だめだッ、このままでは、集中がとけそうだ。だが、駄目だ!せめて、ナワマをミイラにするまでは!死ねない!あっ。)


 一瞬、走馬灯が通り過ぎる。そして、アクフは瞬間的に行動に移した。 


 まず、アクフは隙を見つけた。


 だが、この機を逃せば、もう二度と来ないであろうと、決死の覚悟を決めて。そして、敵将の首に必死の一撃を与えた。


 その一撃は、敵将の首にするりと入っていき、ジグザグと不規則に切り刻んだ。


 敵将が絶命する前に、「まさか、お前、神を模した魂塊を持っているな。」と残して、逝った。


 アクフは切り裂いた敵将の生首を持ち上げ。


「敵将、討ち取ったぞー!」


 と雄たけびを上げる。


 その雄たけびに触発され、辺りの味方の傭兵の士気が上がった。          


 アクフは急いでそこら辺に落ちている布を拾い、傷が深いところを縛って止血する。


 その後は、トントン拍子に物事が進んでいった。


 団長補佐のソルバが他の将全ての首を取り、敵兵を捕虜にし一時的に防衛戦争は落ち着いた。 


アクフは駐屯地の寝床に戻り、寝た。


――


「おーい!アクフ、生きているかー!」


 アクフは誰かと思い、目を開けると、魂塊のワヒドを出している、ソルバがいた。


「ソルバ団長補佐?何か用ですか?」


 (何か、防衛戦争でなにか失礼な事でもしてまったか?唯一覚えがあるのは、俺が敵将の一人の首をとった事だけだが。)  


「アクフ、お前凄いな!入って一ヶ月の訓練で敵将の首を取ったそうじゃないか。」

    

「ありがとうございます、用事はそれだけなんですか?」


 アクフは特に罰せられることではなくてホッとした。

 

「そうだな。アクフ傷を見せてくれ。」


「はい、わかりました。」


 アクフは止血するために体に縛っていた布を解く。多少血は出たが大方止まっていた。


「よし、やるぞ。」


 そう言い、ソルバがワヒドを十字架に変えてそれを持ち詠唱し始めた。 


「汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!」


 そうかなりゆっくり言い終わると、アクフの傷徐々に塞がる。


「しばらくしたら完全に傷が消えるから、安静にしていろよ。」


 そう言いソルバはワヒドを元に戻し部屋から出ていった。


「有り難いな、こんな俺でも労いの言葉を…ォウェ!」


 アクフは吐いた。その嘔吐物には、アクフが兵士を殺したことによる罪悪感、ナワマが近くにいて危険な状態だったのに助けられなかった無念が詰まっていた。     


 アクフはその日はずっと吐いていた。


 次の日。


 (嘔吐はしなくなったけど、頑張って理屈で心を落ち着かせようとしても、心はそれについていかない。もっと最善の手があったかもしれない、でも、理想と現実は違う。何とか起き上がらないと。)


 アクフは自身の気持ちを誤魔化すように、無理やり寝床から体を起こした。   

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