第2話何度も立ち上がる
アクフが寝床から無理やり起き上がって数時間後、ソルバと剣を打ち合っていた。
何故なら、以前の様な防衛戦争が起こるかわからないので、敵将との戦いで死にかけの時に出てきた謎の剣技を自分のものにしようと、まずは格上のソルバと刃を潰してある練習用の剣で模擬試合を頼んだ。
その結果、「俺は今はやることがないから、全力でかかってこい。」と快く了承された為、今に至る。
「はぁぁ!」
アクフが全身全霊の一撃をソルバに向ける。
「よっと。」
だが、その全身全霊の一撃も、歴戦の団長補佐であるソルバからしたら、避けるは、容易い。
その後、反撃として、ちょっとした一撃をアクフの躰に叩き込むと、アクフは少し宙をまい地面に倒れ込んだ。
駐屯地にいる普通の者であれば、この一撃を食らえば、打ち合いを終了するか、または中断するだろう、だが、アクフは違った。
「もう、一本、お願いします。」
「わかった。」
因みに、これで模擬戦は通算五百回の大台を超えていた。
アクフは先程の攻撃を参考にして、まず、できる限りの距離を取り、ソルバの軽く打ってきた、一撃を剣で受けつつ、機会を待った。
だが、その機会はなかなか訪れない。
そうしていると、ソルバが攻撃を仕掛けてきた。
アクフはガードしようと剣を構えた時、記憶が蘇る。
それはアクフの両親がまだ生きていた時の話。
アクフはまだ幼く、言葉もあまり覚えていない状態で大道芸人だった筈の親から剣を習うというものだった。その記憶では幼いアクフが敵将を切り刻んだ剣技を練習していた。
その記憶がアクフの体に流れ込み、体を動かす。
(わかったぞ、あの剣技のコツのすべてが!)
その動きは、戦場で敵将に放った一撃よりも洗練されていた。
そして、ソルバが少し驚きつつも、避けようとすると、普通ならしないであろうこと、即座に斬撃の軌道を変えたのだ。
これにはソルバも対応しきれなく、一発もらってしまった。
だが、一撃を撃つために近づいていたアクフにカウンターの一撃をお見舞いしてアクフを再び、ふっ飛ばした。
「アクフ!さっきの一撃は良かったぞ!……って気絶しているな。」
そう言いつつ、ソルバはワヒドの形を変え、アクフの傷と自身の傷を直した。
「誰か!アクフを運ぶのを手伝ってくれないか!」
――
(何だ?俺は前までソルバ団長補佐と模擬戦をしていたはずだが、今は寝床の上に寝ている、さっきまでのは夢だったのか?)
そうアクフが考えていると、部屋の外から兵士がくる。
「大丈夫か?と言っても、直したのが団長補佐の魂塊なら心配はないが。」
「そう言えばなんで、ここに来たんですか?」
「ああ、ソルバ団長補佐が『これから用事があるから、アクフの面倒は見られないということで、見込みがあるアクフには教育係をつける、仲良くな。』と伝言を頼まれたので伝えに来た。」
「それは、わざわざありがとうございます。」
「それと、明日くらいにここへ来るから、覚悟しておけよ、あの方は見た目はあれだが、結構過激で、【鬼槍】の二つ名を持つ方だからな。」
そう言い、兵士は寝床から出ていった。
(ソルバ団長補佐が有り難いけど、【鬼槍】という二つ名がある人って、どんな人なんだ?)
「私が今日から未熟な貴方を鍛えに来た【鬼槍】デオルです。」
デオルの見た目は褐色のポニーテール、綺麗な女性で、にこやかな顔をしていたがその顔からそこはかとない、威圧感を放っていた。
アクフはその威圧感でデオルが何故【鬼槍】と言われているのか察した。
「アクフです!よろしくお願いします。」
「よろしくお願いします、それでは、早速ではありますが貴方の実力を測るために、打ち合いをします。」
そう言い、持っていた荷物の中から木剣を取り出し、アクフに木剣と防具を投げ渡した。
「ああ、安心してください、私は【鬼槍】なんて二つ名がついているので、槍しか使ってないと思われがちですが、一応剣はそこそこ使えます、後、魂塊は使用しないで純粋な剣術を見ますので、魂塊は使わないでください、それでは行きますよ!」
アクフは貰った木剣を構え、デオルに打ち込もうとすると、デオルが余裕で避けて強めの一撃を与えられた。
その一撃でソルバの時よりも、遠くに吹き飛んだ。
「う!」
デオルは吹っ飛ばされたアクフのもとに行き、言った。
「もっと本気を出してください。後、ソルバ団長補佐に一撃を入れたそうですが、ソルバ団長補佐は手加減していました。ので、貴方が想像している以上にソルバ団長補佐は強いです。先の防衛戦争では、ほとんどの敵将を一人で殲滅していますし。」
「それでは、その手加減したソルバ団長補佐に一撃を与えた剣技を見せます。」
アクフは木剣を構えて、デオルに打ち込んだ。
デオルはその一撃を木剣で弾くと、アクフが腕に力を入れて木剣をデオルに向かって、再びかなりの速さで剣の軌道を変えながら振り下ろした。
その一撃は確かに防具をつけた、デオルに当たった。
「ここまで!」
そう言って、デオルが手元に持っている木剣で、アクフの木剣を叩き落として、デオル自身の木剣を地面に落とした。
「はっはっ、どうでしたか、俺の剣技は。」
「私に一撃を与えた剣術は、初見ではそこそこのものですが、他がソルバ団長補佐と鍛えて多少マシになっていますが、駄目ですね。」
「そうですか。」
「取り敢えずの選択ですが、貴方はそこそこ本気の私に一撃を与えた剣術を伸ばすか、その他を伸ばすか、どちらが良いですか?」
「得意を伸ばしたいので、そこそこ本気のデオルさんに一撃を与えた剣術を伸ばしてみます。」
「それと、貴方がどれくらい強くなりたいのか聞いておきます。」
「
「それは、大剣を持ったソルバ団長補佐ですか?」
「なにか含みのある言い方ですね。」
「そうですね、なにせ、ソルバ団長補佐の主力は大剣を使った『冥界剣』ですからね。」
「勿論、大剣を持ったソルバ団長補佐と同じくらいです。」
「そうですか、それではこれから利便性を考えて、私の事は師匠と呼んでください、後、私には私の考えがあるので、私の言うことはサビテニ団長やソルバ団長補佐に他の命名をされた時以外は遵守してください。」
「はい、師匠!」
「まず、ソルバ団長補佐と並び立つには、筋力が全然足りていませんので、場合によりますが、寝ないで腕立て伏せを千回してください。」
「はい、師匠!」
アクフは素早く地面に伏せ、腕立て伏せを始めた。
「1ッ、2ッ、3ッ!」
「あと、早めに終わった場合は反復横跳びでもしといてください。」
そう言い、デオルはなにかの準備のためにその場を去った。
一時間後、デオルが戻ってくると、アクフは腕立て伏せの回数をかなりの数を数えており、千ッ、という数字を汗をかなり出しながら、疲労の色をかなり含んでいるが、言った。
(よし、これなら最後まで音を上げずについて来そうですね。)
そう思いながら安堵と高揚の感情が混じった笑みを浮かべて、アクフ目の前にあるものを置く。
「アクフ、次はこれを食べてください。」
「師匠、これは、なんですか?」
「おや、アクフは見たことはありませんか?
「一応見たことはありますが、こうやって食事の場で見たのは初めてです。」
アクフの目の前には、煮込んであるが、案外昆虫の姿のまま大量に盛り付けてある料理があった。
「師匠、これを本当に食べるんですか?なにか間違えてはいませんか?」
「何も間違えていません。これは私の両親から習った筋力をつけるにはもってこいの料理です。もう一度言いますが、食べてください。」
アクフはかなり抵抗感を感じながらも食べた、頑張って、蝉と蝗の味をわからないように高速で口の中に入れ、胃の中に送った。
「師匠…食べ終わりました…」
「それでは、もう日も落ちたので寝てください。明日は腕立て伏せ二千回反復横跳び三千回と今日の食事を五回山盛りで食べてもらいます。」
「はい師匠、お休みなさい。」
そう言いった後、アクフは自分の寝床に戻りながら思った。
(そう言えば、このままずっと修行だと俺の傭兵としての仕事って、どうなるんだ?)
アクフはそう思いながら歯磨きをした後、寝た。
次の日、早朝。
「起きてください。」
アクフが今までで起きたことのない時間に起こされ、かなり眠たかったが、無理やり体を起こした。
「おはようございます…。」
「おはようございます、それではまず、これを食べてください。」
それは昨日アクフが食べた蝉と蝗の料理で、昨日よりも3倍の量があった。
それをアクフは昨日と同じようにかき込む。
アクフが食べ終わると、日が落ちるまで、蝉と蝗の料理と腕立て伏せ二千回、反復横跳び三千回のセットを五回繰り返したあと、寝た。
そして、そんな筋トレの回数を上げながら過ごす生活が何ヶ月も続いた。
だがある日に、デオルが「そろそろ、筋肉の方はなかなかついてきたので、私に一撃を入れた技を磨きましょうか。」といい、その生活は終わった。
次に始まったのは、筋肉を維持するための軽い筋トレ(軽いと言っても数百回はする)と蝉と蝗の料理のセットとデオルによる座講だった。
「まず、戦場では一番気をつけたい事は魂塊持ちですね。魂塊持ちではない普通の兵士だったら、魂塊持ちの一般市民でも一対一なら鼻歌を歌いながらでも勝てますが当然、魂塊持ちの敵ならば話は変わります。敵の魂塊ちは大体敵将で少ないですが、かなりの数がいる場合もあるので、そこは注意してください。」
「はい、師匠!質問なのですが、相手の魂塊が何をモデルにしているのか、一目でわかる方法はありませんか。」
「いい質問ですね、まず私の魂塊は鰐をモデルに作っているので鰐の見た目をしているのですが、これを私の剣に纏わせてみると。」
アクフがデオルの持つ剣を見ると、そこには薄っすらとした鰐の姿が見えた。
「薄っすらとした鰐の姿が見えましたか?見えたならそれでどんなモデルか判断してください。」
このようなデオルの座講は数日行い、デオルが「これで教えることはない」と言われて終わった。
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