第3話気づき

 翌日。

 

 ここまでで、アクフの技を鍛える基礎が出来たので、デオルからの指導が施される。

  

「貴方の技は基本的には特殊です。ですが、それでも対策を取られる可能性があります。そして、対策をされる前に倒すためには技の速さを上げる必要がありますので取り敢えず、この丸太を敵と思って打ち込みしてください。」


「はい、師匠!」


 そう言った後、アクフは木剣を構えて技の練習をしだした。


「そう言えばですが、呼び名に困るので、貴方の技の名称をつけときましょうか。あー、そうですね、仮に『暴剣』とでも、しておきましょう。」 


 デオルは手で顎を支えるポーズをとりながらそう言い、なにかの確認をしに部屋から出ていった。


 (数ヶ月での特訓で、俺の筋肉は確実についていっている。このまま努力をし続けて、ソルバ団長補佐の強さに近づいて、今度は大切なものを必ず守る!)

 

 そう考えつつ、かなりの速度かつ連続で木剣を丸太に打ち込みした。


 (そう思えば、俺の人生、ほとんどのものを守れ無かったな。両親、いつも俺の大道芸を見てくれていたナル、ナワマ、だからこそ!俺は本気で強くなろうと決心した。もう二度と自分の力の無さ、不甲斐なさで、失わないために。) 


 そう強く思い、木剣を強く。


 速く。


 振り下ろすと、木剣と丸太の両方が壊れた。


(あっ!つい心に決めた事を再び思い出していた事で力加減を忘れていた!)


 そう、アクフは少し焦ったが、冷静になって考える。


 (あれ?おかしいぞ?なんで師匠が丹精込めて固く作ったといわれている木剣が、俺が普段本気を出しても到底壊せない木剣を壊したどころか、手加減を忘れていた?どう考えてもおかしい。)


 そう思い、アクフは検証のために壊れた木剣の端を握り潰そうとすると、先程と違い、びくともしなかった。


 (そうだよな?今の俺が師匠の木剣を壊せるわけが無い、きっと木剣の方にがたが来てたんだ。)


 そう考えながら片付けをしていると、デオルが戻ってきた。


「え…?」


「あっ、師匠、すいません、せっかく作ってくれた木剣を壊してしまいました。」


「いや…大丈夫です。そうですか、もう貴方も一人前の初見殺しになったんですね…、よし!これから模擬戦を開始します、貴方が行った修行の成果を見せてください。」


 模擬戦はその場で行わず、ソルバ団長補佐と模擬戦を行った場所ですることになった。  


――

 

「ルールは勿論、魂塊無しの一対一の勝負です。私と貴方も攻撃を当てていい回数は一回限りなので、タイミングを見極めてください。勝者は相手に先に攻撃を当てた方です。後、審判として私の元弟子がいますが、気にしないくださいね。」


「はい、この試合に全力を尽くします。」


「それでは審判、開始の合図を。」

   

「試合開始!」


 そう、審判が言った途端に師匠がこちらに直線で鬼の勢いで突っ込んできた。


 それをアクフは鍛えた肉体でなんとか避け、次の行動を取ろうと剣を構える。


 デオルはアクフの行動を読んだのか、後ろ側に下がり、アクフの行動を観察し、それを特殊なオーラを少し出したような幻覚がアクフに見えた。


 (この模擬戦、何処で攻撃を仕掛けるかが勝敗を分ける。だが、俺の『暴剣』はかなり剣の方向を変えやすく、攻撃を当てやすいが、師匠は既に対策を練っていても不思議じゃない。つまり、いつもと違う形で『暴剣』を撃たないと、それと、師匠からなにか魂塊じゃない技能を使った予感がする。)


 アクフはそう考えつつデオルと距離をおく。  


 (つまり、今回のは特殊な剣の軌道を変えるという『暴剣』の特性を弱くしてでも、速さを優先させる!)


 アクフは普段剣の軌道を変えるという、特殊なことをするために一瞬の"迷い"が発生する。それを限りなく無くす代わりに急には剣の軌道を変えられなくした一撃をデオルに向ける。


 その行動を待っていたかのように、カウンターの一撃を撃とうとしていたがアクフの反復横跳びで鍛えられた瞬発力でなんとか避けて、その一撃を与えた。


「そこまで!勝者、アクフ!」


 審判がそう宣言すると、デオルは一撃の衝撃により、少し後ろに吹っ飛びそうになったが、足で踏ん張りその場に留まる。


 アクフは模擬戦用の木剣を持った腕をおろし、歓喜に震えた。


 そして、お互いに「ありがとうございました。」と礼をし、模擬戦は終わった。


――


「さて、貴方の『暴剣』も一段落ついたので、次は魂塊を使いこなす修行です。まず、貴方の魂塊を見せてください。」


 アクフはデオルの言う通りにバファイを出した。


「これは…、この魂塊の固有能力はなんですか」


「円周五メートルを『探知サーチ』する能力です。」


「本当にそれだけですか?」


「そう言えばですが、戦場で敵将が死に際に俺の神を模した魂塊ってバファイの事を言っていたんですが……神を模した魂塊って、他の魂塊との違いってあるんですか?」


「それについてはソルバ団長補佐の魂塊も神を模した魂塊なんですが、私は貴方とソルバ団長補佐以外で神を模した魂塊を見たことが無いんですよ。そして、ソルバ団長補佐の魂塊は纏わせている時はさらなる脚の身体強化で、十字架に変化させている時は切れた腕を繋げるまでのことなら出来ます。ここまでの強い魂塊はソルバ団長補佐の魂塊しか見た事が無い。」


 一旦中断した後、深刻そうな雰囲気を出しながら、中断した続きを言う。


「つまり、貴方の魂塊もソルバ団長補佐並のポテンシャルがあると思います、例えば、貴方は「自分の能力は『探知サーチ』能力だけだ」と心の奥底で思っているんじゃないですか?」


「否定はしづらいですね…。」 


「なら、自分には他の能力を考えてその能力が自信の魂塊にあると、強く思ってみてください。魂塊の能力は保持者にも多少は干渉できます。」


 (例えば、バファイの今使える能力が『探知サーチ』だから、安直ではあるけどそれを助ける『察知デーチ』とか、よし、俺は『察知デーチ』を使える『察知デーチ』を使える『察知デーチ』使える『察知デーチ』使える!)


 そう、強くアクフが思ったが、『察知デーチ』が使えることは当然、無なかった。


「まぁ、そう簡単に出来る訳は無いので、一週間後、地下の訓練場に来てください。」


 そう言い、デオルは訓練所の特別に作られている魂塊用の訓練場に向かった。

 

――


 そこはまるで懲役房のような内装をした部屋だった。


「師匠、この部屋完全に牢屋とかにしか見え無いんですけど。」


 そんなアクフの言葉は無視されて、デオルが話しだした。

 

「まず、魂塊は魂塊使い全員が体に持っている特殊な機関で勝手に貯められる生力で魂塊を制御したり、作ったりすることが出来ます。そして、その生力は何処から出るのかというと、大地から放出されています。その生力を限界まで貯めて、生力の蓄積可能な容量を増やす事を促す施設がここです。」


「ここで、一ヶ月過ごすわけですね。」      


「よくわかりましたね、正解ですよ。」 


「最近、師匠の考えることが分かるようになってきました。」


「私の思考を読まれるとか、気持ち悪いですね。」


「師匠、酷いです。」 


「ふふ、冗談ですよ。」 


 デオルが最後の設備を確認してから言う。   

    

「余談はここまでとして、トイレは備え付けなのと、食料は備え付けがあるので安心して修行をしてください。」


「あの、師匠、最後の質問があるんですが。」


「なんですか?」


「俺って傭兵じゃないですか、本来なら仕事をしないといけない訳で、俺の仕事はどうなっているんですか?」


「私の顔を使い、貴方の敵将を倒した報酬として傭兵雇用の間は仕事をしなくても、傭兵雇用期間内だったら寮を使え、傭兵雇用期間が終われば給料が貰える様に交渉し、団長から許可を貰ったので大丈夫です。」


 そう言い残しデオルは施設の扉を閉めた。


(さて、これからどうしようか、生力は勝手に貯まっていくらしいからバファイの能力について考えるか。)


 そう思いつつバファイを出した。


『キュュュ!』


「バファイ、お前の隠された能力ってあるのか?」   


『キュュュ?』

 

「そうか、わからないのか…。」


 (そういえば最近、なんか妙に力が出せないんだよな。調子が悪いというか、どうしてなんだ?)


 と、真剣に考えていたが、今までの苦労を一瞬思い出すとアクフは精神的に疲れていたのか寝てしまった。 


 次の日。


 起きたアクフはバファイにおはようと言い昨日の問題を考える。


「それにしても、妙な違和感を感じることがあるんだよな。どうしようか、まず、この違和感の正体を見抜かないと…!」


 アクフに防衛戦争の時、殺した兵士の顔等を思い出した。


(なんで…!こんな時にもう整理のついたことを思い出しているんだ!)

  

 悩んでいると、施設の扉が開き誰かが入ってきた。

  

「それは、自分が変わることを恐れているんじゃないか?」


「えっ!なんでソルバ団長補佐がここに!?」   

 

「俺も用事が一通り終わったから生力を貯めれる量を増やそうとここに来ただけだが、もしかして取り込み中だっか?」

  

「いや、そう言う訳ではなくて、ソルバ団長補佐がくるだなんて想像もしていなかったので、驚いただけです。」 

   

「それで、もう一回言うが、アクフの悩みの原因は自分が変わるんじゃないかと、心の奥底で考えていたんじゃないか?」


「ああ、俺の心の声が漏れていましたか、確かにそうかもしれませんね、しかし、なぜ俺の言葉一つだけで分かったんですか?」 


「それはな、昔アクフと同じ様な奴を見たからだな。」


 (凄い人だな、俺が悩んでいることと同じ様な事を昔体験した人を聞いたことはあるとはいえ、それを瞬時に気づくなんて、ソルバ団長補佐は尊敬すべき人だ。)


 そんな事を考えいると、ソルバからの言葉で一つ目の問題が無くなり、軽くなった心で無意識に訓練用の木剣にバファイを纏わせると、纏わせている木剣から、超音波が出た。


「えっ、俺の木剣から、なんで音が?」


「アクフ、それはバファイが引き起こしたものじゃないか?俺には全くもって聴こえないが。」


「つまり、バファイの能力って言うことですか。」


「まあ、十中八九そういう事だろうな。」


「これが、バファイの真の能力!」


 驚きつつアクフが木剣を振るとアクフにしか聴こえない音、超音波が飛び施設の壁に傷を与えた。       

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