第19話エジプトに帰ってきた

 コトナラがヌケエルを戦闘不能にした次の日、再び旅立ち、アクフ達はその後、特に襲撃を受けることは無く、二ヶ月で無事にエジプトの国境に入った。

 

「アクフ!なんだか凄く懐かしい匂いがするよ。」


「ああ、そうだな。帰って来たのか、やっと。」


 アクフとナルがエジプトの匂いに懐かしさを覚えていると、コトナラが急に話を切り出してきた。


「アクフ少年、ナルフリック少女。僕は約束通りここら辺りで君達とは別れるよ。短い間だったけど、まぁ、楽しかったよ。」


 コトナラは空を見上げて今までの事を思い出した。


「そうですか、こちらに今まで短い間でしたけどありがとうございました。コトナラさんがいなかったら多分俺とナルは生きていませんでした。」


 アクフは努めて涙が出ないように拳を握りしめる。

 

「私からも。コトナラには色んなことを教えてもらったし、まだあんまり喋れ無いときに相手になってくれたり、色々とありがとうございました。」


 ナルはアクフ同様涙が出ないように努めたが、少しの涙が出てしまった。


「それじゃ、最後にこれから長い時を生きるであろう二人にそこそこの苦難を乗り越えてきた僕からの助言だ。目標を持て。どんかなに苦しい時でも生きる意味失うことはなくなるし、目標は人生を豊かにし成長にも役立つ。」

 

 そう言い残し、コトナラは手を振りながら遠くに去った。 


 アクフとナルはコトナラが見えなくなるまで手を振り続け、見えなくなるとナルの家に向かう為に気持ちを切り替えて歩く。


 それから数日。アクフとナルはカイロに到着し、ナルの家にも着いた。


 だが、ナルは扉の前で開けようか、開けないか迷っていた。

 

 たとえ、前のアクフの話が本当だとしてもナルは秘密にしておくべきである樹護り族の能力をアクフを助けるためとはいえ、他人に見せてしまったのである。

    

 だが、そんなナルの心中を察してアクフはナルの目を「大丈夫、悪いことに使ったわけじゃないから、きっと大丈夫。」という視線で見つめた。

  

 (そうだよね、仮に樹護り族の能力の事で怒られるとしても、今すぐに会いに行かないといけない。だって、ここで扉を開けないことの方がお父さんお母さんは怒るから。)


 そう自分に言い聞かせ、竦みそうな心を制して強く扉を開けた。


 その中に広がっていた光景はナルが奴隷になる前と同じもので、ナルの父親は釣り道具を点検していて、母親はナルの父親が釣って干してある魚を調理していた。


 その光景を見て、ナルの中には安心感が生まれ、自然と涙が出てくる。そして、帰ってきた時に必ず言う挨拶も口から出てきた。

 

「ただいま。お父さん、お母さん。」


 その声を聞いて父親と母親はナルの方へと視線を向けた。  


 二人はしばらく見つめた後。色々な事を思ったが、結果としてナルの方へと近づき、泣きながら抱き合いこの言葉が口から出た。


「おかえり。ナル。」


―― 


 それから、しばらく抱き合った後大量に出た涙を拭いて、アクフも合わせて話すことになった。


「アクフ君、今回はナルを助けてくれてありがとう。」    


「いえいえ、俺にはお礼を言われる筋合いはありません。ナルは奴隷証である首輪を破壊しただけで、まだしがらみがありますし。」


「それでも、命をかけてナルを助けてくれてだろう?」


「まあ、俺にとってナルを助ける事は目標、というか生きる意味だったので。」  


 アクフが放った小っ恥ずかしい言葉を聞いてナルは赤面した。


「……そうか。そう言えば、アクフ君の家のあたりに隕石が落ちたらしいという噂が流れていたが、それは本当なのかい?」


「それについては本当の事です。その隕石が俺の家に落ちて家とコレクションは木っ端微塵。そして、その時降ってきた隕石で作った剣がこれです。」


 そう言いながら、ナルの父親に見えるように〘天翔石剣カノンスド〙を置いた。


「そうなのか、それじゃあ住む家はないんだね?」


「一応、ファラオ様に降ってきた隕石の一部を献上して家を建ててもらうことにはなっています。が、見てみないことには分かりませんけど、まだ完成しているかどうか……。」  


 アクフが住んでいる土地は元々カイロからかなり離れており、流通用の道が通っていない。よって、アクフはまだ家は出来ていないと判断した。


「お礼と言ってはなんだが、その家が完成するまでは家で過ごさないかい?」

 

「それはありがたいですね。ですが、俺は前に傭兵をやっていまして、そこでの寮の生活もあるので。と言っても、前に起こった防衛戦であの騎士団がどうなっているのかは分かりませんが……、まだ騎士団があれば俺はそこに戻ります。」


「済まないが、その騎士団はバーナの騎士団かい?」 

  

「はい、そうですが。」


「あそこなら、騎士と傭兵が全滅してファラオの指示で解体されて再編成されたらしいが。」


 (えっ、ぜ、ぜ、全滅?いや、ソルバ団長補佐と師匠は生きているだろうけど、モーシャは大丈夫なのか?あと、俺があのイカれている神を模した魂塊使いに負けた後何があったんだ?というか、最近は大きな出来事が多すぎて忘れていけど。なんで俺の腕がくっついているんだ?もしかしてソルバ団長補佐が俺を担いでイカれている神を模した魂塊使いから逃げて俺の腕をくっつけてから俺を起こす前に拠点が襲われたのかも……)


「アクフ君、アクフ君、アクフ君!聞こえているかい!」


「あっ、すいません。あまりのショックに少し深く考えてしまって。」


「アクフ君の心中は察するけど、自分の未来のことだから真面目に考えてほしいんだ。」


「はい、結論としましては、今はもう外も暗いので今日は泊めさせてもらおうと思います。」  

 

「そうか、それなら。ナルの隣の部屋が空いているからそこにベットを用意するからそこで寝てくれ、後、もうすぐお母さんが晩ごはんを作り終えるから食べてね。」


「分かりました。ありがとうございます。」


「所で辛かったら言わなくてもいいんだけど、なんで傭兵をやっていたのにエジプトからかなり離れている所でナルが奴隷をしている屋敷に侵入出来たんだい?」 

 

「それは、俺が防衛戦で捕虜として捉えられて奴隷になってからオークションで売られて、ナルがいる屋敷の主に買われたからです。」


「言いづらいことかもしれないのに、言ってくれてありがとう、納得したよ。」


 アクフとナルの父親の会話が終わり、ナルの母親との会話を終えてアクフと父親の会話に混ざろうとしていたが、ナルが少し自分も混ざるの難しい雰囲気だった為。結局混ざれず、会話が終わって隣りにいるアクフに話しかけた。 

 

「アクフが泊まるなら、私とボードゲームしようよ!」


「どんなのがあるんだ?」

 

「例えば、セネトかな。」


 セネトとは昔からある30個の正方形のマスで構成された長方形ボードの上にコマを4本の棒を投げて、どこまで進むか決めてゴールを目指していくというルールの双六すごろくの亜種のようなゲームである。


「おっ、良いな傭兵仲間から聞いたことがあるが面白いらしいな、いつかやってみたいと思っていたんだ。」


『キュュュ!』


「おっ、バファイもやるか?」

 

『キュ、キュキュキュュュ!』 

  

「そうなんだね!そうしたらアクフの気が済むまでやろうか。」


 ナルは自分が好きなボードゲームをすることにアクフとバファイが乗り気なのが分かってテンションが上がった。

  

 その夜、夕御飯を食べたアクフとナルとバファイは夜遅くまでナルの部屋でセネトをやった。


 次の日。アクフは早朝に日課の筋トレと訓練をしてナルの家から出発して、バーナの騎士団の元へ向かった。


――


 昨晩は夜遅くまでセネトをしたせいで少し寝不足になり、アクフが到着したのは昼過ぎになった。


 アクフはしばらく探してみたが、ソルバとデオルは見つからない。


 (うんー、おかしいな。あの二人が死ぬ訳がないし。再編成されたらしいから、もしかして別の騎士団に行ってしまったのかな。)


 アクフは少しの不安に思いながら、知っている人はいないかと探していると、モーシャを見つけた。


 アクフは状況を正しく判断する為にに絶対聞こえるような声で「!久しぶり。」と声をかける。


 その声が無事に聞こえたのか、が近づいてきて口を開く。


「あっ!アクフ先輩。お久しぶりです。」 


「できたら教えてほしいんだが、俺が奴隷になってからの騎士団はどうなったんだ?」


「はい、それでなのですが。あれを見たらよくわかると思うんですけど……。」


 はアクフの斜め後ろを指さし、指さした場所にはかなりの量の騎士と傭兵の死体をミイラにする為にミイラ職人がいる場所に運ぶべく置いており、その中には、デオルのものもあった。


「し、師匠。」


 アクフは絶対にあり得ないであろう可能性がありえてしまった事にとてつもないショックを感じて、膝から崩れ落ちる。

   

「アクフ先輩……、デオル師匠は、俺をかばって死にました。」


「そうなのか……、もしかしてソルバ団長補佐も?」


「いや、ソルバ団長補佐は無事に生き残って、事後処理の最中に何故か急に戦闘不能になっていた神を模した魂塊使いを捕縛して、その功績を称えられ御刃ごにんに入ることになったんです。」  


「そうか、やっぱりあの人は凄いな。俺も一応神を模した魂塊使いではあるけど年季が違う。」


「アクフ先輩は切り替えが早いですね。」


「師匠なら『私のことでくよくよするのなら訓練しなさい』って言うと思うからな。いつまでもくよくよはしていられない。」


「アクフ先輩は凄いですね、そう考えれて。」


「俺は過去に色んな人が死んでいくのを経験した。でもその時のトラマウマは未だに乗り越えられていないんだ。だけど時は無情に進んでいくだから、いちいち乗り越えている暇はない。だから乗り越えられるようになるまで、切り替えるんだ。」


「……その言葉を聞いて少し心が楽になった気がします。」


「それは良かった。それにしても俺もソルバ副団長みたいにもっと強くなって、誰かの心を本当に救ったり、本当にしたい事の出来る人間になりたいな。」   


「アクフ先輩なら、そのまま努力を続ければいずれなれると思いますよ。」


「嬉しいこと言ってくれるね〜。」   


 そんな会話をしばらくした後、アクフはに今月の傭兵としての給料と防衛戦争に参加した特別報酬を貰い別れて、しばらく顔を出せていなかったスドの元へと向かった。   

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