第18話今、森から出る

 ワイバーンの襲撃の後、コトナラが近くにもう一人いた操縦者の協力者を発見して倒し、エジプトの帰還を再開したが、流石にワイバーンとの戦いで疲れた体で続行するのは困難であろう、というコトナラの提案により、お金はコトナラ持ちで街に寄り宿をとり遊び心身ともに休ませることにした。


 遊ぶと言っても、立ち寄った街には大道芸人等はいないのと娯楽施設が無いので、コトナラからの誠意でお金を出してもらい、生活用品などを買うためショッピングをしていた。


 ちなみにコトナラはすることがあると言って、「アクフ少年とナルフリック少女は楽しんでくれたまえ、僕は少しやることを思い出した。」と言い残し、アクフ達とは別行動をとった。


 今はアクフとナルは背活用品を買い終えて、暇になっていた為露店を見ていた。


「アクフ、これなんかいいんじゃないかな。」


 そう言ってナルが指差したのは、葉っぱのような形に見えるように細工してあるアクセサリーだった。


「ほら!この2つは私とアクフの目の色と同じだよ。」


 ちなみにアクフは金色の目であり、ナルは銀色の目である。


「本当だな、値段は……、これくらいなら買ってもいいかな。」


「いいの!?」


「まあ、せっかく街によっている訳だし、露店をただ見るだけじゃつまらないからな。」


「それじゃ、私が買ってくる。」


 あまりにナルの動作が自然すぎてアクフは止めることが出来なかった。そのことにより不安感を持つが、ナルが森を抜けようトラウマから抜け出そうというのなら自分に出来ることは見守ることだと思った。

 

 ナルはアクセサリーが買える高揚感ですっかり忘れていたが、まだアクフ以外には喋れないのだ。


 だが、すぐに喋れるようになるだろう。何故なら、ナルはもう正しい覚悟をして乗り越える準備を整えたからだ。  


 もう、暗くて閉ざされていた森ではなく、明るく日光が差している。


 そして、森から出るのはもうすぐ。

 

 ナルは店員に話しかけ会計用にアクフから貰っていたお金を差し出して、アクセサリーを購入した後にお礼の言葉を言うという一歩で。


 ついに森から完全に出ることが出来た。

 

 他人から見れば日常の一部の光景でしかないが、アクフからしてみれば、自分以外は喋ることができなかったナルが店員にお礼の言葉をかける事なんて、本心ではもうないと思っていたのに、やってのけてみせたのだ。

  

 (ナル……、頑張ったんだな。俺は全然役に立ってないと思うけど、乗り越えることができて本当に良かった。)


 ナルはアクフに向かって、やってみせたぞと言わんばかりの笑顔を見せてピースサインをした。


――  


「さて、さて、僕がアクフ少年とナルフリック少女とワイバーンと戦っている時に渡した対ワイバーンを想定した玉が何故急に降下の軌道になった原因はどこだろな、と。」


 そう言いながら、コトナラは森の中で戦いの中邪魔してきた者を探していた。


 そうすると、草陰の中から修道着を着ており、胸まで届くほどの髭を携えたコトナラが探していた真にワイバーン戦に邪魔をした信徒だった。

 

 その信徒がコトナラを視界にいれると、口を開く。


「コトナラ、貴様!何故、王暴の味方をする!」


「いや、アクフ少年は王暴ではないと思うけど、だって仮に王暴だったら、僕が交戦した時点で僕は死んでいると思うけど?」

  

「そんなことはどうでもいい!教皇様が初て貴方が裏切った事を聞いた時は泣いていらっしゃったぞ!それを見たとき私は遺憾の意で震えて、震えて、夜も眠れなかった。何故裏切った!」


 (えぇ……、こいつ正気じゃないね。) 

   

「君は、確かヌケエルだったかね?教皇君の所で暮らさせてもらっていたころ以来かな。それで、そんなの言わなくても分かると思うけど、一応言っておくか。僕は最近神はいないという学説が主力な魂塊の学者だからだ。要は僕からしたら神の指示?命令だったけ?というのはどうでもいいし、正直胡散臭い。」


「貴様!我々の宗教を愚弄するのか!?」


「そうだね、個人がどんな宗教を信じるのかは自由だと思うけど、それを大義名分にして人を殺しているのは、如何いかがなものかと思うよ。」    

 

「もう貴様に要はない!こい、神に仇なす者を駆逐する天使トリュヴース!」


 ヌケエルはトリュヴースという人の形をして羽が生えている魂塊天使を可視化させて、具現化させた。


「これだから宗教と適切な距離を保てていない輩は……。僕の秘蔵の幻獣魂塊を使うしかないらしい。あまり使いたくないけどね。」


 コトナラは塩漬けにしている容器に保存状態にした幻獣魂塊を開放する。そこから出てきたのはコトナラが仮にブトンと名付けた二足歩行の豚に角が生えており、さらに頭が4個もあって体の至る所に腹筋のような形をした物が存在している化け物だった。


「こいつは何故か大量にできてしまったオークをなんとなく遊び半分で合体させたら、極めて生命への反逆を感じる見た目になったから、有事以外には使わないんだけど、いいか。」   

     

「あまりおしゃべりは控えたほうがいいぞ!『天使の威圧グランエン』!」    

 

 そう言い、ヌケエルはトリュヴースを使い、ブトンとコトナラの周りに強い重力をかけた。


 コトナラはかなりの重量を感じてこのままでは潰れてしまうと思いながら、心の中で呟いた。

 

 (おしゃべりに気をつけたほうが良いいのはそっちも同じなんだがね。)


 コトナラはブトンに自分を連れて重力がかかる範囲外に移動することを指示をして、ブトンに背負ってもらった。


 重力のかかる範囲外に逃げながらコトナラはこのままではいけないので生き残る確率が高い方法を考える。

 

 (どうしようかね。毒と薬品はアクフ少年と戦っている風を装うためにほとんど使ってしまっていてワイバーンの一件で使ったのが最後のものだったから、もう使えないし、このままブトンで逃げ続けてヌケエル君との生力勝負に持ち込むと、ああ見えてヌケエル君は生力の総量では優秀だから、確実に僕が負ける。やはりあの幻獣魂塊を使うしかないようだね。)


 森の中の木を勢いよくをなぎ倒して行くブトンにしっかり背負われながら、他の塩漬けにしておいた瓶から取り出す。


 中身は一見普通のアマガエルにしか見えないが、かなり強力な溶解液を吐く幻獣魂塊のヨウラだ。


 ヌケエルに向かって、ヨウラを構え、溶解液を放つ。 


 それはヌケエルの帽子に直撃し、ヌケエルの帽子はボロボロになるどころではなく、ドロドロに溶けてしまった。

 

 (こいつは生力消費が凄いし、足は動かないことと溶解液の一滴が飛び跳ねて付着しただけで溶けてしまうから、危なくて仕方がないのでブトン同様こういう事態しか使わないだけど、少しでも当たる確率を上げるために近づくしかないね。)


 コトナラが作戦を考えているときもヌケエルは馬鹿の一つ覚えの様に『天使の威圧グランエン』を使っていた。


 (ヨウラの溶解液はそこそこ近づきさえすれば、大概の場合当たるが、相手は王暴を殺そうとしている護神教の中でもトップの信者で証であるあるカルテットエンジェルの称号と魂塊天使を授けられているからね。いくら馬鹿そうでも油断できない。ここは精神的に揺さぶりをかけてみるか。)


「ヌケエル君さぁ……、もしかして『天使の威圧グランエン』しか使えないのかなぁ〜〜?そうすると、君はセブンエンジェルの中でも最弱と言われればいい方で、本当は落ちこぼれなんじゃないのぉ〜〜?」


 今は勘当されているが、コトナラは元は貴族の令嬢だった為。他人の精神を最も削り揺さぶる喋り方を熟知していたのだ。 


 その言葉を聞いて、図星をつかれたのかピンと一瞬時が止まったと錯覚するほどの硬直を見せるが、直ぐにこめかみに青筋を立てて、顔も真っ赤になり怒りだした。

  

 (やっぱり貴族として習った技はかなり役立つね。癪だが。)


 ヌケエルは怒り、正常な判断ができなくなり、トリュヴースに『天使の威圧グランエン』に使用する生力を上げてもっと重力をかけるように命令する。


 (『天使の威圧グランエン』は潰そうとする力を上げると、潰そうとする力次第ではあるがそこら辺の生物は勿論ペチャンコに潰せる、種類によるけど木も折れる。だが、潰そうとする効果範囲の移動が遅くなってしまう。ヌケエル僕が前に見た時から全く持って成長してないね。そのお陰で消費を少なくして勝てそうだから、良いけどね。)

 

 そう思いながら、コトナラはブトンに全力で重力がかかる範囲外に入らないように命令した。


 ぐんぐんヌケエルの元へ近づいていく、そして、絶対外さないようにヨウラを構える。


 だが、それをヌケエルは良しとしない、かける重力を弱くして効果範囲の移動の速度を速くして、対応する。


 そして、コトナラがかなり近づいて、もうそろそろヨウラの溶解液を撃っても外さないと確信した時。


 コトナラが重力のかかる範囲に入り、ヌケエルはそこでかかる重力を強くして、コトナラを潰そうとする。


 (まずい、刺激してはいけないところを刺激してしまった。)

  

 このままではコトナラはぺしゃんこに潰れてしまう。


 勿論、コトナラはそうなる前にヨウラの溶解液を使う気だ。


 だが、重力が強すぎてまともにヨウラをかまえることもできず、体もミシミシと鳴っており。もう何もできないかと思われたが、コトナラはこの状況を打開する案を見つけた。


 その為にペルサを出して命令する。

   

「うぐぅ、ペルサ!僕を空高く吹き飛ばせ!」


 ペルサは命令通りにコトナラを重力範囲の上空に頭突きで飛ばした。


 ペルサの頭突きで生じた痛みを必死に耐えながら絶対に外さないように、狙う。  

 

 狙いを定めて――――溶解液を放つ。


 ヨウラから放たれた溶解液はそこそこの高度からの落下でかなりの速度を得て、ヌケエルの元へ勢いよく落下する。それを避けることは困難を極めてほぼ不可能だ。


 当然、その溶解液はヌケエルに直撃して、ヌケエルの服等が溶けて戦闘不能になった。


 (勝ったね。だがしかし、ここの落下から無事に生還することが出来たらの話だがね。まぁ、この高度だったら観賞用に作ったゴーモフでなんとかなるか。)


 コトナラはゴーモフを地上に具現化させて、その上に落下した。


 もふっ。


 という実に可愛らしい音を立て、コトナラは落下した。


「ありがとう、ゴーモフ。今日はもう寝ようか。」


 そう言ってゴーモフの具現化を解除して塩漬けにしておいた瓶に入れる。


 ついでにペルサ以外の幻獣魂塊も具現化を解除して塩漬けにしておいた瓶に入れた。


 (あーあ、リヴァイアサンとかは使わず勝てたから良かったけど、それでも無駄に使ってしまった。ペルサ以外は未完成で一度出したらほぼ永久的に使えないのが弱点なんだよね。まぁ、でもこれで、アクフ少年に近づく不安要素は無くなったね。)

 

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