第20話顔を出す

「スドさーん!いませんか?」   


 その声は誰もいないスドの店の中で響き渡った。 

  

「スドさんの店、今日は休みの日だったけな?」


 アクフは自分の記憶をくまなく探してスドの店の情報を見つけようとし、見つけたが、それは今日は休みな訳はないということだった。


「もしかして、武器を作っているのかな?」

 

 そう思いいたりアクフはスドの店の近くにある作業所に向かった。


 着いて早速、中を覗いてみるとどうやら新しい刀を作っているようだった。


「スドさん!久しぶりです。」


 アクフの挨拶に気づき、スドは「……もうすぐ完成するから終わるまで、そこにある椅子に座っていてくれ。」と言い、アクフは指示通りに椅子に座って待つ。


 数時間。


 スドが「……よし、これで完璧だ。」と新しく出来た刀を持ち上げて光に照らす。鎬造りしのぎつくりの様な見た目をした刀が反射する光は蒼く、幻想的な光を生み出した。

  

「スドさんその片刃の剣で完成しているんですか?」  


「……これは、東の方から伝わってきた刀を刀身を長くして厚さを削いで斬れ味だけを追求したものだが、アクフは刀を知っていないのか?」


「刀は知っているんですが、如何せん俺の知っている刀は今見ている刀とは正反対すぎて、見分けがつかなくて。」


「……そうか、そう言えば、〘天翔石剣カノンスド〙はあるのに俺の作った剣形盾は無いのか?……やはり、少し大き過ぎて携帯には向かなかったか?」


「いや、すいません。捕虜にされる時に奪われて、多分今はオークションにかけられて誰かの手元にいっているじゃないかと思います。本当にすいません。」   


「……そうか、それじゃ、少し待ってろ。」 

  

 その言葉を聞いて、ソドは少し残念そうにため息をつく。だが、アクフには〘天翔石剣カノンスド〙以外の武器はないと知り、作業所の奥の方に向かった。


 しばらくすると新刀の様な見た目をした刀を持って奥からでてきた。

 

 ちなみに新刀は安土桃山時代末期から江戸に作られていた反りが浅いもの。要はどちらかといえば真っ直ぐな刀の事だ。


「……こいつの名前は〘作試〙こいつを……。」


 スドは鎬造の様な見た目をしている刀の呼称を迷った為、名前を考える。


 しばらく考えたあと、「……伝わってきた所の名前を参考にして〘尼羅河ナイル〙にするか」と呟いて思考を終えた。

 

「……〘尼羅河ナイル〙を作っていたときに出来た副産物だ、これから先必要になってくるかもしれない。持ってけ。」


 そう言い〘試作〙をアクフに差し出す。


「スドさんには何を言っても聞きませんからね、ありがたく受け取ります。」


「……失礼な、注文なら聞くぞ。」


「それなら、〘天翔石剣カノンスド〙の点検を頼んでいいですか?」


「……ああ、明日取りに来てくれ。」


 ソドがそう言ったのを聞いて、アクフは「ありがとうございます」と返して、作業所から出ていった。


「……それにしてもだが、〘天翔石剣カノンスド〙の元の隕石はどんな速度で落ちてきたんだ?……俺の作った武器を跡形もなく木っ端微塵にしてしまう程の隕石が普通降ってくるか?」


 ボソボソと独り言を言いながら〘天翔石剣カノンスド〙の状態を確認する。


「……加工する時も硬すぎて苦労したが、加工してからもかなり硬い。アクフのあの感じ、多分相当な敵と戦ったと思うが……。」


 そう、〘天翔石剣カノンスド〙は一切の刃こぼれ等といった普通の剣であれば使い続けていたなら当たり前になる状態になっていなかったのだ。  


「……本当にこの隕鉄はなんなんだ?」  


――

   

 ここは、世界一神々しい光さす教会。

 

 そこで、教皇はかなり困った顔をしていながら神と会話をしていた。


『リアティ、貴女は王暴を始末することが出来ましたか?』


 (王暴につきましては今、居場所を突き止めるために動いています。が、当分見つかりそうにありません。ですが、必ず王暴を始末して見せます。その際にはこの世界にほんの少しでも良いので幸福の時をお与えください。)


『分かりました。期待していますよ、リアティ。』    

 

 (どういたしましょう。神から授かりし天使ディストウルがまた王暴の位置が検討つかなくなりました。場所さえ特定できれば神から授かった天使魂塊ラプトルアで運命を決めて始末できのですが……。しかも、悲しいことにコトナラは私達の道から外れて王暴の道に入ってしまっていて、王暴はコトナラによってかなりの移動力を持っている為、もはやどこにいるのか予想ができません。これは……今は諦める他なさそうですね。取り敢えず、神の期待は裏切れませんやれることをやりましょう。まず、各地に宣教師を派遣して布教と王暴の情報と収集を集めるように指示しましょう。)


 教皇は一旦考えるのをやめて、教徒に指示を出して自らは護神教が運営する孤児院に顔を出しに行った。

 

――

 

 エジプトの王宮ではファラオが考え事をしていた。


 (神を模した魂塊使いであるアクフ、二ヶ月間捜索したが全く持って見つからなかった。これはもしかして、もうアクフは死んでいるのか、奴隷にされて遥か遠くの街へと飛ばされている可能性も考慮して捜索軍を縮小せねばな。)


 アクフが見つからないのは当然である。なぜならコトナラがアクフを狙う護神教の関係者が見つからないような場所をわざわざ選んで進んでいたからだ。


 自らを犠牲にして血眼になっても見つからないような場所を選んでいる為、ファラオ側が見つけられる道理などないのである。  


 (ソルバから話を聞くと、どうやらアクフは前に謁見に来て隕石を納めた奴と同じ様な身体的特徴があるな。だが、それがわかった所でその本人が見つからなければ意味はないが。最近、王暴だとかいう世迷言を吐いている護神教の本山があるスパルタが王暴を渡せとうるさい。この様子だとまた我が国に進行してきそうだな。我が国は文化大国でもある故、武力の行使は最低限に留めたいが……、そろそろあちらから来たら全勢力を上げて立場をわからせねばならないらしい。)


 ファラオはそう決めて、側近にスパルタに宣戦布告するように伝えた。


 (推定アクフのお陰でかなり上質な隕鉄は手に入った。だが世界情勢も中々にきな臭くなってきた。もうそろそろ我がエジプトで新たな御刃ごにんを決めなければならない。この際だ、御刃ごにんを決める試験を祭りごとにしてしまおう。その方が神を模した魂塊を扱える者も集まるだろうし、我が国の権威を他国に見せつけることも可能かもしれない。)


 その後、ファラオの命令によって催された御刃ごにん祭は成功し多くの外国から来た者も集まり、無事に御刃ごにんの新しいメンバーは決まった。


――


 そんな役職などが様々な者が思考を巡らせた次の日、アクフとナルは川魚を焼いて食べるために釣りをしていた。


「釣れないな。」


「釣れないね。」


 アクフは大道芸人だった頃は客からのおひねりで暮らしていた。当然食べ物を買える程は貰えなかった日もあった為、この様に近くの川で釣りをして釣った魚を焼いて食べていた。その為、一人前とは口が裂けても言えないが釣り師としての感はあったのだが、見事に外れたのだ。  


「すまん、ナル。提案したのは俺なのに全然釣れなくて。」


 アクフが本気ですまないという顔をしてナルに謝ると、ナルは全然気にしていない笑顔で口を開く。

  

「別にいいよ。釣りって釣る瞬間を楽しむというよりは、獲物がかかるのを待つ時の方が楽しいって、お父さん言ってたし。」


「そう言ってくれると助かる。」


「そう言えば聞いていなかったけど、アクフってなんで大道芸人なんてやっていたの?」


「ああ、それは亡くなった父さん、母さんの意志を継ぐためだ。」


「それでそれで?」


「亡くなる前は父さんと母さんは村で手品師をしていたんだよ。それで村の沢山の人に笑顔を届けていた。そしてある日、戦争が俺の住んでいた村を襲って父さんと母さんは攻めてきた兵に金目の物を取られる時に殺された。」


 アクフは話に夢中になり過ぎて、魚を逃すのを回避する為に釣り竿の餌を取り替える。

 

「俺は叔母の家に逃げれて生き延びたけど、その時に叔母が父さんと母さんの遺言が書かれた手紙を持っていて、そこに書かれていた内容が『アクフ、誰かを悲しませることは極力しないで、誰かを楽しませたり、笑顔にできるような人になってください。』って書かれていて、あんまり儲からない事は分かっていたけど、父さんと母さんの遺言を実行する為に始めたんだ。」


 アクフの話が気になったのかバファイが姿を表した。

 

『キュュュ。』 

  

「あの凄い大道芸にはそんな理由があったのね。そう言えば、傭兵の契約も無くなっていているんだったらまた大道芸人をやるの?」


「うーん、いや、そこら辺は未だに決めきれていないかな、一応傭兵としての給料も払われたし、今の所はお金で困っていないから他の方法で人を楽しませたり、笑顔をにできる様な仕事についてもいいかなと思っているけど、……例えば料理人とか。」


「辛辣になるけど、アクフには荷が重いんじゃ無いかな。」


「今日のナルは厳しいこと言うなー、そんなに俺の料理が駄目なのか?見た目に関してはアレだが、練習したらなんとかなると思うけど。」        

   

 ナルは知っていた。旅の途中、アクフが料理が食べられたものじゃない状態を駄目だと思い奮闘してみたが、アクフがいくら練習しようともあの見た目はどうにもらならない。持って生まれた呪いのようなものだと。


 今はアクフのあまりのポジティブさに感嘆かんたん畏怖いふの感情が混ざった目線を向けるしかなかった。 

  

「あんまり聞かれたくはないと思うが、俺もあまり聞かれたくないこと聞かれたから聞くが、ナルは自分の魂塊と仲良くしているのか?」


『キュュュ!』

 

「ベリープルちゃんの事ね。」


 ナルはそう言いながら、ベリープルを可視化させる。 

 

『ベリッ、ベっリー!』 


「そうだね……。正直、この子が何を言っているかわからないし、強制的作らされたから愛情とか愛着とかは今は無い……かな。そう言えば、アクフってバファイの言っていることって分ってたりするの?」 

 

「そうだな、完璧に分かるわけではないんだが、言語化するのがすごく難しいんだけど、なんとなくこう、感覚で分かるんだよ。」

    

「へー、そうなんだ。もしかしてベリープルが何を言っているかもなんとなく分かったりする?」


「いや、すまないけど、完全に何言っているか分からない。」 


「なんとなく分かるのは、やっぱり長年の付き合いだから?」


「バファイを貰ったのが6年前になるから言う程長年でもないが。」


「でも、私とよりも長く付き合っているじゃん。」 


「そうだな。」


 結局、その日は一匹も釣れず、ナルの父親が取ってきた魚を食べることになった。

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