第9話団長補佐の悩み

 デオル達の軍が撤退して、拠点に戻る頃には。戦いを終えた先に拠点についていたのかアクフとソルバが居た。


「ソルバ団長補佐っ!ナカヤを助けてやってください!」

 

 モーシャは瀕死のナカヤを担いで、ワヒドを使いアクフ等を治療をしていたソルバに懇願こんがんする。


「ああ!急いでナカヤを寝床に寝かせてくれ!」


 モーシャは急いで瀕死のナカヤを寝床に寝かせた。


「よし、早速取り掛かるぞ!」


 ソルバはワヒドで作った十字架をナカヤに向けて口を開く。

 

「汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!」


 ナカヤの傷は無くなったが。それでも、意識は戻らない。


 ソルバは再び口を開き詠唱する。


「汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!」  


 傷が治った先程とは違い、びくともしなかったが、ソルバはナカヤを助けたいモーシャに答えたい一心で詠唱を続ける。


「汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!汝を労り、汝を癒やし、汝の血を再生せん!」


 すると、ナカヤのまぶたが動き、目が覚めたように開いた。


「「「ナカヤ!」」」


 モーシャとデオルとアクフの三人が歓喜を上げる。  


「……モーシャ、デオル師匠?ここは、何処ですか?」


 モーシャとデオルが喜んでいる傍ら、ソルバは一瞬悲しい顔をした。しかしその次の瞬間には喜んでいる顔になったが、アクフもナカヤの蘇生を喜んでいる中、その顔を見逃さなかった。 


 ソルバが少しすると、デオルとモーシャの治療をして生力がかなり減ったため休憩するといい、部屋に戻る。 

 

 アクフは何故、ソルバがあんな顔をしたのか気になったので、ついていき、事情を聞いてみることにした。


「ソルバ団長補佐、ナカヤを蘇生した時に、一瞬悲しい顔をしたのか教えてもらえませんか?」


「そうか、気になるのか。……このことは話してもいいが、デオルとモーシャには隠してほしい、いいか?」  


「はい。」


「なら、その言葉を信じて、話そう。まず、ナカヤの蘇生は成功なんかしていない。」

 

「!?……、ですが、ナカヤは生きて……。」  


「いや、蘇生は未完成のままだから、ただ寿命をほんの僅かに伸ばしただけなんだ。」


「……そう、なんですね。」


「伸ばした寿命は俺の感覚から言わせてもらえば、魂塊の使用、激しい運動をしなければ、最長後、半日だ。」


「半日、ですか……。」 


「多分、ナカヤ自身も気づいているだろう。アクフも、ナカヤに最後の別れの挨拶をしたらどうだ?」


「それは、ソルバ団長補佐の魂塊でも伸ばせないんですか?」


「これ以上は無理だ。これ以上治療しても無駄に生力を消費して終わるだけだ。」


「それは……、残念ですね。それで、師匠とモーシャにはどうやって、説明するんですか、隠したところで半日なんですから、すぐに別れの時間がやってきまよ。」


「それは、ナカヤも感づいているだろうから、ナカヤ自身の口から喋ってもらった方が俺から話すより、踏ん切りがつくだろう。」


「ソルバ団長補佐の判断したことなので後は何も言いません。話は変わりますが、ソルバ団長補佐はこの防衛戦争はどうなると思いますか?」

 

「そうだな、一応は撤退したが、また進行してくるだろうな。この防衛戦争は前よりも、軍全体が強くなっている。特に敵将なんて前よりも練度が段違いだ。正直、俺達の騎士団と傭兵だけではちょっと厳しい相手だな。さらには、サビテニ団長もどこにいるかわからない状況だ。」


「そうですね、俺が戦った兵士の中にも、魂塊使いがいました。」


「……そうなのか、それはかなり不味いかもしれないな。」


「というと?」


「今回の戦争は相手がただの魂塊使いではない。実例を上げると、俺が戦った魂塊使いは幻覚を使って、視界を潰してきた。その時は頭に衝撃を入れて、どうにかなったが、蝗がモデルの魂塊使いの敵将みたいに味方の犠牲が出る可能性がかなり高い。現在のファラオ様が派遣してくださっている兵だけでは、心もとない。」   


「でも、報告すれば、まだファラオ様が軍を派遣してくれるのではないですか?」


「そうだな。だか、そんな時間は相手は与えないだろうな。」


 その言葉の後に、アクフは外から、ソルバといるこの部屋に向かってくる足音を察知した。


 そして、その足音の主が、部屋に入ってくる。


「大変です!敵が再度進軍すると、多数で宣戦布告してきました!しかも、その中には神を模した魂塊使いと思われる者もいました!進軍は一週間後には進軍するということです!」 


 その正体はファラオに派遣された騎士団の一員だった。

 

「なんだと、その情報は確かなものなんだよな?」


「はい、我ら騎士団がその情報が確かでないことは、誇りに誓ってないです。」 


「そうなのか、では引き続き外を見張って貰えるか?」


「はい、直ちに戻ります。」


「アクフ、すまん。俺はこれから色々やることがあるから、一旦、作戦会議室に戻る。」


  そう言い、ソルバはアクフのもとから去った。


 (ソルバ団長補佐……大丈夫かな。団長補佐の言葉から苦しみが伝わってくる。このまま放っておいたら、取り返しのつかないことになるかもしれない。)

  

 アクフはそう思い、ソルバのあとを付いていく。


 しばらく、ソルバは歩き、着いたのはアクフに告げていた作戦会議室ではなく、無人の部屋だ。


「はぁ……、サンダロス、ヌチモツ、トマ、ナカヤ……、トルバル。皆死んでいく。俺に力が無かったからだ、蝗の魂塊使いの敵将も俺が気をつけていれば、ああいった結果にはならなかった筈だ……、正直に言って、誰かに話してこの重みを軽くしたいが、サビテニ団長がいない今。団長補佐である俺が変わりをしないと……。」

  

 (やっぱり、正解だったな。それにしてもソルバ団長補佐でも悩む事があるのか、今はそれよりも勇気づけるのが先にしよう。)

 

「ソルバ団長補佐、なにか悩み事ですか?」


「っ!アクフ、聞いていたのか。」


「何があったのか聞いても良いですか?」


「別に聞いてもそこまで面白くない話だぞ。」 

 

「その話を聞いて、ソルバ団長補佐の気持ちが軽くなるなら、聞きますよ。」


 アクフがそう答えると、ソルバは。まずは、と言って、自分の過去を話しだした。


 ソルバは異国のそこそこの名のある騎士の家系に生まれ、親から騎士を目指すように言われていたが普通の人間のように暮らしていた。


「父様、おはようございます!」


「ああ、ソルバ。おはよう。」 


 が、5歳になる頃には、実の親に奴隷として、別の国に売られ、捨てられた。


 その時、ソルバはまだ幼かったため、自分が捨てられたことをあまり理解出来ていなかったのだ。

 

 だが、他人から奴隷として扱われていれば、いくら最初の方は理解出来なくても自然にわかる。 


 奴隷として売られて捨てられたことを悟り、軽く一週間は泣き崩れた。


 ソルバ自身、捨てられることにはなったが、普通に育っているので、両親への信頼も普通レベルにはあったのだ。のでショックだった。


 そして、ソルバは奴隷としての日々しかなくなってしまった。


 しかし、奴隷としての生活は保有者の温情もあってか、他国の奴隷程そきついものでもなく。家事や雑務を任される程度で、他の奴隷とも交流を取り仲良くなっていたほどである。

 

 しっかりと給料は貰っており、2食寝床付きの条件で働き。ソルバとしてはそこまでキツくは無かった。

 

 仮に、不満があるとすればせっかくの給料を使える機会がない所だけだ。

 

 そんな生活を2年続けた。この頃に、ソルバを保有者が住む国が戦争に巻き込まれたのだ。


 ソルバはその戦争に駆り出され、命は取られなかったが、捕虜になり、別国の奴隷となった。


 そこからの日々は前の保有者とは違い、肉体労働が主な仕事だ。 


 7歳に肉体労働は常識的に考えても荷が重かった。


 さらには、待遇も悪く、仕事が終われば、どう考えても住むだけで病気にかかりそうで牢屋のような部屋に押し込まれる。


 食事も碌な物ではなく、ソルバの気力を奪っていった。

 

 そんな日々で心身ともに疲弊していき、目には希望の光はなく、絶望の闇で埋め尽くされかけられる所で、ソルバは運命の出会いをする。  


「うん……?」


 ソルバの目には本来ここにはいるはずのない犬が写っていた。


 これにはソルバ自身、疲れすぎて幻覚を見ているのだと思ったたが、その犬は体に自らの体をこすりつけてけ甘えてくる。


「お前……、どこから来たんだ?」 


 その質問に、犬は外の方を向いて、返事をした。


「そうか、外から来たんだな、ここはいいところじゃないからどっかに行ったほうが、良いぞ。」


 犬は、顔を横に振り、ここから出ていかないという意志を見せる。   

    

「お前が居たいなら好きなだけいればいいぞ。」


「ワフルッ!」 


「お前、変わった鳴き方するな、今後ここにいるなら名前をつけたほうがいいよな。名前はワヒド。なんてのはどうだ?」


「ワフルッ!」 


「これからよろしくな、ワヒド。」


「ワフルッ!」

   

 その日から、ワヒドと交流することによって、ソルバの目は希望の光を徐々に取り戻していった。


 そして、1ヶ月もの月日をかけて、ソルバは精神的に回復し、生きようとする意志はないが、奴隷である現状を受け止められるまでに精神が成長した。 


 更に1ヶ月後、大規模な戦争に、ソルバの持ち主は巻き込まれる。だが、持ち主の判断によって、ソルバ戦争には駆り出されず、いつも通りに奴隷の仕事を終え、部屋に戻され、ワヒドと遊ぼうとしていた時。


 ワヒドがいないことに気がついた。


「おーい、ワヒド。」


 いつもならこれでワヒドは出てくるが、今日は例外だった。 


「居ないのか……。」

  

 ソルバはついにワヒドが別の場所に行ったのだと思い、少し落ち込みながら、真実を受け止める覚悟をしていると、少し色が薄いワヒドが汚れた格好で金と本と手紙を引っ張って来た。


「ワヒド!どうしたんだ。」


『ワフルッ。』


 ワヒドは本を指して読めと言わんばかりに手を本の上に置いた。 


「これは?『魂塊製作教本』?」


 ソルバはワヒドの指示のまま、神を模した魂塊のページを見る。


「これを俺が作れっていうのか?」


 そうソルバがいうと、ワヒドが真剣な顔をし、

 

『ワフルッ。』


 と鳴いた。


「分かった、やってみる。」    


 『魂塊製作教本』に書かれていた、神を模した魂塊の作り方は以下の通りだ。


 主体となる魂の欠片、通常の魂塊では不可能であるが魂そのものを用意し、他の魂の欠片を集め、生力を使って固め。その時に金を特殊な陣の上に乗せ、模したい神の名前を一時間唱えると、完成する。  

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