奴隷編

第13話閉ざされし森の中の奴隷

 アクフはスパルタとの戦争で捕虜となった。その時、〘ソールド〙は取り上げられ、残った〘天翔石剣カノンスド〙と共に奴隷として売られる事になる。


 そして、奴隷となったアクフはスパルタにて〘天翔石剣カノンスド〙とセットで売り出され、とある貴族にうでっぷし等を買われ、購入された。

 

 今は、その貴族の元に馬車で運ばれている。


 目隠しをされているので、どこかは分からないが、馬車の揺れと微かな人の声がするので人が住んでいる場所だという事は把握した。 

 

 暫くすると、目的地に到着したのか馬車の揺れが止まる。


 アクフは馬車にのっていた主人の使用人に目隠しを外されて、鎖につながれならがら貴族の敷居を跨いだ。


 そこに思わず自らの目を疑ってしまう光景がアクフの目の前に広がっていた。


 そこには、奴隷商に攫われ奴隷の証である首輪をつけているフルネームでナルフリック・ペトフール、略称ナルが様々な花が咲いている庭に水やりをしている姿があった。


「っ!」


 アクフは思わず声を出しそうになったが、ここで出したら使用人になにかされるであろうと思った為。本当は「ナルに俺はここにいるぞ。」と言いたいのは山々だったが押し黙った。


 (間違いない。成長して少し体つきとかは変わっているが、ナルだ。……なんで、ナルがこんな場所に……、って、ナルは奴隷商に連れ去られたから不思議ではないか、取り敢えず、接触できる機会を探って近づいてみよう。)


 そんなアクフの作戦はいい意味で無意味になった。


 何故かそれは使用人に主の元へと連れて行かれ無理やり土下座しながら挨拶をさせられた後、主人に命令され暗い部屋に放り込まれる。中を見渡してみるとかなり驚いた、何故なら血が滲んでいたナイフを持ったナルが待機してたからだ。


 アクフは扉を音を立てないようにゆっくり閉めると、なるべくに外に聞こえない声で喋りかけた。


「ナル、覚えているか?俺だ、アクフだ。」


 ナルの顔に覗き込む形で言っても、うんともすんとも言わなかった。  

 

 (もしかして、もしかして、だけど、信じたくはないけど、奴隷の生活で心が壊れてしまったのか?仕方ないよな……精神力が強そうなソルバ団長補佐から聞いた話でも、辛そうという事が分かるのに普通の少女のナルが耐えられるわけないよな……。)

 

 アクフはこの状況変えられる案を見つける為、思考を巡らせる。そして、巡らせた結果。残念ながら、あまりこういった事はした事が無かったので、ピンとはこなかった。良い案は思いつかなかったが、当面は積極的に話しかけるしかないと思い自分ができる事をしようと。

  

 そう、アクフは決意した。


――

 

 ナルは元々、家族と共にエジプトの外からやってきて、あまり人気がない頃からアクフの大道芸のファンだった。


 そこから、アクフと仲良くなったわけだが。ある日、そんな二人の仲を引き裂くように人攫いに攫われ、奴隷になってから、何故か主の邪魔となる人物を暗殺をするチームに入ることになった。


 ナルが暗殺をするチームに入ってから、大きく2つのナルの心を壊す出来事があった。

  

 1つ目は初の暗殺の時、人を殺したこと。


 勿論、ナルは傭兵になる前のアクフ同様、ただの一般人だったので人殺しなどはした事は無かった。


 そんな経歴で、人殺を強要させられ、殺さないと自分が死ぬという状況におちいり、ナルは混乱した。


 そして、覚悟を決め殺した。


 その時の感覚だけは今でもナルの中に渦巻いている。


 2つ目は仲良くしていた仲間が一度にたくさん死んだこと。


 奴隷仲間と仲良くなり、初めの人殺しの傷が治りかけていたとき、次の暗殺の命令が来た。


 その時の暗殺対象が強力な魂塊使いの護衛を雇っていた為、当然、魂塊使いが魂塊を持たないものに負けることはそうそうない。


 ナルのいた暗殺をするチームは魂塊が一人も居なかった為、当然の如く、仲間の一人に命をかけて逃してもらったナル以外は全滅した。

 

 それからのナルの日々は暗雲に閉ざされた。


 唯一の支えであった奴隷仲間も死に、そこから元の奴隷仲間の代わりなど幾らでもいると言わんばかりに、新しく入ってきたが、様々な事で死んだ。


 ここで、ナルは命令を実行する時と、暗殺する時以外は自分の中に閉じこもった。


 そこからの暗殺は記憶の中には留まっていない。ただ、偶にアクフとの思い出を思い出しては、一筋の涙を零していた。


 そして、今に至る。

 

 (…………また、新しい人だ。まぁ、少しすればいなくなるから、別にどうでもいいか。お父さんとお母さんにまた会いたいな、お父さんと一緒に川釣り釣りしたいし、お母さんの川魚料理も食べたい。後、アクフ、元気にしているかな。私はこんな有様だけど、きっとアクフのことなら、今でも大道芸をやっているんだろうなぁ、もう一度だけでいいから。また会いたいな。)

 

 ナルの眼の前にいるのは紛れもなくもう一度会いたいと思っているアクフ本人であるのだが、それには気づかない。


 アクフはナルに出来る限り話しかけることにしている為、10分おきくらいに話しかけている。が、ナルはもうこれ以上傷つきたくはない為、無視する。


 暫くすると、なにか不機嫌な顔をした使用人が食料を配給した。


 そのものは、勿論、料理などといった良いものではなくとても食べられたものではない、カビパンと水ぽいスープと思われるものだった。


 それをアクフは渋々食べる。


 ナルは配給された食料など眼中にもないといった様子で、モデルは果実の魂塊ベリープルの能力である『果実生成』を使い、林檎を生み出してそのまま齧りついていた。

 

 (ナルが、魂塊を持っている!?もしかして奴隷の間に作らされたのか?)


 魂塊は所持者が微量な生力を使い具現化するまでは例え、魂塊使いであっても見えない。


「ナル、良かったら分けてくれないか?」


 (誰か話しかけてきてる、林檎が欲しいのかな。どうせすぐにいなくなるし、林檎くらいは上げようかな。)

 

 そう思いナルはアクフの方向に林檎を投げる。


 アクフは容易く投げられた林檎を優しくキャッチした。


 (やっとナルが、反応してくれた!)


 喜びで胸をいっぱいにしながらも渡された林檎に齧りつく。


 (この林檎、とんでもなく甘い!市販されている林檎なんて目じゃない程に。)


 アクフが林檎の甘さに驚いている頃には、ナルは自分の分の林檎を食べ終えており、再び縮こまってしまう。


 その日は、アクフがどれだけナルにちょっと触れたり、話しかけても何も反応を返さなかった。


 次の日。久しぶりに、アクフはバファイと共に大道芸の練習をしていると、ナルが少しだけ、アクフの方を向いた。 

 

 ナルはアクフとバファイによって生み出される芸をまじまじと見て、(なにかこの感じ、懐かしい。)と思い少しだけ目を輝かせる。

  

 ナルの視界は心の闇と己の精神を守る為か、人の顔は黒で塗りつぶしたようになっていた。


 その為、大道芸は見られてもアクフの顔は見られないため、アクフだと分からない。


 だが、只々ナルは懐かしい感じに浸ったていた。


 アクフはアクフで大道芸の練習に意識を向けており、ナルが、懐かしい感じに浸っているのを見られなかったのだ。


 そんなこんなで数日間。アクフはナルに話しかけつつも筋トレ、技の修行、大道芸の練習をしていると、他の奴隷も続々と、アクフとナルが居る大部屋に入って来た。


 ナルは奴隷が部屋に入ってくるたび、(また誰かが入って来た、これは……次の暗殺も近いかなぁ、嫌だな。)と思いながら、暗殺をしなければいけないという事実に抗うことはなく、淡々と毎日を過ごしている。


 次々と入ってきた奴隷達は数人魂塊使いと思われる者もいたが、その大半は意気消沈しており、ナル程までではないが、鬱屈としていた。


 アクフはこの頃になりだすと、主人に取られた〘天翔石剣カノンスド〙の行方 が心配になってきたが、その心配は解決される事となる。


 それは何故か、そう最後に入ってきた目つきが悪くゴツい奴隷が〘天翔石剣カノンスド〙を持っていたからである。 


 (〘天翔石剣カノンスド〙!いや、まて。今ここで動いたら面倒なことになるかもしれない、今はおとなしくしていよう。)


 と、アクフは考え。その時はぐっとこらえた。


 それから数時間後、使用人から伝えられた主人からの命名によって、最近、急に有名になってきたとある貴族を暗殺することになった。


 それにより、アクフ達は馬車に乗せられ、目的地まで向かう。


 (暗殺か……、傭兵の時と違って、邪魔だからといって罪のないかもしれない人を一方的に殺す。……俺にはできない。ここは俺の居場所じゃない。エジプトに戻ってソルバ団長補佐を助けに……、いや、あの人は大丈夫だ。あの人はとても強い。それよりも、ナルを助けないと、ナルは俺にとって最後の守りたい人だ。)

  

 ということを覚悟して、アクフはこの暗殺作戦に臨む、ついでにナルは「はぁぁ、早く終わらないかなぁ。」と思っていた。

 

 他の奴隷はジメジメとした鬱屈した思いを抱え、ゴツい奴隷は何やら一人でくっくっと笑っていた。


 遂に目的地まで到着する。


 アクフは出来れば殺したくはないがいざという時にはナルを守る為に殺さないといけないかもしれないと覚悟をしながら、馬車から降りた。


 ナルは慣れたのかすっとスムーズに降りて、ゴツい奴隷は嬉々として降り、その姿にアクフは恐怖を覚えた。他の奴隷は抵抗していたが、同乗していた使用人に無理やり降ろされた。

 

 アクフ達は暗殺対象の家からかなり遠くの場所に降ろされたので、屋敷までアクフとナル、ゴツい奴隷は黙って歩いていたが他の奴隷は様々なことを呟いていた。


 そして、徒歩三十分の時間をかけて、屋敷に到着すると、使用人からもらった警備の穴をつく地図を使い屋根裏から侵入する。


 屋根裏をそろーりそろーりとゆっくり歩いていって、暗殺対象の寝ている寝床の部屋の上につく。 


 そこから物音をたてずに部屋に降りていくと、そこには、執事のような格好をした魂塊使いの男護衛が居た。


 その男は主人を起こさないように囁くように言った。


「すいません、皆様方。当家は夜間の間の来客は認めておりません。直ちにお帰りになさってください。……よもや、主人の眠りを妨げるのであれば、排除する他ありません。」 


 ゴツい奴隷が執事のような護衛の前に出て、護衛と同じような音量で喋りだす。

 

「お前のところの主人の眠りを妨げるつもりはネェ。むしろ永遠に寝かせてやるぜ。」

   

 そう言い、かなりの速さで、暗殺対象の元へ向かい、〘天翔石剣カノンスド〙を振り上げると、護衛が魂塊を持っていた杖に纏わせ、ゴツい奴隷の一撃を阻止してふっ飛ばす。


 そして、モデルホコリタケの魂塊の能力を使って、胞子の霧を作り出した。


 (これじゃあ、何も見えない。どうする?取り敢えず、今はナルを守る事が一番大事だ。)


 目的を明確にしたアクフは胞子の霧が部屋を充満する前にナルの元へと向かう。


 アクフがナルの側についた頃には、辺は胞子の霧に包まれていた。


 これではアクフから護衛の姿が完璧に見えない。


 しかし、護衛も条件は同じはずなのに、こちらに一直線で向かってきた。

 

 アクフは支給された曲剣で護衛の攻撃を止めて、『超音剣』を放つ。

 

 それと同時に、ナルがベリープルを短剣に纏わせて、能力である『果実生成』を利用した技『爆発西瓜ばくはつすいか』を使う。


爆発西瓜ばくはつすいか』は一回爆発して勢いをつけて飛んでいき、護衛に直撃しかけたが、護衛には杖で防がれた。


 しかし、『超音剣』は『爆発西瓜ばくはつすいか』を防いで隙が出来ている護衛の腕の腱を切る。


「中々やりますね、貴方。しかし、まだ私は本気を出していません。」


 護衛は杖の先を抜刀するかのように持ち、構える。   


 そして、放った。


 音のような速さでナルに向かっていく。


 護衛はナルの間合いに到達して、眼の前にいるナルを切り捨てようとする。


 同時に、ゴツい奴隷がアクフを目掛けて〘天翔石剣カノンスド〙を振りかざしてきた。


 アクフは振りかざされた〘天翔石剣カノンスド〙を止めるが、それに気を取られ、ナルに向かっている護衛を止められなかった。


「ナル!!!」


 アクフが放ったその叫びは、ナルには届かなかったが、これはまで様々な暗殺に関わってきたナルはそこそこの技術を身に着けていた為。


 護衛の攻撃を短剣で止めることくらいは出来た。

 

 (この人、早いな。少し本気を出さないと。)


 そう思い、ナルの視界の黒いなっているものは少し薄れ、バックステップをして少し後ろに下がった。  


 勿論、護衛はナルに攻撃しようと近づいてくる。


 しかし、その動きは隙を生み出し、そこにナルはすかさず、隙のできた護衛に『種子弾しゅしだん』を使う。すると、硬い種が護衛に連続で命中して体を貫通する。


 これには護衛も耐えられなかったのか、気を失った。


 一方、アクフは〘天翔石剣カノンスド〙を持ったゴツい奴隷と苦戦していた。


「やっぱりお前強いな?お前のようなやつを待っていたんだぜ!」


 そう言いつつ、巨大な体から〘天翔石剣カノンスド〙を乱暴に振るって、重い一撃をアクフに与える。

 

 やはり、〘天翔石剣カノンスド〙がなく、ほか武器を使って慣れない状態だと普段の実力が出せず、膠着状態だった。


 (こいつ、〘天翔石剣カノンスド〙をそんなに雑く扱って……!)


 アクフは本来他の武器に注ぐはずだった愛情を注いでいるのと、そこまで儲かっていないスドが自身の事を思い身を削って作ってくれた武器を雑に扱われて相手には見せないように怒っていた。


 (早く取り返さないと……、その為にはやっぱりあれだ。)


 『轟放奏剣ごうはそうけん』を放つ為に生力を剣にためて。

 

 放つ。


 その影響により、胞子の霧は部屋の外にちり、ゴツい奴隷は〘天翔石剣カノンスド〙を落とし吹っ飛んだ。


 しかし、アクフは怒りのあまりナルまでふっ飛ばしてしまった。


 だが、そのことには気づかず、落ちた〘天翔石剣カノンスド〙を拾い。


 ゴツい奴隷に突きつけた。

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