第15話ユニコーンの刺客

 ここは、世界一神々しい光さす教会。

 

 そこに一人の女性教皇が腕を組み額に当て、祈っていた。

 

 (我らが神よ、神敵である王暴は始末しました。どうか矮小な我々にほんの少しでも良いので幸福の時をお与えください。)


『いいえ、まだ王暴は始末できていませんので、今は貴方達に幸福の時を与えることができません。』


 (すいません。我らが神よ、今始末に向かわせますので、なにとぞ幸福の時を我らに。)


『はい、王暴の始末が終われば幸福の時を与えましょう。』  


 彼女は近くにいた信者に特殊技能を使えるある人を連れてきてくださいとお願いした。


 そのお願いを聞くと、信者はその人を連れてくるために風の如く走った。


―― 

 

 アクフとナルは、ナルが料理を担当するようになってから数回村などに寄りつつも堅実にエジプトまでの道を走っていた。


 今いるのは森林、とても生き生きとした木々が生い茂り生命力に溢れている。そこを突っ切ろうとしていた途中、馬の足音を察知して付近を警戒する。


 その音はアクフの元に向かってきていた。

   

 その音がある程度近づいてきたので、アクフはあまりの空気の綺麗さにうたた寝をしてたナルを起こす。

 

「ナル、すまないがここからは誰かが襲ってくるかもしれないから自分で歩いてくれ。」


 その要求に答えてナルは少し眠そうにしながらアクフから降りて、返事をする。

 

「んぅ、……うん。」


 と返すと、ベリープルを持っていた短剣に纏わせた。


 それと同時にアクフの視界に足音の正体が見え、その正体に驚愕する。


 その正体はなにか装備を積んでいる、一角獣。ユニコーンであったのだ。


 アクフはユニコーンというものを、今はいない親戚から教えてもらっていた。その姿はとても美しい馬の体をしており、しかし、馬にはない立派な角を生やした空想の生物。

 

 だが、その空想はいま現実になっている。


 そして、積んでいた装備の一つの通常より大きいクロスボウを使って、射撃する。


 発射された矢は通常のクロスボウでは考えられない速度で、アクフに迫ってくる。


 アクフは予想していなかった攻撃に少し戸惑ってしまい、肩に軽く刺さった。


 それを確認したユニコーンの上に乗っている銀髪に紫のメッシュの女性は口を開く。

 

「命中したね。」


 肩に刺さった時、アクフの体に微弱な痺れが纏う。


 (くっ、捕獲用の矢か?それなら奴隷戻しが追ってきているのか。)


 奴隷戻しは、主人の元から離れた奴隷を依頼を受けて主人の元へ返す職業であるが、残念ながらアクフを襲っているのは奴隷戻しではなかった。


 そして、2発目が飛んできたが、痺れているとはいえ、予測できたのでそこそこ余裕を持って避けることが出来た。


「あら、もう僕のクロスボウに適応しちゃったんだ。これは、中々苦労するかもしれないね。」


 と言いつつも、ユニコーンに積まれていた装備を見て、次の攻撃の準備をし、放つ。

 

 アクフに放たれたのは、かなりの量のなにか液体が入っていそうな瓶と、これまたかなりの量のよくわからない球だった。


 それはどちらか避けようとすると必ずどちらかに当たるように設計されて、アクフはかなりユニコーンに近づいている為、どう考えても両方は避けられない、ので自分の直感に従い、なにか液体が入っていそうな瓶は避け、よくわからない球に当る。


 よくわからない球はアクフに当たった瞬間、網を展開してアクフを捕える。


 (やっぱり、奴隷戻しか。そう言えば、前に似たようなことがあったな、その時は何も出来ずにナルを奴隷商の仲間に連れ去られた、だけど、今は何もできないほどは弱くはない、必ず守って見せる!)


「ナル!俺を構わず逃げてくれ!」


 自分が危機に陥った為、ナルに逃げるように大声で言う。


 それを聞いたナルは「絶対、生きて帰ってきてね。」といいつつ逃げた。

  

 何重にも捕らえられ身動が取りづらくなり、少し戸惑う心を覚悟を決め直して制する。


 力を込めて抵抗して何重かの網は破けたが、やはり数が多い為、力尽くでは中々抜け出せない。


 悠長に抜け出そうとしていたら、アクフを轢き殺そうとユニコーンが急接近してきた。


 (いや、あの人、俺を殺そうとしている、奴隷戻しじゃない。だからといって、負けるわけにはいかない。)

 

 アクフはナルが逃げた方を一瞬だけ向いて遠くに行ったのを確認する。


 (ナルがいない今なら、この編みは勿論、ユニコーンをどうにかする方法はある。)

 

 タイミングを見計らい、生力を注ぎ込んで『轟放奏剣ごうはそうけん』を放つ。

 

轟放奏剣ごうはそうけん』により発生した超音波が四方八方に飛び、何重にも重なっていた網を切り裂き、ユニコーンに攻撃を当てた。


 攻撃はユニコーンにかなりの傷を負わせる。

 

「一旦、退却するしかないね。」


 ユニコーンに乗っていた女性はこのままではいけないと、アクフと距離をとった。


「ああ、次の策が駄目だったら僕は死ぬ、今更生に執着はないが、寂しいものだね。」


 そう言うと、女性はユニコーンに生力を注いで強化した。強化すると、ユニコーンの角が更に立派になってまるで剣のようになる。


 そして、アクフの方にクロスボウの矢を飛ばして、逃げ場をなくした。


 アクフも負ける訳にはいかないので、『刻』の構えを取って、ユニコーンを待つ。


 ユニコーンがアクフの間合いに入ると、アクフは角を使ってこちらを貫いてくると予想していた為、角の部分を切り落とし、バックジャンブをして後ろに下がった、が。


 女性の狙いは初めからアクフを貫くことではなかった。


 ユニコーンはバックジャンブをして後ろに下がったアクフを頭突きをして空に打ち上げた。

 

 狙いは空に打ち上げる事だったのだ。


 (くっ、今まで移動する時にずっとバファイを纏わせたままだったのと、『轟放奏剣ごうはそうけん』でかなりの量の生力を使ってしまった。これじゃ、『打音放』で空中を移動できない。)


 下を見れば、落下するであろう地点にはユニコーンが角を突き立てており、アクフが落ちるのを今か、今か、と待ちわびている。


 アクフはこの状況を変えようと考えた。

 

 そして、数秒後には目に希望が宿った。


 何度も練習した『刹雪』の構えをとり、ゆらゆらと落下するのではなく。


 激しく。


 そして、小刻みにだんだん揺れが大きくなったり。


 小さくなったりを繰り返す。


 アクフ"なりの"『刹雪』は一つのひらめきで完成する。


 そのひらめきとは。


 (繊細さを捨てる事!)


 アクフが『刹雪』を取得するに当たって大きな壁となったのが、繊細さだ。


 繊細さを出そうとすれば、速度が死んでしまうのだ。


 だから、繊細さを捨てて、完成させた。


 (あの魂塊無しの老兵士は凄かった、俺にはあの繊細さと速さは両立出来ない。最早あれは芸術だ。だからこれを『刹雪』というのはあの老兵士に失礼だ。これの名前は……。)


「『不規則演奏アンチェダント』!」


 そして、一筋の軌道が落ちてユニコーンの頭を。


 斬り落とす。


 斬り落とすと、ユニコーンが跡形もなく消えた。


「降参だ。」


 そう言いながら、ユニコーンに乗っていた女性は両手を上げた。

 

「そうですか、なら俺はここで。」


「待て、少年。僕はこのままだと死んでしまうかもしれないから、死ぬ前のお願いを叶えてくれないかい?」


「なんですか?」


「……僕を近くの宿に連れってくれないかね?」    


 (うん?)


「はい、別に良いですけど、俺を殺さなくていいんですか?」


「僕個人は君に恨みもないし、殺す理由もないね。だけど、命の恩人に「王暴を可能なら始末してください」とお願いされてね、それで恩を返すことになって今に至る訳だね。」 


「俺は王暴じゃありませんよ。」

   

「それは悪いことをしたね、これでも僕は魂塊の研究者だから、君の傷を直してあげるよね。」

 

 そう言い、女性はアクフの肩に刺さった矢を丁寧に取り除いて、生力を使って、出血を止めた。


「これで病気になることはないだろうね。」 


「本当に俺を始末しなくていいんですか?」


「命の恩人は"可能なら"始末してください、と言った。そして、僕は君に挑み負けた訳だから、意には背いてないよね。」


「まあ、俺にこれ以上危害を加えないと分かれば、特にする事もないです。」


「それにしても、君は優しいね。君を殺そうとした僕を許すなんて。……もしかして、前世で聖女やってた?」


 その言葉の最初の方も聞かないでアクフは去る 

 

「それでは、後でくるので待っていてください。」 

 

 取り残された女性はポツンと呟いた。


「……許してくれたけど、やっぱり恨みあるね。」


――    


 アクフは逃したナルを探しに「ナル!」と声を上げながら森を駆け巡り、1時間。


 ナルは木の上に隠れており、アクフの姿を見て木から飛び降りた。


「アクフ、大丈夫だった!?」


「まあ、なんとかなったかな?」 


「なんとかなったって、どういう事?それより、アクフが無事そうで良かった。」


「取り敢えず、約束事があるから俺は一旦、あの場所に戻るけど、ナルはどうする?」  


「それなら私もついていく。」


 アクフとナルはほうけている女性のもとに向かった。


「ああ、来たのかい。」 


 女性を見たナルはアクフに小声で囁いた。


「あの人本当大丈夫なの?」


「気配から殺気を感じないし、大丈夫。」


「おい、おい、その声聞こえているよ。まぁ、自分で言うのもなんだけど、あやしい僕を一応は信じてもらえようで嬉しいよ。」


「自分で言っちゃうんですか。」


「客観視して、完全にそうだろうと判断している。便利だよ、客観視。あと俯瞰も大事だ、状況を適切に判断できる。」 


「その割には、俺を殺せてませんけどね。」


「やっぱり、根に持ってるね。君の場合は僕に殺す気があんまりなかったからなんだけど……まあいい、気を取り直して僕を近くの村の宿屋まで連れて行ってくれないか?報酬も勿論だすよ。」


「分かりました。」


 そう言った後、アクフは女性を背負いながら近くの宿に向かった。


――    


 3時間ほどの時間をかけて宿に着いたアクフ達は宿を借り、部屋に入った。


 部屋に入ると、女性がよろめきながらベッドに寝転び、寝た。

   

「そう言えば、僕の自己紹介をしていなかったね、僕の名前はコトナラ・ブルアルゴだ。今は魂塊の新技術、幻想生物再現術の研究をしていて、これでも元貴族令嬢ではあったね。あと、こいつが相棒の幻想生物再現術を用いた魂塊のペルサ。」


『ヒヒィン!』


『キュュュ!』  

 

 宿に入ってから姿を表さなかったバファイが姿を表し、ペルサに挨拶をした。

  

「俺も一応、自己紹介しておきましょうか、俺の名前はアクフで元奴隷、元傭兵、元大道芸人です。」


「おおー、アクフ少年は結構壮絶な人生送ってるね。」


「………………アクフが言うなら、私も。名前はナルフリック・ペトフール、……アクフと同じ元奴隷。」


 かなり無茶をした声を察知したのかコトナラはナルを気遣う声を掛ける。

 

「言いたくなかったら、言わなくていいんだよ?ナルフリック少女。それではこれからよろしく。」


 (うん?)  

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王暴の魂塊譚 大正 水鷹 @66rliyourliya969

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