第16話飛竜との遭遇

「俺についてくるんですか?」


「アクフ少年を殺そうとしたからね、そのささやかな償いをしようと思っているのだが、だめかね?」


「俺についてくるなら、いくつか質問させてください。」


「うん、いいよ。」


「それではまず、もう一度聞くことになりますが、俺を殺すのをやめた理由を聞かせてください。」


「理由は前言ったのと同じだけど、付け足すのなら、私は宗教関連の役職についているものに依頼されてね。それで、なんで殺すのかと聞いたら、神がそう仰っているからと答えた。僕を魂塊研究をしている研究者だと知っていているのにね、最近は神はいないというのが研究者の間での通説だ。僕自身も神という存在はいないと思う。と言っても精霊とかいう存在はいると思うけどね。」


「それで、適当にやっていたと?」


「まあ、そうだね。後神を模した魂塊という存在もいるが。あれは空想(神)を模すことが出来る程が神だけしか出来ないと思い込んでいるだけだと私は考えている。……おっと、話が脱線しすぎてやばいことになってるね。という事で君を殺す気はそこまでなかったんだよね。」


「それでは次に、旅の途中でナルに危害を加えることはありませんか?」


「それについては大丈夫だね。もし仮に僕が意識を乗っ取られ、操ってられても攻撃するのは王暴だと思われているアクフ少年だけだ。」 


「それでは最後にこの旅というか、帰宅の目的はエジプトにあるナルの家にナルを返すことです。多分コトナラさんには帰宅の途中で別れることになりますが良いですか?」  


「エジプトか、魂塊の聖地だね。魂塊の研究をしている身としては人生で一度は行ってみたい場所だ。別れることについては異論はない。」


「そうですか、それでは旅費については自腹でお願いします。」


 その日。コトナラは別の部屋を借りてそこに行ったアクフ達を見送った後、アクフの思い浮べながら考えていた。


 (アクフ少年、はっきり言って彼は何者なんだろうね。僕が見つけて来たどんな屈強な男だろうが関係なく神経を破壊して身動きを取らせなくする毒をふんだんに塗ってあった矢が直撃したのに、あの様子は少し痺れているけど、そこまでではない、っていう顔をしていたからね。仮に王暴じゃなかった場合、伝承に伝わっている種族だったりするのかね?例えば、北の雪がしょっちゅう降るような場所にある世界樹を守る樹護り族だったり?樹護り族だったら、毒があまり聞かないのも納得できるね、なにせ毒耐性もあるし。)


 コトナラの頭の中にはアクフへの好奇心が渦巻いていた。


 一方所変わって、アクフも考え事をしていた。


 (エジプトまであと走って二ヶ月くらいだ。ここまで長かったな。コトナラが同行する事になったけど、ナルは大丈夫なのか。)


 アクフは前に仕方なく街により、ナルと共に買い物をしていたときを思い出す。


 (あの時、店のおばちゃんが話しかけたら何だか怯えていたよな。多分、奴隷の生活中でトラウマのせいでああなっているのかもしれない。前から話しかけたりして頑張っているが、出来れば直してあげたい。)


 決意を固める為に、両親を戦争で失った時に生きていこうと決意するためにとっていた行動である胸を強く叩く行為を行った。 


 (それにしてもだけど、ナルには心配させないために問題はないと言ったが、コトナラは大丈夫なのか?俺の傷を処置してくれたし、悪い人ではないと思うが。俺を殺そうとしてきたからな、あまり信用しすぎると足を掬われるかもしれない、そうなった時にも対応できるようにもっと強くならないと。)


――


 ここは圧倒的な魂塊を使える者を多さを武器に世界の中でもトップクラスの大国になっているエジプトの王朝。


 金ピカで粧飾されている椅子には豪華に装飾された衣装をまとい弁髪のような髪の上に二重冠を被っている齢18才くらいの青年……ファラオが座っていた。 


「先のスパルタ進行についてはどうなった?」


「はい、その件に関しましては御刃ごにんを派遣したことにより、進行を食い止めようとした現地騎士団は団長であるサビテニは行方不明、他は数人程度しか生き残りませんでしたが、ファラオ様が派遣した騎士団はあまり被害を出さずに帰還しました。あと、現地の団長補佐である者が神を模した魂塊使いを無力化した捕縛しました」 


「そうか!神を模した魂塊使いを他国から奪えたのは大きい。」

  

 (それと、あの騎士団は優秀な者が集まっていたので、要請が来るまでは一旦放置にしていたが失敗だったか。) 


「それと、現地騎士団の中に二人程、神を模した魂塊を扱う者がおりました。」


「なに!神を模した魂塊使いが二人もだと。」


「ファラオ様、少し落ち着いてください。まず、2人目が現地騎士団の団長補佐という役職についていたソルバと2人目が傭兵のアクフで現在、死体が見つからず行方が不明なのでスパルタの捕虜になって奴隷に売られているなり、神を模した魂塊使いを増やすために酷い扱いを受けている可能性があります。」


 側近は分厚い報告書を難なく要約して伝える。

 

「そうだな、いくら神を模した魂塊が作りづらいとはいえ、このままいくとスパルタの戦力が増大し、我が国の不利益になることは目に見えているな、……よし、近衛団に命ずる!この国の為にアクフをスパルタから取り戻せ!」


 ファラオの近くに待機していた近衛兵が「はは。」と同意の姿勢を見せ、すぐさまアクフを探しに出た。


「それと、ソルバは神を模した魂塊使いを捕縛した褒美に御刃ごにんに入れようと思う、それに伴い現地騎士団に他の騎士団から少し人を異動させて、再編成しようと思う。」


 (最近はスパルタの進行が2回もあった。1回目は理由は分からなかったが、2回目は王暴とやらを討伐する聖戦だと言い張って進軍してきた、こんな意味不明な理由で攻めてくる意図がわからない。恐らくだが、スパルタは今年不作だったようだから多分、現地騎士団のある肥沃な土地を狙ってきたのだろう。それにしても、2回目の進軍には神を模した魂塊使いもいたらしいし、スパルタと他国への牽制の為、御刃ごにんの人数を増やさなくては……。)


 ファラオの脳は思考を巡らせるために砂糖を強く欲したので、玉座の近くにあるテーブルの上にある蜂蜜を使った甘い飲み物を入れた容器をとる。


 (この様子だと、近々我が王家の権威の秘密である"アレ"を使わなくてはいけない事が起きそうだな、"アレ"は一度使うと寿命を削られるが、先祖が守り、我も愛するエジプトの為だ。この命を削っても守らくなくては。)  


 思考を終えて、肘をつき冷静さを保つために息を大きく吸った。


――

 

 アクフ達は宿で一晩過ごした。


 外から鳥の威勢のいい鳴き声が聞こえる清々しい朝がやってきた。


 そんな清々しい朝で早起きをしたアクフはバファイと共に素振りをしている。


 素振りを続けていると、ナルが少し眠たそうにしながらアクフに話しかけてくる。  

 

「アクフ、おはよう。」


「おはよう。」


 挨拶を交わした後、ナルはずっとアクフの素振りを見ていた。


 その素振りはそこそこの時間続けてきた為、その分洗練されている。


 そして、アクフがノルマ分の素振りを終えたので、新しい技を考える。


 (今の俺に足りないものはたくさんあるけど、その中でも大丈夫なのは、そうだな……、趣向を変えて、相手を斬るんじゃなくて、突く技を作ってみるのもありだな。)


 そうと決まれば試しにやってみるかと、昔、細剣のやったことのある構えをとりあーでもない、こーでもない、と試していると、ずっと黙っていたナルがアクフに話しかける。


「アクフは素振りの次は何をしているの?」


「ああ、これはナルを守るために新しい技を開発しているんだよ。」


「そうなんだ。私の為に頑張ってくれるのは嬉しいけど、体調に気をつけてね。」


「体を壊してナルを助けるどころかナルに助けてもらうことになったら、ミイラ取りがミイラになるからな、それだけは気をつけているから大丈夫だ。」


「それなら、良いけど。あっ、そうだ!アクフが傭兵をやっていて楽しかった時の事を教えてくれない?」


 アクフはナルの質問に構えを取り続けながら答えた。

 

「楽しかった頃、か、師匠、ハタサ、ナカヤがいた時が一番楽しかったかな。基本的に筋トレや修行の日々だったが、仲間がいたからな。」  


「ふーん、そうなんだ。」


 そんなことを話しながら構えを取り続けていると、コトナラが起きてきて、アクフと挨拶を交わして、旅の支度をして町を出た。


――

 

 町を出てから一週間たち、辺り景色は空の青と地平線まで広がる雑草の緑で埋め尽くされており、気持ちの良い風が吹く中、アクフ達はコトナラのペルサに乗って駆けていた。


 気持ちの良い風をうけて気持ちよくなっているアクフに影が迫っていた。


 それは地上には存在せず、鳥などとは比べ物にならない程の大きさを持っており、爬虫類の体に前足が変化して鳥のようになった存在でユニコーンとは比べ物にならない圧を感じる生物。ワイバーンだった。


 だが、ワイバーンなどといった存在はユニコーン同様存在しない。


 そんな本来であれば存在しないはずのワイバーンが空を飛んでいる、そして、アクフに向かって攻撃を仕掛けようと、口を開けてなにかの準備を始めた。


 それをアクフが気付くのは、ワイバーンによって攻撃が放たれ、当たる直前の事だった。 


 ワイバーンの口から火の玉が放たれた。


 それに真っ先に気付いたのは、ペルサの操縦に気を使っているはずのコトナラだ。

  

「この温度の変化、……まさか試験段階のワイバーンかね!?」

    

 そして、アクフがコトナラの言葉を聞きながら、熱くなっている方を見てやっと、ワイバーンを認識してナルを抱え、ペルサを足蹴りする形で脱出してとおくする。   

   

「ナル、逃げてくれ。」

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