第23話対等な関係

 それから、さらに数ヶ月の時が経って、義刀の地獄のような努力は様々な技を習得して、アクフと対等に渡り合えるまでなった。


「『蜻蛉力走せいれいりきそう』の習得を皮切りに出来るだけ気配を消して相手の懐に潜り込んできる『蟷螂抜刀とうろうばっとう』、縦に斬りつける技『鍬形一刀切りくわがたいっとうぎり』等を習得してきましたなぁ。」


 義刀は縁側に座り、空を見つめていた。


 そこにそこら辺の鍛冶屋からよりすぐりの刀を買いホクホク顔になっているアクフが座る。

 

「そう言えば、義刀は俺と戦えるくらいの実力になっているが、最終目標ってなんなんだ?」


「それはですね、先祖代々伝わる天下……、要はこの国を脅かす者を絶対に断つ竹戸の王になる条件の1つであり、超人だけが放てる一太刀。名は『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』です。」 

 

「竹戸を脅かす者を絶対に断つ一太刀か。凄いな。というか、そんなものが伝わっているなら俺と一緒に新しい技を習得するよりも、他にも伝わっている技を習得したほうが良かったんじゃないか?それな他に無かったのか?」


「いえ、他の技もありますが、普通に合いませんでしたから、こうして新しい技を練習しています。」


「それはすまなかった。」


 その日は修行をさっさと終わらせて、アクフは貸し出されている自分の部屋に戻り寝床に寝転びながら考える。


 (義刀は凄いな、最初は『兜回し』以外の型でやると的に思っきり空振っていて全然駄目だったのに、しかも、あんなに辛そうなのに目標である国民を守る王になる為に必死に修行して俺と同じくらいの強さになったからな。)


 アクフは自分の体を見て視界に入ったナルと買ったアクセサリーを見た。


 (ナル、もう俺では守れないくらいに強くなっていたな。目標……か。そう言えばコトナラが去り際に目標を持て的なことを言ってた気がするな。今の目標か、ナルは今の俺では守れないし、他の事をするにしても何をしようか?やっぱりナルを守れるぐらいに強くなるために旅に出てみるか?)


 そう考えているとバファイが勝手に自分の中にある生力を使って、自らを可視化した。

 

『キュュュ。』


「バファイはどうすればいいと思う?」


『キュュュ!』   


「好きな事をしたらいいか、俺の好きなことは、武器集めだな。よし、義刀との鍛錬が終わったらナルを守れるぐらいに強くなるのと並行して、色んなとこを旅して色んな武器を集めにいくか!」


 アクフはそう心に決めた後、寝た。


 次の日。アクフは無性に『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』の他にも伝わっている技が気になり、鍛錬が終わった後に義刀に聞くことにした。


「『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』以外に伝わっている技ですか、それなら、『斬』ですね。」 


「どんなやつなんだ?」


「『斬』は一つの技なのですが、一つの型だけではないんです。その形は『斬・兜虫かぶとむし』『斬・はち』『斬・百足むかで』といったように様々なんです。」 


「それは俺でも習得できると思うか?」


「アクフ殿の技量であれば、鍛錬さえすれば習得できると思います。なんなら習得の方法が書かれている巻物があるので取ってきましょうか?」


「ああ、ありがとう。」


 アクフの礼を聞いた後、義刀は城にある倉庫に向かい探した。


 『斬』の習得のコツが書いている巻物は義刀が10年前くらいに習得できないと諦めて、中々習得できなかった事に腹が立ち、やけになって倉庫の奥の奥の方に仕舞っていた為、なかなか見つからない。


 そして、探している途中に奇妙な巻物が目に映った。


 巻物の題名は『鬼人覚醒法』。巻物の見た目は黒色と黄色が使われている禍々しいもので、常人であればこれは駄目だ、絶対に触れてはいけないものだと思うが、義刀はそう思わなかった。

 

「鬼人族覚醒法?鬼人といえば、この近くに居たとされる最恐の龍、鬼と人間の混血種でしたかな。それの覚醒法とな、普通に怪しい。中身は……。」


 義刀は巻物の中身を軽く見る。


 その中にはタイトル通り鬼人族に覚醒する為方法が書いていた。


 義刀はその中に書かれている一つの文に目を見張る。

 

 (〔鬼は元々負の権化、その部類に入る鬼人族は精神が弱いものは鬼人族に成ればただちに周りの人、生物を喰らい尽くす化け物に変わる。〕とても不味い事だ。これが間違って反乱軍の奴らに見つかれば竹戸は滅茶苦茶になる。)

 

 その考えとは相反し、民を守るのに役立ちそうだなと懐に忍び込ませた。


 義刀は切り替えて、『斬』の習得のコツが書いている巻物を探して見つけた。


 そして、義刀はこの後用事があった事を見つけた瞬間に思い出して、急いで巻物を手で持って、アクフの元に急行する。


 わざわざ兜太郎を使ってまで走った為、本来アクフ元に着くのには30分くらいかかるが10分で着く。


「アクフ殿!長い間待たせてすいませぬ。『斬』の習得のコツが書いている巻物、今ここに持ってきました!」  

 

「ありがとう。早速読んでみていいか?」


「はい!勿論いいのですが……、某は今日、家族に顔を見せなければなりませんので、今日はこれで失礼します。明日もよろしくお願いします!」


 そう言い残し、義刀は兜太郎を纏わせたまま走り出した。   

 

 (義刀はいなくなったけど張り切っていこう。)


 ところでだが、アクフはあまり巻物というものを触ったことがない。


 エジプトにそのようなものが輸入されるのは極稀で、殆どの場合はファラオの趣味で仕入れていることが殆どの為、一般民衆であるアクフが触れた事がある訳がなかったのだ。


 (どうしようか、開け方が全くわからない。)


 開け方の分からない巻物に対して必死に開けようと苦戦する事、1時間。


 無事に開けることができたのはいいが、大分『斬』を習得する時間を奪われ、それは今後の『斬』習得が苦難の道であると示しているようだった。 


 (えっと、どこに『斬』の習得方法が載っているか分からないな……、取り敢えず、最初の方だけ読んでみよう。〔まず、『斬』とは迷いがなく、剣全体の振れがない剣の事を指す。原型は旧『斬』と言い、旧『斬』から派生したのを新『斬』という。ここではまず、旧『斬』の習得方法を記す。〕って、なんだか難しそうだな、俺に読めるかな。)


 アクフは『斬』の取得よりも途中で難しすぎて巻物を読む事が出来なくなることを危惧しながら読む。


 だが、アクフの予想をいい味で裏切り、案外読めた。そして、内容を理解したアクフは『斬』の習得方法を実践する。

 

 結果はアクフ自身が『斬』を習得するのは困難だなと分かるくらいだった。


 だがしかし、案ずることはない。何故ならば『斬』の取得自体が完璧な練習の繰り返しでどんなものであってもその者にあった量の鍛錬をすれば習得できるのだ。


 因みに義刀は3回分の人生を使わないと習得が出来ない為、実質習得不可能である。


 アクフは『斬』取得の道はかなり地道な鍛錬であることに気付き、もう1時間やった後、今日は鍛冶屋で新しい刀が出来る日だなと思い、町に足を運ぶ。


 目的の鍛冶屋に着くと、何やら怪しい奴らが鍛冶屋と話をしていた。


 (うん?この人達、義刀を襲っていた奴となんか似ている気がするんだけど、気のせいかな?)


 そう思いつつ、アクフが刀を物色する為に近くに行くと、怪しい奴らが蜘蛛の子を散らすように去っていった。


 何なんだったんだと思いつつ、アクフは義刀から鍛錬を指南してくれているお礼としてもらったお金を手に良い刀がないか見ていく。

 

 竹戸の名産の1つである刀は全体的にとても美しく素晴らしいが、切れ味となってくると個体差がでるのだ。


 中には見た目だけで斬れない鑑賞用のなまくらもあったりするので慎重に選ばなければ後悔することになる。

  

 アクフは気をつけながら、物色していくと面白い物が目に映った。


 その刀には金が使われており、鮮やかにも輝いている。

  

 刀が放つ鮮やかさに見惚れていたアクフの後ろから鍛冶屋の店主が来た。


「兄ちゃんそれに目をつけるとは、もしかして魂塊使いだったりするのか?」 


 アクフは急に話しかけられて少しびっくりしながら返事をする。

 

「鋭いですね……、そうです、俺は魂塊使いです。」


「おっ、そうか。やっぱり魂塊使いは魂塊の能力を上げる金を使った武器を欲しがるのか。」


「全員が全員欲しがっているわけではないと思いますが、金が魂塊の能力を上げる事はエジプトでも有名ですから騎士の人だったら欲しがるんじゃいですかね。俺はもう相棒〘天翔石剣カノンスド〙があるので今回は趣味ですね。」


「兄ちゃんかなり見ない格好していると思ったら、エジプトの人だったのか!?そんなここからかなり遠い大国からわざわざ竹戸に……、竹戸も大きくなったな。」


「所でこの刀はいくら位なんですか?」 


「多少金を使っているから少し高くなるぞ、5000文だ。」


 因みに1文は35円くらいの価値である。ついでに、竹戸の平均的な一本の刀の価値は3000文くらいである。


「どうしましょうかね、今持っているお金が6000文くらいしか持っていなんですよ。」


「普通に買えるじゃねえか。」  


「いや、個人的にはこのお金で2つの武器を買う予定だったんですよ。」


「何が言いたいんだよ。」


「この小太刀を一緒に買うので安くしてください。」


 そう言ってアクフが指さした小太刀は1500文のものであった。


「要は値切り交渉って訳か。そうだなー、確かにその小太刀だったら500文くらいはまけてやっても良いが、その代わりにエジプトの鍛冶屋に俺を宣伝してくれないか?」


「それくらいならいいですよ。俺には結構な数の鍛冶屋の知り合いがいるので任せてください。」


「交渉成立だな。」


 アクフは鍛冶屋の店主に金を支払って刀と小太刀を持って義刀が所有する城に帰った。


 そして、金が使われている刀には刀身にそうように施されている金の線が月の光に似ていた為〘月光〙と名付け、小太刀には短い刀身からでも伝わってくる切れ味を考慮して〘俎板切まないたきり〙と名付けて『斬』の鍛錬をして寝た。


 アクフが楽しく武器を集めている時、義刀は竹戸最大の城、甲虎城に家族全員で集まっていた。


「義刀、最近は調子がいいそうだな。」             


 一番高いとこに座っている義刀の父、刀次とうじが義刀を見下ろすように言う。

 

「はい、アクフ殿の助力により、3つの技を覚えることが出来ました。」 

  

「そうか。」


 義刀に刀次の視線が痛く刺さる。


 竹戸の王は王家の長男が基本自動的になるのだが、例外があるのだ。


 18歳までに『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』を習得していないかったり、精神が腐りに腐っていたら、王の座は『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』を覚えていたり、精神が腐っていない兄弟のものとなる。


 その為、今17歳である義刀は非常にまずい状態なのだ。

 

「兄者、今のままでは一時期努力を怠っていた私が竹戸の王になってしまいます。兄者が竹戸を治めたいと思っているのであれば、もう少し頑張ってください。」  


 義刀の弟かつ、通常は15歳くらいで覚える『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』を5歳で習得した竹戸始まって以来の天才である刀家とうやの視線が義刀を貫いて死んでしまいそうになるほど義刀に刺さる。


 (刀家は竹戸始まって以来の天才、凡才以下である某が王をやるより、竹戸始まって以来の天才である刀家がやった方が竹戸の為……。)


 義刀の心は絶望感で不安定になるが、

 

 (いや、某には椿の頼みがある。それを果たす為に王になる。)


 誓いの為に心を立ち直させる。

  

「それでは、義刀が18までに『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』を習得できなければ、王の座は刀家に渡る。義刀、精進せよ。」


 その言葉で家族の集まり解散した。   

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