第22話鍛錬

 義刀の鍛錬は困難を極めた。


 何故ならば、唯一の救いである振り下ろしの速さがある一定の型以外になると、その速ささえも無くなってしまうからだ。


 つまりアクフは根気強く何から何まで教えないといけなくなり、かなり厳しいことを言った自覚もあったが義刀はそれでもめげる様子も見せずにひたすらに鍛錬をする。


 だが、かなりの時が経過して、どんな方向で斬り込んでもある一定の速度に達することが出来ていた。


 その為、一旦記念として一日だけ休む事ことになり、アクフは義刀の持っている魂塊が持つ能力がどんなものか気になった為、聞いてみることにした。

 

「義刀の魂塊って、どんな能力を持っているんだ?」


「兜太郎の事ですか?それなら『剛力頑丈』ですね。どんな能力かといえば、名前の通り、力が何倍にもなって頑丈になります。」 


「俺が最初見た時、かなり頑丈そうな竹をいともたやすく斬っていたが兜太郎の能力だったんだな。」


「それは、恥ずかしいところを見られましたなぁ。あの時は空振ってまともに刀を当てられていませんでしたから。ところでアクフ殿の魂塊はどういった能力なんですか?」 


「バファイの能力は『探索サーチ』とか様々な超音波が出せるようになる能力だ。」


「あの反逆者の末端を倒した時、目には見えませんでしたが何かが飛んでるような感覚はあったのですが、アクフ殿の魂塊の能力だったとは。一度は本気のアクフ殿と戦ってみたいものです。」


「戦うのは無理だが、見たいのなら少しだけ見せるぞ?」 


「本当ですか!是非見せてください!」


「それならやるか。いくぞバファイ!」


『キュュュ!』


 バファイを纏わせて、そこら辺にあった頑丈な的を斬り捨てた。


 次に『超音剣』を放とうとすると、義刀は不思議そうな顔をしてアクフに喋りかける。 


「あの、アクフ殿は魂塊の力を最大限まで引き出しておられぬのですか?」   


「そんなのがあるのか?」


「ええ、一応特権階級専用の技術な所はありますが、助けられた恩もありますしアクフ殿が良ければ伝授いたしますが。」    


 義刀が放った言葉にアクフが反応して首を縦に振る。


「そうですか、まずは魂塊を纏わせているのを解除してください。」


 アクフは言われるまま纏わせてバファイを解除して普通に可視化した。


「次に魂塊と繋がっているものがあるので感じ取ってください。感じ取れたらそこに出来る限り多くの生力を注ぎます。これを続けると魂塊の基本能力上昇がある程度強化されます。」    


「やってみる。」


 アクフは目を閉じてバファイと繋がっているものを探す。そうすると、案外早く繋がりを見つけることが出来た。


 繋がりを使ってバファイに生力を送り込む、アクフの生力が残り少なくなった時に送り込むのを止める。


「それである程度は強化されていると思います。後は継続ですね。」


「義刀、ありがとうな。」


「どういたしまして。と言っても、今の段階ではそこまで特殊な事ではなくて特権階級ではなくても普通に出来る方法なので、特に礼を言われるようなことでもないのですが、その方法で強くならなくなったら言ってください。」


「分かった。そう言えば、バファイの能力を見せれなかったな今はバファイの強化をしたせいで生力が無いからまた今度にしてくれないか?」


御意ぎょい。」


 次の日。アクフは義刀に十分な素養がついたことを確認して、新しい技の修行に移ることにした。


「技の習得のコツはひたすら反復することだ。」


「それなら、某の得意分野です。」    


 義刀がそう言いった後、刀を振り始めた。今完成させたい技は居合で間合いが広い命名義刀の『蜻蛉力走せいれいりきそう』。それを完成させる為にずっと同じ型で練習をひたすらにやり続ける。


 たとえ腕や足が痛くてパンパンになっても、もう動かないと思いつつも、動かし続ける。


 義刀をそこまで動かすものは何かといえば、国民への愛、責務、約束、それらを背負っているという責任、その責任などが強い意志となり体を突き動かす。


 無理な筋トレなどは日常なアクフにさへ心配されることもあった。だがしかし、それでも止まらない。


 1ヶ月後、寝る時間は最小限にして毎日やり続けた結果。あと少しのところで完成にこぎつける事となった。


「アクフ殿、手合わせを願いたい。」 


 いつもであれば、アクフと喋るときは敬語を使っている義刀が敬語を使わないことにより、アクフに真剣さを伝えることにした。


「その態度……本気なんだな?それなら俺も義刀が死なない程度に本気を出す。」 

 

 その作戦は上手く行き、アクフと魂塊ありの木刀での手合わせが実現した。


 中庭に練習所にて、アクフと義刀は木刀を持ち見つめ合う。


「アクフ殿、先程は生意気な口をたたいてしまって申し訳ありませんでした。」


「俺としては義刀が楽な喋り方でいいと思うから、あまりどうとも思っていないが。」


「ありがとうございます、それでは某が先にいかせてもらいます。」  

 

 イメージしている『蜻蛉力走せいれいりきそう』の構えをとって、義刀は愚直ぐちょくにアクフに突っ込む。


 それを迎撃する為にアクフは『刻』の構えをとる。


 突っ込んだ義刀はアクフの反応速度を超える速度になることを願いながら勢いよく振り下ろした。


 そして、肝心のアクフが反応出来るかと言えば、出来た。


 アクフは振り下ろされた木刀に向かって振り上げる。


 二人の木刀がぶつかった。 

  

 こうなってしまえば力が強いほうが勝つ、つまり義刀の勝利は約束されたようなものだが。

 

 アクフには『暴剣』がある。


 木刀をいなし、義刀に一発打ち込み、バックジャンプをして距離を離した。


 (凄い力だな。俺が戦ってきた奴の中で二番目くらいには強いぞ。義刀から挑んできた勝負だ、俺も真剣にやらないといけないな。ソルバ団長補佐も俺と戦っているときこんな気分だったかな?)


 (やはり、多少手加減していてもアクフ殿は一筋縄では行きませんね。某はまだまだ未熟です。鍛錬も実戦経験も足りませぬ。ですが、これは某が挑ん勝負。負けるわけには行きません。これはもうすぐ完成する『蜻蛉力走せいれいりきそう』を作ったほうがいいですね。)


 義刀はアクフの木刀を追うのをやめて、全力で『兜回し』使って衝撃波でアクフを吹き飛ばす。 


 それに対して、アクフは『鎮音放』を激突するであろう場所に放ち、義刀に『打音放』を放ちつつ、地面に向かっても放ち。


 跳び上がる。


 (これがアクフ殿の本来の戦闘なのですか、跳び上がったとなれば、某も対抗せねば。)


 義刀は『蜻蛉力走せいれいりきそう』の構えを宙にいるアクフに向かってとり、跳ぶ。


 アクフは『超音剣』を放ち勢いを削いだあとに『不規則演奏アチェダンド』を使い義刀に向かって振り下ろす。


 義刀は『蜻蛉力走せいれいりきそう』を使い振り上げる。 

 

 振り下ろす者と振り上げる者。この対決はアクフにとっては初めてではない。


 アクフの記憶の中にとどまり続ける『不規則演奏アチェダンド』の習得のきっかけとなった老兵士との勝負だ。


 老兵士との勝負は、振り上げる側のアクフが勝った。


 そのジンクスをなぞってしまえばアクフは負けてしまうのである。

 

 (この感じ、忘れもしない。あの老兵士との勝負の時だ。あの時、俺は魂塊の力の差を使って倒したが、今回も同じだ。だけど、前俺がいた立ち位置には義刀がいるこれは、『不規則演奏アチェダンド』の揺れを大きくして、避けたほうが賢明だな。)


 (あまりにも、速度が遅すぎる。その遅さ亀の歩みと同義。何度試しても『蜻蛉力走せいれいりきそう』は完成しない。ですが諦めずにいきます。) 

 

 そして、両者は空中で交わ――らない。


 アクフが『不規則演奏アチェダンド』の要領で除けて『鎮音放』を地面に放ち素早く着地したからだ。


 義刀も兜太郎の力でかなり頑丈になっている為、軌道に逆らわず、そのまま落ちる。 


 (こんなにも様々な状況に対応できるアクフ殿はやはり強い、某とは努力の積み重ねが違いますね。それに比べて某は技術はからっきしで使い物にならず、最近台頭してきた反乱軍の末端に殺されかける始末。ですが、一矢報いずに負けているのではいつまで変われない!)


 その時、義刀の脳裏に『蜻蛉力走せいれいりきそう』を放つ為正しい構えが思いつく。


 (元々『兜回し』にばかり頼っていたから『蜻蛉力走せいれいりきそう』を考え、そして、今それが完成した。今こそ放つ時。)


 (ここが義刀の勝負の分け目だが、義刀はどうする?)


  そう思いつつ、アクフは散々試して失敗した『蜻蛉力走せいれいりきそう』より完成している『兜回し』を想定して『超音剣』を纏わせた『刻』を構えて待つ。 


「……『蜻蛉力走せいれいりきそう』。」


 その一太刀は風を切り。周りに生えている竹も切り。アクフに向かって物凄い速度で向かってくる。

 

 (これは、今までの『蜻蛉力走せいれいりきそう』とは訳が違うな。ついに完成させたのか。)


 しみじみとアクフが思いながら、木刀の軌道を逸すことは力の差で出来ず、避けることは時間的に無理な為、受け止める構えをとる。


 義刀とアクフの木刀が衝突する。


 (某の修行の成果を見せました。次にアクフ殿に勝つことで更に成長を見せねば!)


 さらに義刀は生力を兜太郎に注ぎ、力を増させて押し切ろうとする。


 アクフは辛うじて対抗していたが、生力を兜太郎に注いだ時には対抗できなくなり吹き飛んだ。


 義刀は吹き飛んだアクフのもとに近づき、喉元に木刀を突き出した。


「負けた。まさか俺がソルバ団長補佐と同じ負け方をするなんて。……それはともかくとして、義刀。『蜻蛉力走せいれいりきそう』完成おめでとう。」  

    

 その時から義刀が生み出した『蜻蛉力走せいれいりきそう』はアクフも認めるくらいの立派な技となった。

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