第25話試練

 アクフは『斬』の習得に難航していた。


 その理由はアクフが巻物に書いていることをあまり理解できていないこともあるが、『斬』とは積み重ねが物を言う神業の一種。そう簡単に習得できてしまえば義刀だって『斬』を使えるようになってしまう。ので、一朝一夕では出来ないのである。 

   

 (やっぱり俺って、こういう他人の技を習得するのは自分で考えた技に比べて時間かかるんだよな。まぁ、他人の技が洗練されて簡単には習得出来ない部類の技なのもあるんだろうが。)


 少々雑念をはさみながらアクフはひたすらに巻物に書いていた所作で剣を振り続ける。


 それを繰り返すこと数時間。


「よし、今日の『斬』の習得の訓練はこんなものかな。それじゃ、新しい種類の音を出す訓練をするか。」


 早速アクフはバファイを〘天翔石剣カノンスド〙に纏わせて、放ちたい超音波を想像する。


 (今の俺に足りない所を補う音……、何でも貫通して当たらないけど、相手に当たれと心の中で思った時にだけ当たる音。とか出せたらいいけど、まあ、そんなもの夢物語だからもう少しだけ現実的に…………かなりの速さで回る音とかで試してみるか。) 


 目標を定めたアクフはただひたすらに「かなりの速さで回る音、出ろ!」的な事を念じながら振り続ける。  


 その結果は当然のことながらなかなか出ない。


 アクフはこれも『斬』同様に毎日の習慣にして根気強く続けようと決めて、日を見ると「そろそろ義刀の鍛錬の時間か。」とも思い義刀の元に向かった。

 

 今日も今日とて義刀との木刀で魂塊ありの模擬戦鍛錬をする。


 その合図はアクフと義刀の、「よろしくお願いします。」という勢いの良い挨拶だ。


 まずは、義刀が『蜻蛉力走せいれいりきそう』を使いアクフの元まで接近する。  


 そして、『兜回し』を使い砂を舞い上がらせて目眩ましをし、アクフの視界から消えた。


 (『蟷螂抜刀とうろうばっとう』を使ったようだな。さて、今回は何処から切り込んでくるか。)


 アクフは『探知サーチ』と自分の目を使い義刀の居場所を探る。


 だが、いっこうに義刀は見つからない。 


 (これは、もしかして『蜻蛉力走せいれいりきそう』で俺の『探知サーチ』の範囲外から突っ込んでくるつもりか?)


 そう思い、取り敢えず前方にカウンターの『刻』の構えをとる。


 だが、義刀が斬り込んできたのはアクフの後方の斜め上からだった。


 (まずい!間に合え!)


 これでなんとかなることを信じて、アクフは義刀の方に『打音放』を放つ。


 兜太郎の『剛力頑丈』がのった義刀の『蟷螂抜刀とうろうばっとう』と『打音放』がぶつかり、一瞬均衡したが、義刀が勝ちアクフに向けて木刀を振り下ろす。


 だがしかし、一瞬均衡した時間はアクフが『打音放』に置き換えた『轟放奏剣ごうはそうけん』を放つには十分な時間だった。  


『打音放』に置き換えた『轟放奏剣ごうはそうけん』は見事に義刀に当たった。


 義刀は宙に舞って、なにもできなくなっている所に、アクフが生力を普段より込めて反動を大きくした『打音放』で一気に義刀の元に向かう。


 付いたと同時に木刀を思いっきり義刀に向けて振り下ろし、地面に叩きつけた後、義刀に木刀を押し付けた。

  

 アクフにより突きつけられた木刀を見て、義刀は木刀を投げ出し両手を上げる。

 

「参りました。」


「ありがとうございました!」


「ありがとうございました!」 


 こうして、毎日毎日へこたれずに義刀の鍛錬は行われる。


――

 

 所変わって、竹戸にあるとある長屋に大勢の男達がたむろしていた。


「藤蔵、武器の準備は出来ているか?」


「はい、白湯当。武器の準備の件についてはもう少しだけ、時間をいただけると嬉しく存じ上げます。」


「何故?」


「それが一揆を起こす全員分の武器は集まったのですが、この竹戸で片手で数えれる程しかいない魂塊を扱える実力者……白湯当用の武器が用意できていません。」


「それなら、一揆の決行する日を先延ばしにしないとな。」


 白湯当は一息入れて、平屋にたむろしている男達全員に伝わるような声で宣言する。


「皆、我々は10年前に突如襲った大型台風により、田畑を荒らされ、壊された。当然そうなると稼ぎ口はなくなる事はおろか、明日食うものまでなくなった!

その時国に掛け合ってみたが、その対応が少しの食料の配布のみ。そんなものでは数日しか持たなかった。しかし、我々はもとから有していた刀の製造技術をいかんなく使い作った刀を他国に売ろうとして生計を立てていたが、治安悪化を理由として国が外国との交易を制限した。大型台風に荒らされた田畑の修繕も終わってないのにだ。今までは少人数で王族の命を狙うだけだったが……今こそ我々全員が武器をとり国にことの重大さを分からせる必要がある!決行は今から三ヶ月後虫興祭の次の日だ!それまで牙を研ぐぞ!」


 その宣言に同調して男達は「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」と大きな雄叫び混じりの声を上げた。


 因みにこの後、隣の長屋の主に雄叫び混じりの声が聞こえていた為にかなり怒られたのだが、それはまた別の話である。

 

――


 ナルの父親はアクフが失踪して数ヶ月経っていたことに少し不安を覚えていた。

 

「アクフ君はいっこうに帰らないね。我々の秘密を知ってしまった以上は基本的には掟に従って能力に関する記憶を無くさないといけないんだけど、コトナラって言う人の記憶は消せたがアクフ君の記憶が何故か消せない。」


 その声に反応して、ナルの父親が使役している蛇が顔を出してきた。


 それに対してナルの父親は手で木のオブジェに戻るように指示する。

  

「マタン、餌の時間はまだだぞ。」 


 ナルの父親は宙を見てため息を吐く。   

 

「アクフ君の記憶を消せないとナルとくっつくなり、処分するなりしないといけないんだけど、娘の恩人だから処分するのははばかられる。どうにかしてナルと付き合わせる方向に持っていけないだろうか。」


 テーブルに座っていたナルの母親が返答をする。

 

「そうよね、アクフ君はエジプトに越してきた時に、よそ者だったからあまり友達が出来なかったナルの友達になってくれて、海外の奴隷商に攫われたら助けてもらったり、無事に私達の元に送り届けてくれたからね。滅茶苦茶良い子なんだけど……。」 


「どうにかしてアクフ君とナルをくっつけないと、近いうちに聖樹様から楽園追放されるから、アクフには早く戻って欲しいのだが……。」

  

 ナルの父親は疲れて椅子で寝ているナルの方を見た。


 (ナルは一向に帰らないアクフ君を探しているけど、「血眼になっても中々見つからない。」と言っていたが、世の中突然に人が死ぬ事があるということを教えてやるべきだろうか。それとも私もアクフ君の無事を願うべきか。ここら辺で突如として消えるとしたら"神語り族"の仕業であることは多分間違いないだろうが、アクフ君の実力で考えると、生き残っている可能性は高いだろうしね。)


 そう考えつつ、ナルの父親はナルを寝床に運んで寝かせた。

     

――


 それから、一ヶ月が立ち、義刀は『塵虫払いごみむしばらい』を修得して、アクフの方は『超音剣』と『探知サーチ』の効力が強くなったり、超音波を回転させて放つ技は完成に最も近い状態になっていた。 


 肝心の『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』は義刀とアクフの頑張りにより、あと一歩のところまでこぎつけていた。 


 『天下絶断斬りてんかぜつだんぎり』あと一歩のところまでこぎつけた次の日、義刀がアクフに少し緊張している顔つきでアクフに「話があります。」と呼び出した。 

 

「アクフ殿、某はアクフ殿の助力によって、アクフ殿に会う前より強くなりました。それでなんのですが、近々、竹戸を統べる王になる為に父様から刀を受け継がなければならないのですが、それの受け継ぎには試練を突破する必要があるのです。そこで、アクフ殿にはご迷惑を承知で申し上げますが、アクフ殿。某と試練に挑んでください。」


 (アクフ殿には迷惑を掛けっぱなしでこんな頼みをするのは論外ではあるが、ここだけは了承してもらいたい……!)


 義刀にとっては我儘わがまま極まらない、絶対に受けて欲しい頼みに対するアクフの回答は、


「ああ、良いぞ。」


 二つ返事での了承であった。


 二つ返事の了承に心底驚いた義刀は困惑が混ざりつつも、アクフに感謝の言葉を伝える。

 

「っ…………!ありがとうございます!」


 それからほんの少し時は流れ、ようやくアクフの超音波を回転させて放つ技――『廻音剣』が完成し、義刀の刀引き継ぎの儀式が行われる日になった。

  

―― 

 その山は竹戸同様に竹に囲まれているが、山に生えている物は竹ではなく、杉の木   

という、なんとも美しいというのも醜いというのも絶妙な見た目をしており、その森には本来群れを昆虫達が群れをなして飛び回っている。

 

 足元に転がっている木の枝をポキッと折りながら歩みを進めるのは、義刀とアクフである。


「それで、その刀はこの山の何処にあるんだ?それかヒント的なのは無いのか?」 


「一応は、この山の何処かに受け継ぎの刀を置く場所があるという言い伝えがありますが、逆に言えばそれしかありませんので、あまり正確な位置は分からないです。」   


「そっか、何処か分からなくても、探さないと話は始まらない。この山を知り尽くすつもりで頑張っていこう。」


「はい、張り切って行きましょう!」 


 この山は、義刀の父である刀次が先代たちが死力を尽くして作った物を更に改良したものである。その程は王族の権力を使いつつもだらけて努力を怠っているバカ息子であればことごとく死ぬ程度だ。


 なので、そんな簡単には突破されないようになっているのだが、アクフにとってはあまり難しくはない。


 だが、そう簡単にはいかないようにこの山は設計されている。


 蜂に襲われ少し手間取ったアクフと義刀が止まっていた足を動かし、頂上に向かって進もうとすると、足場が抜けた。


 アクフが少しデジャヴを覚えながら、『鎮音放』が届く範囲に入ったので、地面に向かって『鎮音放』を放ち、義刀と落ちていと底についた。


「義刀、ここはなにか言い伝えがあるのか?」


「いや、こんな所、言い伝えには一切書いていませんでした。」

 

「まあ、兎にも角にもこの穴から抜けださないとな。」

 

 アクフは竹戸に飛ばされた原因である穴のことを思いだしながら、落ちてきた方を見ると、案の定塞がっていた。


 (もしかして、この前に通った知らない別の場所に行く通路があったりするのか?)


 そう考えた後に注意深く辺りを見渡していると妙に白い、更に下までに続く階段を見つけた。


 更に下まで続く階段から形容しがたいが、何か吸い込まれるような感覚に陥ったアクフと義刀は階段を降りていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る