◆寝取られの真実……?
駅前で別れ、俺は自宅を目指した。
十分ほど揺られ、駅を出て駐輪場へ。自転車に乗り――家へ。
七~八分もすれば自宅が見えてきた。
自転車を止め、玄関へ向かう。
スマホを取り出そうとすると“紙”がハラリと地面に落ちた。……なんだ、これ?
拾い上げ、中身を見てみると、それは明らかに女子特有の字だった。こ、これは……三沢さんじゃないか。
【アプリのID教えておくね! 登録してね】
こ、これは三沢さんの連絡先!
いつのまに俺のポケットに手紙を忍ばせていたんだ? まったく気づかなかったぞ。
いや、けれどこれは嬉しい……!
俺はさっそく三沢さんのIDを登録。
すぐにメッセージを飛ばした。
それから既読になったのは一時間後。
三沢さん:登録ありがとー! これでいつでも話せるね
正時:まさか手紙を入れているとは思わなかったよ
三沢さん:ごめん。自分の口から言うの……恥ずかしくて
そうだったんだ。
三沢さんは、案外恥ずかしがり屋さんなのかもしれない。
なんにせよ、これでいつでも連絡が取れるようになった。人間にとっては小さな一歩だが俺にとっては偉大な一歩だ。
◆
――ぱんぱんぱん。
あの光景が“悪夢”となって蘇った。
「うあああああああああああああ……!!!」
飛び起きると自分の部屋だった。
また
……よりによって、瀬戸内さんのあのシーンを……思い出してしまうとは。
クソッ、クソッ!
一刻も早く忘れたいのに……なんで。
結局、俺は一睡もできなかった。
朝を迎え、仕度を済ませて学校へ。
いつものように電車に揺られて駅に到着。徒歩で向かい、その途中で古賀さんの姿を見かけた。
「…………」
なんだろう。いつもより暗いというか、なにかったような表情だ。
こちらに気づいて慌てて走っていく。
なんだ……?
いや、もういいか。彼女のことは忘れたつもりなのだから。
きっと話すこともないだろう。
気にせず学校へ。
教室へ向かうと、すでに三沢さんの姿があった。
「おはよー、熊野くん」
「おはよう」
偶然にも三沢さんは俺の前の席だ。
窓際の一番最後尾。
特等席の前が彼女なのだ。
こんなに嬉しいことはない。
「ねえ、今朝忘れてたでしょ~」
「あ……! ごめん」
そうだった。一緒に走るという約束をしていたのに……悪夢のせいですっかり忘れていた。なんてこった!
「気にしないで。なんか今日の熊野くん、顔色悪いしさ~」
「……ちょっとね」
「そっか。ところで手紙の件だけど……」
「あ~、手紙? いいよ。俺、嬉しかったし」
「そう言ってもらえて良かった。ていうか、熊野くん……寝不足?」
「ああ、ちと悪夢を見てしまってね」
「そういうことあるよね。分かる分かる」
三沢さんは俺に共感して、耳を傾けてくれる。だが、内容までは話せないな。瀬戸内さんのあのシーンだなんて口が裂けても言えない。
そうして授業がはじまり、淡々と受けていく。
お昼になって俺は席から立ち上がった。
残念ながら三沢さんの姿はない。
誘おうと思ったけど、タイミングが難しいものだな。今どこで何をしているのか分からない。
時間が会えば少し話もしたい。
仕方ないので食堂へ向かおうとした――のだが。
「しょ、正時――いえ、熊野くん」
まさかの古賀さんが俺に話しかけてきた。
朝といい、いったいなんだ?
「……驚きだな。俺たち別れたはずだけど」
「話を聞いて」
「話ってなんだよ。もう話すことなんてないよ」
「いいからお願い!」
真剣な眼差しを向けられ、俺は少しだけ動揺した。こんな風に見つめられるのは初めてだ。
別れた時は無表情だったクセに、今は明らかに違った。
「分かった。少しだけだぞ」
廊下へ出て、古賀さんの話を聞くことにした。
「実はね……」
「うん」
「……先輩とは別れたの」
「――は?」
「三年の間中先輩だよ。別れたっていうか、騙されたというか……」
「どういう意味だよ」
どうやら、古賀さんは三年の間中先輩のことが好きにはなっていたらしい。体の関係を迫られ、断れなかったようだ。……いや、断れよ。
だが、間中先輩にはすでに彼女がいたようだ。
その彼女の追及によって、古賀さんは先輩との関係が終わった。今は俺に泣きついているという状況のようだ。
「……彼女がいるだなんて聞いてなかった」
「あっそ。だから?」
「や……やり直そう……?」
涙目になってそんなことを言う古賀さん。
いくら可愛いからって、いくら元カノだからって……俺はもうこの人のことを信じられない。
「無理だ。不可能だ」
「え……」
「俺たちの関係は終わったんだよ。大丈夫、古賀さんって容姿だけはいいんだから、モテるでしょ。俺にこだわる必要ないよ」
「で、でも……私は君のことが……忘れられなくて」
「なら、なんで先輩とキスをしたのさ」
「そ……それは………言えない」
またか! 古賀さんも言えないって、いったい何なんだよ。もう意味が分からない。
「もういいよ。話しかけないでくれ」
「……そ、そんな」
俺は古賀さんに改めて別れを告げた。
これなら、三沢さんに調査をしてもらわなくてもいいかもしれない……。
だが、少し引っ掛かる。
言えないとは……なんなんだ?
◆
お昼を食べ、教室へ戻る道中で三沢さんを発見した。
「ま、また倒れてるー!?」
人気の少ない通路で倒れている彼女の姿があった。また貧血か……!
「……うぅ」
「またなのかい、三沢さん」
「……よ、よかった。熊野くん……タスケテ」
幽霊ようなかすんだ声で助けを求めてくる三沢さん。こんなガタガタのボロボロでは、動けないだろう。
「分かった。立てる?」
「無理かも」
「マジかよ。おんぶ……する?」
「……恥ずかしいけど、そうしてくれる?」
「緊急事態だ。仕方ないよな」
幸い、お昼も終わる頃合い。人の気配も薄れつつあった。この状況なら、見られる可能性は低い。
俺は思い切って人命救助の名のもとに、三沢さんをおんぶすることにした。
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