◆現る刺客と最後の力

 速度を上げ、一気に追い抜いていく。

 ひとり、ふたりと横をブチ抜き、残り三人となった。あと少しだ!


 だが、距離もあまりない。

 現在のトップスリーは明らかに最強クラス。スポーツ系のヤツ等だ。


 一番と二番目が男、三番目が女。


 なんて足の速さだ……追いつけるかどうかギリギリだぞ、これは。



「急がないとマズイよ、熊野くん」



 俺の後ろを余裕で追尾してくる三沢さん。多分、本当なら本気で俺やヤツ等をゴボウ抜きできるだろう。

 しかし、そうしないのは俺に期待しているからかもしれない。そうだよな、カッコ悪いところを見せられない。


 すでに体力がかなり削られているが、まだ走れる。余力は残してある。ラストスパートで使う為の最後のパワーだ。



「……はぁ、はぁ。諦めないよ……!」



 息が上がってきた。

 ここでペースダウンしてしまうと、一気に抜かされてしまう。背後には、まだ俺を抜かそうと必死に走っているヤツ等がいる。

 油断すれば後ろから差される可能性もある。


 公園も抜けていよいよ学校へ戻る。


 ここで前のヤツ等を抜かなければ!!



「ねえ、熊野くん。このままだと、わたしを彼女に出来ないよ? 本気出しなよ」

「分かっている。分かっているんだが……」


「大丈夫。君ならわたしを抜ける。……じゃあ、先で待っているからね。絶対追い抜いてよ」

「え……?」



 その瞬間、三沢さんは超加速した。


 とんでもないスピードで俺を抜かし、あっと言う間にトップに躍り出た。



 は、速ぇ~~~~~~ッ!!



 トップにいた男も、さすがに驚いていた。

 って、まずい。このままでは一位を取れないぞ……!



 こうなったら足がぶっ壊れてもいいから、加速だああああああああ!!



 無になって俺は速度を上げた。

 死ぬほど息が上がって心臓が潰れそうだ。

 でも、まだいける。


 まだ走れる……!


 俺はまだ前進できる……!



 ついに一人抜き、二人目も抜いた。あと一人! これで三沢さんに追いつく!



 だが、グラウンドが見えてきた。まずい。一周でゴールだぞ……。ここで抜かすしかない! 抜いてやらあああああッッ!!



「……なッ! 熊野、お前か!」



 二番目にいた男が俺に話しかけてきた。……いや、誰だ。この人。



「話しかけないでくれ!」

「僕は野球部の太田。盗塁王と呼ばれ、足には超自信がある。瀬戸内さんと付き合う予定の男だ! 熊野、てめぇをここで殺す!!」


「は!?」



 いきなり殴られそうになったので俺は回避した。


 クソッ!!


 ここにきて瀬戸内さんの“復讐”かよ!!

 そうか……妨害がなさすぎると思ったら、刺客を送っていたとは。それがしかも、トップを走っていたとは。


 最後の最後に仕掛けてきやがった。


 許せねえ。


 俺と三沢さんの勝負に、こんな形で割り込んでくるとは!



「熊野ォ! お前に一位は取らせねえ。ここで死ねやあああああああ!!」

「うるせえッ!!」



 走って妨害をかわすしかない。

 俺は最後の力を振り絞り、三沢さんの背中を追いかけた――!

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