◆マラソン大会! 勝って彼女にする

 あれから日にちが経ち、ついにマラソン大会当日を迎えた。朝から開始なので、全学年がグラウンドに集まっていた。


 総勢百二十人といったところか。


 中には足が早くて有名な人や、陸上部所属の生徒もいる。


 もちろん、黒部さんや前島くん。それに三沢さんも参加だ。その三沢さんを狙う男共も張り切っている。


「凄い熱気だね、熊野くん」

「そうだな。でも負けるつもりはないよ」

「がんばって一位取ってね!」

「もちろん。必ず一位を取って三沢さんを俺の彼女にするよ」

「うん、期待しているからね」


 しばらくしてルート説明があった。

 体育の授業でも前もって回ってはいたが、改めて伝達された。


 まずはグラウンドを一周する。その後、校門を出て学校周辺を一周、近場にある公園まで向かい、そこを一周して学校へ戻ってくる。グラウンドを一周してゴールという流れだ。

 距離にして約3kmあるという。なかなか長いぞ。


 説明は終わり、いよいよスタートとなる。

 百人規模のマラソンなので競争率がかなり高い。ライバルも多い。


 だが、それでも負けるつもりはない。


 位置につくと、隣に黒部さんと前島くんがやってきた。わざわざ俺の隣に。



「熊野くん、約束通り……」

「分かっているよ、黒部さん。負けないけどね」

「こっちだって」



 次に前島くんが俺に声を掛けてきた。



「負けねえからな……! 勝って三沢さんをいただくぜ!」

「その言葉そっくりそのまま返すよ」



 カウントダウンが始まった。

 十秒前。


 俺の背中を押す三沢さん。



「期待しているからね、熊野くん」

「ありがとう、三沢さん」



 三秒前。

 その時、俺は違和感を感じた。



 …………あれ、待てよ。



 このマラソン大会、三沢さんも参加するんだよな……?



 ん?



 え、あれ……。



 ちょおおおおおおおおおおおおおお!!



 今更ながら三沢さんの存在を忘れていた!

 そうだよ。当然、三沢さんも同じクラス、同じ学年なのだから……参加するよな。



 条件は“一位”を取ること。



 ……終わったかも。



 相手は最強の三沢さんだぞ。か、勝てるのかこれ……。



 俺は当然、今まで三沢さんの凄さを目の当たりにしてきた。彼女は強い。とても強い。格闘技をやっているだけじゃない。全体的なステータスが異常に高いんだ。

 スポーツ全般はなんでもこなせるだろうな。


 くそっ、俺としたことが一位を取る自信を三秒前にして失いかけた。

 だが、それでも俺は諦めない。



 一秒前。



「やってやらああああああああああッ!!」



 スターターピストルが鳴り響き、スタートの合図が出た。瞬間、みんなが一斉に走り出していく。

 競走馬の如し勢いだ。

 百人規模が走り出し、地響きを鳴らしていた。


 俺は直ぐに先頭へ向けて加速していく。


 最初は体力を温存した方が有利だが、あまり距離を離されると抜かすのが大変だ。そう、目的は一位なのだから。



「まてや、熊野!!」



 前島くんやその他、男共が俺の背後を追従してくる。


 なッ……!


 まてまて。三十人くらいついて来ているぞ。どうなってやがる!



「熊野ォ! てめぇばかり良い思いしやがって!!」「僕だって三沢さんと付き合いたい!」「一位を取れば付き合えるんだろ!!」「この俺様が勝ってやがるよ!!」「お前の三沢さん、俺が寝取ってやるぜ!!」「死んでも勝つ!!」「妨害すっぞ!!」「おおう!!」



 こ、こいつら!!


 そうか……男のライバルは前島くんだけではなかった。同じクラスの男共も敵だ……!


 速度を速め、俺は男共と距離を離していく。

 しかし、黒部さんが俺の背後にピッタリくっついてきた。さすが陸上部か……。



「まだまだ余裕よ、熊野くん」

「さすがだね」


「このままラストで君を抜いて一位を取ってみせる」

「そうはさせないよ」



 更に加速。黒部さんとの距離を離していく。



「くっ……!」



 意外だったのか黒部さんは驚いていた。

 これでも俺はまだ本気ではないぞ。


 一方で三沢さんは余裕の表情で俺の隣を走っていた。いつでも本気で先頭へ行けるはずなのに俺をずっと監視していた。



「そろそろスピードを上げていこうか」

「み、三沢さん……!」



 学校から出た頃、三沢さんは急加速をはじめた。は、速ぇ……。さすがだ。自転車を必死に漕ぐようなスピード感になってきた。


 息が少しだけ上がってくる。


 まだだ、まだ諦めないぞ……!



 中間地点である公園に辿り着く。


 ここまで来るとさすがに息が上がってきた。チクショウ、まだ先頭に立てていない。だけど、あと十人というところだ。

 現在の一位から三位あたりは、陸上部やサッカー部、野球部などのスポーツ系の生徒。やはり、体力オバケなだけあり、足がとんでもなく速い。


 だが、ここでヤツ等を抜かないと後がない。


 俺は“全速力”で駆け抜けていく――!



「へえ、ここで行くのね、熊野くん」

「……あ、ああ。三沢さん……俺は勝つ。必ず勝つ……!」



 息を荒げながら、俺は前へ、前へ進んでいく。

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