◆姉ちゃんに仕込まれた危険アイテム

 あっという間にホラー映画を見終わった。


「…………」


 俺は終始無言だった。

 恐怖で怯えていたわけではない。

 三沢さんが驚くたびに抱きついてきたので、俺はそのせいで心臓の鼓動が早まっていた。いろいろ接触して幸せだった。


 というか、そこまで怖くはないはずなんだが……。

 やっぱりホラーが苦手らしい。


「……怖かった」

「そう?」

「凄く! こんなに手が震えてるよ……」

「確かに」


 ここまで不得手とは予想外だった。

 映画を見終わり、時間も遅くなった。


 そろそろ解散かなと思ったが、三沢さんはそうではなかった。


 エンディングが流れ、安心したのかベッドへ横になる。



「まだ動悸が……」

「そんなに? 少し休むといいよ」

「うん。ありがと」



 しかしそう寝転がられると嬉しいというか、ちょっと危険な体勢ポーズでもある。……いやいや、俺はなにを想像しているんだ。姉ちゃんじゃあるまいし。


 そりゃ、俺も健全な男子なので興味がないわけではないが。


「……だ、大丈夫?」

「少し落ち着いた。熊野くんも一緒寝る?」


「――ッ!」


 なんて魅力的な提案だ。

 それに俺のベッドだし、問題ないよな。



 そうだな、少しだけ横になろ――――うぉッ!?



 仰向けに倒れようとしたが、三沢さんが俺の手を引っ張った。体勢を崩した俺は、三沢さんに覆いかぶさるような形となってしまう。


 って、これでは襲うみたいな!?


 自然と見つめ合い、更に鼓動が加速する。



「来て……」

「……で、でも」


 戸惑っている間にも、三沢さんは俺を強引に引っ張った。……そうだった! 力持ちだったんだ。

 引き寄せられ、俺はなぜか三沢さんの胸の中に顔が沈んでいた。



 …………な、なんてこった。



 普段も制服で大きなとは感じていたが、これほど巨乳だったとは驚きである。思わず感動してしまった。柔らか――ではないッ!


 なにを冷静に分析しているんだ俺は!!



「ごめん。力が入っちゃった」

「そ、そうか……」



 でも、三沢さんは俺を突き飛ばそうとする素振りも見せなければ、むしろ優しく歓迎してくれた。

 て、天使だ。天使すぎる。


 最終的には抱きしめてくれた。

 普段のストレスがすべて吹き飛ぶ。


 今まで遭遇した数々の不運トラウマ。あれらが消えてゆくようだった。


 満足したところで俺は離れようとした。

 しかし、枕元になにか落ちていたのを俺は見逃さなかった。


 なんだ、これ?


 まるでタバコの箱のようなもの……いや、違う。


 そのパッケージには『0.01』と書かれていた。

 しかもご丁寧にマジックで『姉より』とも。



 姉ちゃん、仕込みやがったなあああああああああああああああ……!!!



「どうしたの? え、なにそれ……」

「こ、これは……特殊なお菓子だよ」

「へー? でも、0.01なんてお菓子あったかな……」


「ぐっ!!」



 誤魔化せねえ!

 三沢さんにウソもつきたくねえ!


 てか、三沢さん……0.01を知らんのか。その反応からして本当に経験がないらしい。ちょっと安心した。って、そうじゃない!



「中身が気になるな~」

「気にならなくていいよォ!? ゴムみたいな味でマズイよ!」


「ゴム? ガムってこと~?」



 似たようなものだな。伸びるし。

 だから、そうじゃない!


 これはもう正体を教えるしかないか。観念してこの『0.01』が何に使うか教えることにした。だって、俺は三沢さんにウソをつけないから!



「実は……これはお菓子じゃないんだ」

「どういうこと?」


「これは……えっちで使うヤツだよ」


「え……」


「マジで知らなかったの?」

「う、うん。どうやって使うの……?」


「そこまで詳しく説明しなきゃダメ!?」

「だって興味あるもん」


「あんのかよ!」



 かなり悩んだ末、俺は三沢さんに『0.01』の使用方法について説明した。段々と理解が追い付いたのか激しく赤面して……仕舞いには叫んだ。



「そ、そういうことだったのぉ……!」

「――というわけだ。姉ちゃんに仕込まれた」


「先生ってば……そっか。熊野くんのお姉ちゃんだし、保健の先生だし……気づかってくれたんだよね」



 多分、面白がって仕込んだのだと思うけどね。あとでクレームだ!



「すまない」

「謝らなくていいよ。これ、使う機会……あると思うし」


「!?」


「きょ、今日はやめておくけど……」

「そ、そうだな……」



 え、あるの!?



 よしッ!

 それを聞けただけでも良かった。

 姉ちゃんのイタズラにはムカついていたが、これは良くやったと感謝したい!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る