◆好きな人の住所が分かった
「もうこんな時間。そろそろ帰るね」
時刻は21時。
映画を見ていればあっと言う間だった。
「分かった。さすがに夜道を一人で帰すわけにはいかないから、じっちゃんか姉ちゃんに送迎を頼むよ」
「いいの?」
「当然だよ。ちょっと聞いてくる」
いくら三沢さんが強いとはいえ、さすがにね。
俺は一階のリビングへ。
じっちゃんの姿はなく、ラフな格好の姉ちゃんがいた。
テレビに映し出されているアニメを楽しんでいた最中だった。そういえば、異世界系にハマっていると言っていたな。
「ん、正時か」
「姉ちゃん、頼みがある。……いや、その前にあの『0.01』はなんだよ!!」
「あー、バレたか」
「バレバレだよ。姉ちゃんよりって書いてあったし!」
「気づかってやったんだ。ありがたく思ってくれ」
「余計なお世話だよ! てか、気まずすぎるって……!」
「必要になる時が来るさ」
そう堂々と返されると俺は何も言えなかった。姉ちゃんの言うことは間違ってもいない。でも、そんな機会があるのかなぁ。あって欲しいけどさ!
「話が変わるけど、三沢さんを送ってあげてほしい」
「こんな時間か。いいだろう。おじいちゃんは寝てしまったから、動けるのは私だけだからな」
ぱっと立ち上がる姉ちゃん。
どうやら動いてくれるようだな。
三沢さんを呼びだし、姉ちゃんの車へ。
「姉ちゃん……いや、先生が送ってくれるってさ」
「ありがとう」
「礼は先生に言ってくれ」
「うん」
俺も車へ乗り込み、同行することに。
あ、待てよ。
つまりこのまま一緒に行くと三沢さんの家がどこにあるのか判明するわけか。丁度良い機会だったかもしれない。
などと思っていると、姉ちゃんが三沢さんに聞いていた。
「三沢さんの家はどこ?」
「隣町です。住所は――」
「なるほど。そこか」
ナビに三沢さんの住所を入力していく。
セットが終わって発進した。
この時間帯の移動がはどこか特別に感じる。
人なんておらず、あるのは家と星の光だけ。
車は静かに進み、やがて三沢さんの家に到着。
「ここです!」
「へえ、ここが三沢さんの家かー」
「熊野くんに知られちゃったね。これから、いつでも来て」
「いいの?」
「もちろん。今度はわたしの家に招待するね」
「そりゃ嬉しい!」
女の子との付き合いは多いのに、俺は家に行くとかしたことがなかった。やはり、今までの恋愛は表面上だけのもの。薄っぺらいお遊び。ごっこでしかなかった。
そうだよな。
本当に好きになれば相手の家くらい行くよな。
それにしても、凄い家だ。
ほぼ豪邸。立派な一軒家だ。
もしかして三沢さんはお嬢様なのか……?
「じゃ、また明日ね。熊野くん」
「また明日。おやすみ!」
「熊野先生もありがとうございました……!」
「いえいえ。おやすみなさい」
「では!」
挨拶を交わし、別れた。
帰り道、二人きりになって姉ちゃんが話しかけてきた。
「正時。三沢さんは良い子じゃないか」
「ま、まあな」
「付き合っているんだろ?」
「分からない」
「分からないってなんだ。家に上がらせておいて、そりゃないだろう」
「でも、次回のマラソン大会で優勝したら付き合うことになっている」
「そういう約束か。なるほど、回りくどいことを……」
「仕方ないさ。三沢さんの条件だから、がんばるしかない」
「ふむ。けど、正時なら一位を取れるだろう」
「そうかな」
「昔から足は早いじゃないか。それに最近は鍛えているのだろう?」
「もちろん」
「なら大丈夫だ」
姉ちゃんにそんな確信があったとは。
でも、カウンセラーでもある姉ちゃんがそう言うのだから、可能性は高そうだ。あとは俺の努力次第というところか。
自宅へ戻り、そして俺はぐっすり寝た。
予想以上に熟睡できた。
やはり、三沢さんの存在が大きくなっていた。
俺のトラウマは克服されつつあったんだ。
このまま付き合えるなら、完全に過去の失恋を抹消できるかもしれない。
その後、スマホにメッセージが入った。三沢さんだ。
三沢さん:今日はありがと。また映画見ようね!
正時:本当かい? じゃ、次はとびきり怖い奴にするよ
三沢さん:あれ以上があるの!? 異界駅も結構怖かったけどなー…
正時:まだまだ上があるよ
三沢さん:そっか~…! じゃあ、次回は抱きしめてもらわないとね
正時:え? まじ?
三沢さん:うん、お願いね!
次回は三沢さんを抱きしめながら映画鑑賞……できる!?
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