◆背後から忍び寄る悪

 前島くんは木から壁を飛び越えた。

 まるで時をかける少年のような、そんな跳躍力ジャンプで跳んだ。


 うそ、だろ……!


 なんて野郎だ。

 だけど、ここでヤツを止めねば大変なことになる!


 俺も思い切って飛び跳ねた……!



「うぉらあああああああああッ!」



 ――って、思ったより高ぇええええ!!


 高さはおよそ五メートル。

 死にはしないが、下手すりゃ骨折だ。前島くんは上手く転がっていく。俺はそのまま両足で着地。


 ビリビリっと電気が走って、痛みで涙が出た。


 くっ……!


 やっぱり無茶だったか。

 けれど、前島くんに追いついた。


 灯の家に不法侵入する形になってしまったが、前島くんという不審者を捕まえる為だ。やむを得ない。



「熊野! しつこい!!」

「ったりめーだろ!!」



 庭を走る前島くんは、家の中を目指す。

 させるかよ!!


 俺は取り押さえる勢いで突っ走り、前島くんの背後を捉えた。


 そして、ハイジャンプして一気に距離を詰めた。



「……なッ!」

「前島あああああああああああああああああ!!」



「くそおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」



 玄関に入れるギリギリで俺は前島くんを取り押さることに成功した。……よしッ!!



 だが。




『――――バチッッ!!』




「か…………」



 俺の首後ろに何か鈍いものが命中。意識を失いそうになるが、辛うじて保った。


 くそ、いったい誰が……!


 振り向くと、そこには意外な人物が立っていた。


 こ、この可愛い顔。なぜか制服姿……なんで、どうしてここにいるんだ。


 確かに、この女子とはトラブルがなにもなかったわけではない。あのマラソン大会の後、潔く身を引いてくれたと思っていた。


 だけど、それは違ったんだ。



「……熊野くぅん」

「……く、黒部さん! なぜ!!」


「なぜぇ!? そんなこと分かっているでしょう。私はね、この前島と組んだのよ。熊野くんに恨みを持つ者同士としてね……!」



「な、なんだって!?」



 やっぱり、俺を恨んでいたのか!

 あのマラソン大会で敗北した二人は、俺に強い恨みを持ち……こんな犯行を。だからって、こんな犯罪を!


 灯にどれだけ迷惑が掛かっているのか、この二人は分かっているのか……!


 いや、常識があれば最初からこんなことはしない。非常識だからこそ、こんな蛮行を!

 なら、俺が止めるしかないッ。



「残念だけど、熊野くん。あなたは、私のモノになってもらうわ」

「なるわけないだろ!」

「縛ってでも連れていく。いいでしょう、前島」



 黒部さんは、前島くんに確認を取る。

 すると前島くんはニヤリと笑った。



「もちろんだ。俺は三沢さんにしか興味がない。彼女さえ手に入るのなら……なんだっていい!」

「決まりね。じゃあ、眠ってちょうだい、熊野くん」



 スタンガンを取り出す黒部さん。それを俺の後ろ首にあててくる。



 バチッと音がして、俺は意識を…………。




 失うわけないだろ!!




 気合で耐え、俺は立ち上がった。



「こんなの、効かん!!」

「な、なんですって……! 熊野くん、あなた……いったい」


「愛があればこれくらい平気なんだよ。いいかい、黒部さん。俺は灯を守る為なら死ぬ気で動けるんだ。それが好きってことさ」


「くっ! なによなによなによ!!」



 またスタンガンが迫ってくるが、俺は護身術を使って黒部さんの右腕を掴んだ。そして、そのまま彼女の首筋にスタンガンを当てた。


 バチバチっと音が鳴って、黒部さんは失神した。


 これで黒部さんは撃沈した。



「……次は前島くん、君だ」

「ちくしょおおおおおおおおおおお!!」

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