◆ブン殴って豪華賞品をゲットせよ

 もしかして、お父さん……なのか?

 ま、まさかな。

 いやだけど、プロレスというと格闘技だから違和感がないというか。灯のあの表情からしても……確定っぽいぞ、これは。

 タイミングを見て聞いてみるかな。



 俺はデートを続けた。



 ガチャコーナーを離れ、本屋やら服屋やら巡った。とても充実していてあっと言う間に時間が流れた。


 時刻は十七時。

 そろそろ帰宅も視野に入ってきたが――しかし、ここで終わるのもちょっと寂しいというか、物足りない。あと少しだけ遊びたい。


 最後にゲーセンへ向かう。



「灯、もうちょい付き合ってくれ」

「もちろんだよ~!」



 二階の奥にあるゲームセンター。かなり広くてクレーンゲームやメダルゲームなど様々な筐体が並んでいる。

 時間帯のせいか少し混雑しているな。

 なにやらコラボイベントもやっている。


 ん、パンチングマシン?


「へえ、面白そうだな」

「ゲーセンと言えばパンチングマシンだよね!」

「まあ、あったりなかったりだけど、ここはあるんだな」



 Breaking★UpDownというヨーチューブで流行っている格闘技イベントのコラボらしい。ああ、これか。

 一分間という短い時間で殴り合うんだよな。

 なんか混雑していると思ったら、その格闘技のコラボイベントだったのか。


 少しガラの悪い連中がパンチングマシンを殴り、ポイントを競っていた。


 70、48、67、27、59などなどパンチの威力が“数値”として表れ結果を画面に映し出していた。


 90以上を叩き出せれば豪華賞品が貰えるらしい。



「これやりたい」

「え!? 灯……?」

「次、わたしが挑戦するね!」


 なんか急に楽しそう!

 こんなワクワクされては止められない。というか俺自身も、灯のパンチの威力を見てみたいと思ってしまった。

 予想するまでもないだろうけど、とんでもない数値を出しそうだ。

 楽しみである。


「分かった。1PLAYは100円か。良心的だな」

「がんばってくるね! 応援してよ~」

「おう。がんばれ、灯!」



 灯の登場に周囲も騒然となった。



「ん、あの女の子がやんのか?」「へ~、可愛いじゃん」「あんな華奢な体じゃ、たいした数値は出ないだろうな」「女子なら出ても10とかじゃね」「まー無理だろうな」「でも、なんかスタイル良くね?」「ちょ、構えがマジっぽいぞ」「真似事だろ」「そうかな」


 俺含め十名ほどが見守る中、灯はグローブを着けて筐体の目の前に立った。確かに構えが明らかに素人ではない。あと空気感とかオーラとか色々……!

 という俺は当然灯の凄さを理解しているが、しかしパンチ力はこれが初めて。果たして……。




『ブン……! ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ…………!!!!!!!』




 ――手元がなにも見えなかった。


 いったい何が起きた!!


 風が切り裂き、パンチングマシンのパンチングパッドが物凄い勢いでぶっ倒れ、しばらく起き上がることがなかった。



 そして現れた数値は……。



【129】



 どうやら、マックス数値の一歩手前だったようだ。世界王者という称号が現れ、盛大に祝われていた。……ちょ、ええッ!?


 周囲は沈黙。

 呆然となっていた。



「…………え」「な、なんだ……」「なにが起きた!?」「うそ、だろ」「俺、夢でも見てたのかな」「あの姉ちゃんのパンチ死ぬほど早くなかった……?」「プロボクサーかな?」「えぐいって!!」「あんなの食らったら死ぬ」「この街にやべぇ逸材が眠っていたんだな」



 見守っていた男達は冷や汗を掻きながら、灯を見守っていた。

 そんな灯は俺の元へ。



「本気出し過ぎちゃった……」

「す、すげぇ」



 呆気に取られていると、店員さんがすっ飛んできた。



「おめでとうございます! 129は日本最高記録です! おめでとうございます!」



 な、なんだってぇ……。とんでもない記録を出しちゃったぞ、灯。

 そして見事一位となった賞品は――。



 Breaking★UpDown出場権だった。



 なにいいッ!?

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