三番目に可愛いクラスメイトが天使すぎて人生はじまった

桜井正宗

◆クラスの一番目と二番目に可愛い女子が寝取られた話

 俺、くま しょうは、なぜか昔からモテた。

 不思議なくらいに。

 高校二年に上がってからも、恐ろしいほどに女子が寄ってきた。

 みんなの憧れである一番目と二番目に可愛いと言われている女子も。


 もちろん、俺は興味があって付き合った。


 だが。


 一番可愛い古賀さんは、三年のイケメン先輩に寝取られた。

 気づいたらそうなっていた。

 多分、俺が積極的ではなかったせいもあるかもしれない。でも、それでも久しぶりに真剣な恋をした。小学生以来に。


 古賀さんのことが心の底から好きだったのに。


 そんな失恋の中、二番目に可愛いと言われている瀬戸内さんが、俺の事情を察して近づいてきた。



「熊野くん、大変だったね……」

「あぁ、瀬戸内さん。知っていたのか」

「うん。二人、お似合いだったのにね。たった二週間で終わりだなんて、ビックリ」

「三年の先輩に取られちゃった……」


「あの先輩、前から古賀さんを狙っていたってさ」


 古賀さん自体、最初は先輩とそんな関係になるつもりはなかったらしい。

 だが、気づいたら俺は古賀さんを奪われていた。


 一昨日、二人がキスをしている場面を見てしまったんだ、俺は。

 その後の行為も声だけ聞こえた。


「大丈夫? もしよかったら、私が話を聞いてあげるよ」

「瀬戸内さん、優しいんだね」

「そうかな。でもね、熊野くんのこと前から興味があったっていうか」

「え?」


「君、よく人助けをしているよね。そういうところがカッコイイからさ」


 意識しているつもりはないけど、俺は普段から困っている人を助けている。同級生だけでなく、おじいちゃんやおばあちゃん。子供から大人まで。動物もだ。


 そんな些細な行いが評価されているのかもしれない。

 けど、俺は当然のことをしているだけだ。


 やがて、瀬戸内さんと話が合って気分がよくなった。慰めてくれたし、おかげで元気を取り戻した。

 古賀さんのことが忘れられたし、今は瀬戸内さんと一緒がいい。



 そうして一週間が経った。


 古賀さんとは完全に破局。彼女は最初こそ必死だったが、俺が拒絶すると「分かった」とだけ言って以降は他人となった。


 それから直ぐに、俺は瀬戸内さんと付き合うようになった。


 クラスで二番目に可愛い女子だ。


 関係はすぐに噂になり、古賀さんの耳にも入っていたようだ。けど、特に反応はなかった。


 俺は幸せだった。


 瀬戸内さんとデートを繰り返し、体も触れ合うほどになっていた。



「瀬戸内さん……。今夜、ウチでどうかな」

「うん、学生の内に思い出残そうね」



 俺は心の中で“やった”と思った。この日をどれだけ待ちわびたか。

 古賀さんが寝取られてショックだったし、俺には永遠にそんな機会はないと感じていたからだ。でも、やっと好きな人と――。



 ――――ぱんぱんぱん。



 そんな音が放課後の教室内で響いた。


 瀬戸内さんは、後輩らしきイケメン男子と抱き合っていた。


 ……え、なにこれ。


 呆然となる俺。

 意味が分からなかった。


 なぜ、なぜなんだ……!


 その相手は俺のはずだった。なのに、瀬戸内さんは…………ぐっ!



 俺は、ボロボロと涙が出た。そして、古賀さんも瀬戸内さんも信じられなくなった。二人は、俺の気持ちを弄び、裏切ったんだ。


 以来、俺は二人を拒絶。

 絶望しかなくなった。


 精神的にも参り、俺は退学すら考えた。


 もうダメだ。おしまいだ。


 そう考えた矢先の出来事だった。



 ある日の昼。昼休みの校内でそれは起きた。



 クラスで“三番目”に可愛いと呼ばれているさわ あかりが廊下に倒れていたのだ。



 俺はその光景を見て何事かと思った。



「………………うぅ」



 彼女はの顔は明らかに青く、呼吸も浅いように見えた。

 これは……助けないと。

 そう感じて俺は彼女の元へ駆け寄った。


「み、三沢さん。大丈夫かい!?」

「あ……同じクラスの熊野くん。ひ、貧血で……」


「な、なんだって……保健室まで肩を貸そうか?」

「……あ、ありがとう。助かる」


 彼女は必死に立ち上がろうとした。だが、明らかに力が出ていなかった。

 仕方なく俺は手を貸すことに。


「ど、どうぞ」

「うん……」


 なんとか立ち上がらせ、そのまま保健室へ。

 しかし、保健の先生は不在。


 これでは彼女ひとりになってしまう。



「先生が来るまで一緒にいるよ」

「ありがとう、熊野くんって優しいんだ」

「そ、そんなことないよ」


「ううん。噂になってるよ、誰でも助けるって。だから、女子人気高いのかなー」


「でも今は失恋中でね」

「あー…。そういえば、古賀さんと瀬戸内さんと付き合っていたよね?」



 やっぱり噂くらいにはなっていたか。

 まさか三沢さんの耳にも入っていたとは意外だったが。いや、同じクラスだし、そういう情報が入っても不思議ではない。



「ああ……二人とも他の男に取られてしまってね……」

「えっ……なんか、ごめん」


「三沢さんが悪いわけじゃない。俺がしっかりしていなかったから」


 そうだ。俺がもう少し真剣に古賀さん、あるいは瀬戸内さんと向き合っていれば、こんなことにはならなかった。

 今までモテはしたけど、付き合っても別れてしまったりすることが多かった。

 だが、今回のように寝取られることは初めてだった。しかも、二回も連続で。


 俺はどうしたらいいんだ……。



「熊野くん、こんなに優しいのに」



 優しい瞳、優しい声でそう励ましてくれる三沢さん。

 俺はつい自然と涙が零れた。



「…………っ」

「えっ! ごめん、変なこと言ったよね」


「違うんだ。嬉しくて」

「そっか。辛かったんだね。よかったら話を聞こうか?」


「いいのかい?」

「助けてくれたお礼に」



 三沢さんは、俺の失恋話を真剣に聞いてくれた。古賀さんが本当に好きだったこと。瀬戸内さんも将来を考えるほどに好きだったことを。



「――というわけなんだ」

「二人ともなんで他の男子に……」

「理由は分からない。なにが原因なのかも」


「うーん。なんか気になるよね」

「探ってみたい気もするけど、もう今更かな」


「じゃあ、わたしが調べてあげるよ」

「え?」


「余計なお世話でなければだけど」



 正直、理由くらいは知りたかった。三沢さんの力を借り、なぜ古賀さんと瀬戸内さんは、あの男達と寝たのか……その真実を明らかにしたい。


「頼む」

「分かった。でも、辛い結果が出ると思うけど、いいの?」

「構わない。今は全てを知りたいから」

「了解。お礼に探ってみるね」


 これで決まりだ。三沢さんに二人のことを調べてもらう。


「三沢さん、優しいね」

「わたしの取り柄はこれくらいだから」


「いやいや、君はクラスで三番目に可愛いと評判だよ」

「え~、なんか三番目って微妙じゃない? 中途半端だし」

「あくまでクラスの男子たちの総意による順番だからね。アテになんてならないよ」


 そう。決してその評価が正しいとは限らない。

 俺にとっては三沢さんが一番だった。


 なぜなら――。



◆◆◆

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