◆ライバル出現

 教室へ戻ると、三沢さんに話しかけている男子生徒がいた。

 あれは同じクラスの前島くんだ。

 いわゆる陽キャであり、女子人気も高い。


「――というわけでね、今度のマラソン大会で僕が勝ったら付き合ってくれ」

「……それは困るなぁ」

「熊野か。アイツのことなんて放っておけよ」

「そうはいかないね。熊野くんは強いよ」

「ふぅん。分かった。なら、熊野よりも順位が上だったら僕と付き合ってもらうぞ」

「いいよ。無理だから」


 三沢さんはハッキリと断言していた。

 そう言われるとプレッシャーだが、あの前島くんに負けるわけにはいかなくなった。


「それはどうかな。これでも僕は陸上部だぜ」


 自信満々だな。

 って、陸上部かよ。まずいな……。

 俺もなんでもいいから部活に所属しておけばよかったなぁ。

 けど、走るのは嫌いではない。

 登校・下校は基本的に徒歩だし、遅刻しそうになったり、急いで帰る時はダッシュしている。

 それにここ最近は、三沢さんとも朝のランニングをしている。

 あれから俺の基礎体力はかなり向上した。


「油断大敵だよ」

「分かった。熊野に勝ってやるさ!」


 前島くんはそう宣言して去っていく。

 あんなライバルが登場するとは。


「……三沢さん」

「あ、熊野くん」

「ごめん。お待たせ」


「黒部さんとはなんだったの?」

「瀬戸内さんのことで情報提供があった。もちろん、詳しく話す」


「そうなんだ。……良かった」


 ぼそっと小さな声でなにか言って安堵する三沢さん。どうしたのだろう?


「簡単に説明すると、瀬戸内さんはどうやら後輩に捨てられたらしい。で、一方的に俺に恨みを募らせているようだな」


「なにそれ。身勝手だね」


「ああ。まさかの事態に俺も頭を痛めているよ」



 古賀さんも酷かったけど、瀬戸内さんもなぜ俺にそこまで執着するのだろうな。俺のことなんて忘れて別の男とヨロシクやればいいのに。

 だって彼女たちは俺を捨て、他の男と寝ていたりキスをしていたりしていたのだから。

 俺のことなんてその程度だったんだ。


 なのに。


 なのに一方的に逆恨みだなんて……どうかしているよ。



「ともかく、今はマラソン大会に勝つことだけを考えてね」

「そうだね、三沢さん。君と付き合う為にがんばらないと」



 このままでは前島くんに取られてしまう可能性が出てきた。突然現れたあんな男に取られてなるものか。

 確かに彼は陸上部で足が早いとも有名だ。


 だからって諦めるつもりはない。


 そもそも三沢さんと付き合えるという条件は、俺の先約でもあった。


 それをヤツを横から……。

 そんな男に負けたくはない。


「勝つ為にも、可能な限り鍛えておく」

「じゃあ、早く走るコツを徹底的に教えてあげるよ」

「それはありがたい」


 三沢さんから伝授してもらえれば百人力だ。チートだ。勝てるぞ……!!


 しかし、その前に腹が減った。昼ご飯にしよう。

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