◆先回りして守る!

 スマホを取り出し、俺は灯に電話した。

 少し待つと繋がった。


『――もしもし、どうしたの?』

「灯! 今どこにいる?」

『もちろん、家。正時くん、なんか慌ててるようだけど、大丈夫……?』

「聞いてくれ。そっちに前島くんが向かった」


『え、前島くんが!? なんで?』


「灯を狙っているようだ。カギを閉めて、危なくなったら警察を呼ぶんだ」

『うん、そうするね。ていうか、いざとなったら正当防衛の名のもとにぶっ飛ばすよ』


「無茶はするな。相手は武器を持っているかもしれないし」

『了解だよ』



 灯が強いことは知っているが、万が一ということもある。

 このまま家でじっとはしていられない。



「そっちへ行っていいか?」

『来てくれるの?』

「心配なんだ」


『いいよ。でも、前島くんに気をつけてね』

「おう。なにかったらすぐに連絡する」



 そこでいったん電話を切り、俺は走った。

 走ることなら、すっかり得意になった。


 ひたすら走り灯の家を目指す。


 もし見つけられたら前島くんを捕まえ、警察に突き出す……!


 だが、夜の街に消えたのか彼の姿は見つからなかった。

 うまく逃げたか。


 俺が先回りすればいいだけのこと。


 そうだ。

 足腰を鍛えたのは無駄ではなかった。

 灯が付き合ってくれたトレーニングのおかげで、今の俺はマラソン選手並みの力を手に入れていた。


 きっと先に灯の家へつけるはず。



 走って走りまくって――ようやく到着。



 呼吸がだいぶ乱れたが、なんとか平気だ。

 灯の家の前には人の気配はなさそうだ。


 前島くんらしき姿は……ない。


 どこかで隠れているのか、追い越してしまったのか。分からないが、俺は再び灯に電話をした。



『もしもし、正時くん。ついた?』

「うん、到着した」

『分かった。今から出るね』



 門を解放してくれる灯。どうやら、前島くんはまだ来ていないらしい。間に合ったな……!


 安心して待っていると、草陰から人影が現れた。



「熊野!!」

「ま、前島くん!! 隠れていたのか!」


「まさか追い付いてくるとはな! さすがマラソン大会で一位を取っただけある! だがな!」



 前島くんの手元にはバールのようなものが握られていた。やっぱり凶器を持っていたか……!

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