◆二人きりでヤること
家の中へ。靴を揃えている最中、じいちゃんが現れた。
「正時、おかえり」
「ただいま。じいちゃん」
「――ん。そこのお嬢さん、もしかして例の彼女か」
「と、友達だよ」
「そうなのかぁ? 怪しいところだがな」
ニヤリと笑い、俺と三沢さんを見比べるじいちゃん。なんで怪しむかなぁ。
「ちょっと遊ぶだけだよ」
だが、俺の話はスルーされ、じいちゃんはそのまま三沢さんの前に立った。
「三沢さん、正時をよろしく頼むよ」
「はい、お任せくださいっ」
なにをよろしく頼むのだろう……?
不思議に思いながらも自分の部屋へ。
まさかまた三沢さんを我が部屋に迎え入れられるとは……。これはチャンスだ。
もし三沢さんがその気になってくれるのなら……。今は彼女になってくれなくても、キスを……。
いや、欲張り過ぎかな。
今は楽しむことだけを考えようかな。
「なにしようか?」
「熊野くんのやりたいことでいいよ」
笑顔で見つめられ、俺はよからぬことを考えてしまった。そりゃ、やりたいこととか言われたら、それしかないじゃん……。
でも、今ではない。
そういう意味でもないはずだ。
「そうだな……。ゲームでもしようか?」
「へえ、何のゲーム?」
「じいちゃんから貰ったレトロゲームでね。メガドライブっていうんだ」
「え……メガドライブ?」
「聞いたことない?」
「うん」
メガドライブとは、1988年に発売されたゲーム機なのだ。スーパーファミコンなどライバルが強くて、あまり普及はしなかったものの名作ゲームは数多い。
今回は『ムーンウォーカー』で遊ぶ。
「というわけで、このソフトしかないんだ」
「ムーンウォーカー?」
「ああ、マイケル・ジャクソンが主人公のゲームなんだぜ」
「えっ! あのマイケル!?」
さすがの三沢さんもマイケル・ジャクソンは分かるか。でもゲームが発売されていたことは、さすがに知らなかったようだな。
さっそく起動する。
マイケルがステージ登場した。
「ほら、このコントローラーで操作するんだ。主に蹴りで攻撃ね」
「わっ! マイケルからなんか光みたいのが出た」
そう、なぜか光が出る。
しかしそれよりもBGMがスムーズ・クリミナルで最高なんだよなぁ。何度聴いても良い。
とりあえず俺がお手本を見せた。
「こんな感じで敵を倒していく」
「うんうん」
「ステージにいる少女を助けていくんだ」
「へえ」
「敵の黒服に注意ね。攻撃されてHPが減るとマイケルが死ぬから」
「な、なるほどね……」
そんな感じで俺は説明した。
今度は三沢さんの番だ。
さて、ゲームは得意なのかな……?
コントローラーを渡し、三沢さんはマイケルを操作していく。
が、やっぱり初めてなのかギコチナイ。
敵からダメージを受けてHPをすり減らしていく。ま、まさか……ゲームが下手なのか……!?
なんとかボスステージまで来るが、三沢さんはそこでやられてしまった。
「死んじゃったね」
「む、難しいね」
いや、まだ最初のステージで難易度はそれほど高くないんだけどな。どうやら、ゲームはあんまり得意ではなさそうだな。
けどこうして二人で遊ぶのも楽しい。
俺は三沢さんにゲームのテクニックを教えながらプレイした。
するとどんどん上達して、気づいたときには三面まで突破していた。
いいね、その調子だ。
「おっ、なんだかんだラストステージか」
「え、これが最後?」
「ああ、ラストはなぜかシューティングゲームになるんだ」
「ええ!?」
驚く三沢さん。俺もよく分からんのだ。
たぶん、マイケルの趣味かもな……?
ということで、なんとか三沢さんはシューティングもクリア。ボスを撃破してエンディングを迎えた。
「おめでとう」
「お、終わり……?」
「ああ、それでクリアだ。昔のゲームだからね、そんなに掛からないよ」
「へ~、面白かった」
「だろ?」
「うん、昔のゲームってよく出来るんだね。知らなかった」
現代のゲームもリアルで面白いが、こういうレトロゲームも味があっていい。今では遊べないような横スクロールアクションが多いからな。
ゲームを遊び終え、ベッドに横になった。
ふぅ、楽しかった。
「もうこんな時間だね、三沢さん」
「あ~、そろそろ帰らなきゃ」
「そっかぁ。ゲームで終わっちゃったね」
「楽しかったよ、熊野くん」
手を握ってもらえて俺は顔が熱くなった。てか、恋人繋ぎってヤツだ、これ……!
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