◆ゲームの為にとある場所へ
先に玄関で待つこと五分。
私服に着替えた灯がやって来た。
「お待たせ、正時くん」
「おぉ」
今日はまた一段と可愛いな。
大人っぽい黒のワンピース姿。ちょっと地雷系なのは灯の趣味なのかもしれない。
うん、良い……。
ついつい見惚れてしまう。
ぼうっとしていると灯が指で俺の頬を突く。
「見惚れちゃった?」
「……う、うん。女の子はオシャレすると一気に雰囲気が変わるよな~」
「あ、そっか。熊野先生の私服とか見るもんね」
「そそ。姉ちゃん、あれでもファッションにはうるさいからね。俺の分の服も買ってくるし」
おかげで、身なりにはそれなりに気を使えていた。こればかりは姉ちゃんに感謝だ。今日も服装だけは決まっている。
……さて、そろそろ出発だ。
家を出て外へ。
しかし、どこへ行くのだろうか。
目的地が定まっていない。
「行こうか」
「その、灯。どこへ行くんだ?」
「まだ秘密。到着してからのお楽しみだから」
「なるほどね」
まあいいか。そこへ行けば分かること。
灯の言う通り、お楽しみの方が面白い。
俺は期待を胸に灯についていく。
街を目指し歩いていく。
今日は快晴で雲ひとつない。空気も澄んでいて清々しい。気分も最高だ。
雑談を交えながら、とうとう街中へ。灯の家から約ニ十分は歩いた。だが、それでも到着する兆しはない。
果たしてどのお店に入るのだろうか。
「もうすぐだよ」
「マジか」
駅前来た。
この辺りはお店も多くて活気にあふれている。
スーパーやファーストフード店、雑貨店などが立ち並ぶ。だが、その辺りに立ち寄る気配はなく、そのまま歩き続けた。
駅から少し離れ、五分したところで灯は足を止めた。
……こ、ここは?
「到着」
「ん、パソコン工房……?」
「そ! パソコンショップ!」
「なにッ!?」
ま、まさか灯の行きたいところってパソコンショップだったのか……!
「驚いたでしょ!」
「そりゃね。パソコン買うのかい?」
「組むんだよ」
「組む? ――って、自作!?」
「そそ。ほら、ゲームやりたいじゃん。スペック要求の高いゲームはグラボとか欲しいし」
「自分で作るのかよ。すごいな」
「簡単だよ~」
「そ、そうなのか……」
手を繋がれ、強制連行される俺。
本当にパソコンショップへ入ることになるとは……!
「あれ、正時くん、こういうの興味ない?」
「あー、いや。ほら、スマホでも出来るゲーム多いし」
「ソシャゲよりスチームのゲーム買おうよ! エペとかフォトナやろうよ。あとラストね!」
「えぺ? ふぉとな? らすと? ……うむむぅ」
どうやら、俺の知らない言語がこの世に存在しているらしい。灯がなにを言っているのかサッパリだ。
俺は普段、パズルとかお弾きのソシャゲしかやっとらんからな。
でも、灯がここまで熱を込めているし、それに俺自身もパソコンゲームに興味がないわけではなかった。ただ、ソシャゲでいいかなって思っていただけなのである。
あと単純にパソコンを買う金がない!
「これから覚えていけばいいよ。一緒にパソコン作ってゲームやろ!」
「じゃあ、まずは参考に」
「うんうん!」
こんなテンション高い灯は初めて見る。そうか、パソコンか。時代的にスマホで十分じゃんって思ったけど、パソコンゲームをやるなら欲しいよな。
値段いくらするんだろう……?
気になりながらもお店の中へ。
直ぐに視界に入ったパソコンの値札は【15万円】【18万円】【9万円】【28万円】【11万円】とあった。
「た、高ぇ」
「正時くん、そっちじゃないよ。作るんだからパーツ選びだよ!」
「……? お、おう」
謎のパーツコーナーへ連れていかれ、灯は『マザボ』や『CPU』を食い入るように見ていた。
こ、ここまでとはな……。
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