◆三番目の寝取られ……?

 早朝ランニングを終え、一度帰宅。

 三沢さんは元気よく走って帰っていった。すごい体力だな。


 いったん家へ戻った俺は、シャワーを浴びてスッキリ。制服に着替え、時間を見て家を出た。

 長い朝を過ごしたような気がする。



 駅を出て学校へ向かう道中で、三沢さんと合流した。



「改めておっはよー」

「あ、三沢さん。元気だねー」

「朝は元気だよ。朝だけね……」

「なるほど」



 徐々に疲れがたまり、貧血でぶっ倒れるということか。あとあと疲労がくるタイプだな。あんまり無茶はして欲しくないが、俺が見守るしかない。

 倒れたらお姫様抱っこの刑に処す。


 そんな誓いを立てながらも、教室へ向かう。

 ちょっぴり新鮮な空気を感じながら、三沢さんと共に席へ。



 授業を真面目に受け続け――お昼。



 なにを食べようか悩んでいると、三沢さんがこちらを向いた。



「一緒にご飯にしよっか!」

「もちろん。どこで何を食べる?」

「食堂にしよー」

「いいね」


 俺は、毎度食堂を利用しているので大歓迎だ。

 三沢さんと共に席を立つ。

 するとクラスの男子と女子から視線を受ける。


 最近、俺と三沢さんの関係が妙に疑われる。付き合っているのではないかと。

 いや、まて。まだ彼女とはそんなに長い日にちを過ごしていない。でも、もうそう思われるとはね。

 古賀さんや瀬戸内さんの件があったせいかもしれないけど。


 二人もなぜか俺の方を見ている。

 なんで……?



 ◆



 食堂で激ウマカレーライスを戴いた。三沢さんはうどんにしていた。


「食堂のごはんって美味しいよね~」

「そうだね、三沢さん。ここのは絶品だよ」


 味が濃くて俺は好きだ。

 しかも料金設定も良心的でお財布に優しい。

 全国展開とかしたら、ウケそうだけどなー。


「カレーも美味しそう」

「よかったら食べる?」

「え……いいの?」


「もちろんだよ。はい、スプーン」


 俺の使っていたスプーンを渡す。三沢さんは頬を一瞬で赤くしていた。……あ。しまった。昔の友達のノリでつい自然にスプーンを渡していた。


 そうだよな。

 よ~く考えれば“間接キス”だ。

 忘れていたよ。


「…………」

「ご、ごめん」

「う……ううん、いいの! 別に……嫌じゃないし」


 え!?

 思わず心の中で驚く俺。

 そ、それって……マジっすか。三沢さん、俺のスプーンを使ってくれるんだ。

 やっべ……ハラハラしてきた。ドキドキもしてきた。ウズウズもしてきた。


 三沢さんは、俺のカレーをすくって……ゆっくりと口にした。


 ……た、食べた。


「……っ」


 見ているこっちまで恥ずかしくなってきた。

 顔を熱くしていると三沢さんは微笑んだ。



「とても美味しい。食堂のカレーってこんなに美味なんだね」

「そ、そうだよ。めっちゃおススメ。次は頼んでみるといいよ」

「うん、そうしようかな」



 こんな最高のお昼を楽しめるなんて、やっぱり三沢さんは天使だ。



 そうして、あっと言う間にお昼は過ぎていった。

 午後の授業も普通に受けて、普通に終わった。毎日と変わらない。



 ――そう思っていた。



 放課後。



「………………」



 古賀さんが俺の目の前で立ち止まった。

 意味深な視線を残し、黙って去っていく。……なんだよ、それ。

 言いたいことがあるのなら、ハッキリ言って欲しいものだ。だが、俺と彼女の関係はとっくに終わっている。


 今更なにがあるというのだ?


 なにもない。



 だから俺は気にしなかった。

 その方が精神衛生上も良いからだ。



 そんなことよりも“悪夢”を一刻も早く解消せねば。

 毎朝毎朝見せられ、絶叫して起きる毎日。こんなのシンドすぎる。このままでは本当の意味で脳が破壊されてしまう。

 いや、されているけどな二度も。



 三沢さんは女友達に呼ばれたようで姿がない。

 その間、俺は保健室へ。

 カウンセリングを受けにいく。


 歩いて向かい、保健室に到着。


 扉を開けると姉ちゃん――熊野先生が足を組んで待っていた。



「きたか、正時」

「俺を診てくれるんだろ?」

「もちろん。座ってくれ」

「分かった」



 思った以上に真面目な対応をしてもらえ、俺は少しだけ気が楽になった。



「――というわけでね、ジークムント・フロイト先生曰く“人は不快な記憶を忘れることによって防衛する”という。嫌な気持ちを無意識下で抑え込み、苦痛を和らげているのだ。だが、その記憶や感情は必ずしも消せるものではない」



 自身が思っている以上にトラウマになっているということか。

 そうか……そうだよな。

 俺の心はボロ雑巾のようにズタボロなんだ。

 姉ちゃんに教えられ、はじめて気づいた。


 だから“悪夢”となって蘇ったのだ。

 だから毎晩、あんな夢を見てしまう。



「……どうすればいい」

「時間が解決してくれる」

「それしかないかー」

「もしくは新しく彼女を作れ」


「ウーン」


「三沢さんはどうなんだ?」

「……ッ!」


「なんだ、狙いは定まっているんじゃないか」



 熊野先生は、ケラケラ笑う。……ど、どうかな。俺は……好意あるけど。三沢さんの本音はまだ分からない。そりゃ、両想いなら嬉しいけど。

 今のところは片思いのような気が。



「も、もういいよ。帰る」

「ふぅん。じゃあ、また家で」



 十分だ。おかげで自分がどれだけ心にダメージを負っているか理解できた。今後は無理しないように心がけよう。


 廊下に出て三沢さんを探す。


 うーん、いないか。


 教室かな?


 一応向かってみる。



 すると。



『……や、やめて!』



 こ、この声は三沢さん……?



 え……。



 ま、まさか……。



 扉を少し開けると、そこには見覚えのある男が立っていた。あれは俺から古賀さんを奪った……イケメン先輩。


 どうして!!


 三沢さんを押さえつけようとしている。……ふざけるな!!


 俺は怒りが爆発した。


 三沢さん、物凄く嫌がっているじゃないか。

 絶対に許さん!!

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