◆人気上昇中の“三番目”

 どうやら、古賀さんと瀬戸内さんの人気急落のせいか、最近は三沢さんと黒部さんの人気が上昇しているようだった。


 だからなのか狙って来る男が増えてきたようだ。


 クラスの男共がそうヒソヒソと話していたのを耳にしてしまった。


 ……なるほどね。



 そんなこんなで授業が進み、放課後となった。



 散り散りになっていく教室内。

 けれど、三沢さんに話しかけて誘う男が明らかに増えていた。

 まてまて。

 いきなり人気が上がり過ぎだろう。


 しかし、三沢さんはどれも丁重に断っていた。


 さすがに何件も断って気が滅入ったのか、俺の方に向かって来て腕を掴んだ。


「ちょ!? 三沢さん!?」

「く、熊野くん……見てないで助けてよ……!」


 困った表情で三沢さんは、俺の腕に絡みついてきた。教室内の三沢さんを狙う男子たちがいるというのに。

 おかげで憎悪の視線が俺に向けられた。


 こ、怖っ。


「ごめんごめん。行こうか」

「帰ろう」


 三沢さんが俺を引っ張っていく。

 その光景が更に憎悪を増幅させていたようで、男共の目は血走っていた。なぜ、そんな恨めしそうに見るかなぁ!?


 今も三番扱いのはずなんだがな。

 よく分からん。



 教室を去り、廊下を歩いていると熊野先生と鉢合わせた。



「正時。それと三沢さん」

「あ、姉ちゃん――じゃなくて、先生」


「カウンセリングはいいのか?」


「そうだった!」



 しばらくは先生に俺の精神面を診てもらう約束だった。



「保健室寄ってく?」



 察してくれたのか、三沢さんはそう言ってくれた。



「そうだね。一刻も早くトラウマを解消したいし、寄っていく」



 普通に病院やら通うとお金も掛かるからな。姉ちゃんにタダで診て貰えるのなら、その方が良いのだ。


 保健室へ向かい、俺はさっそくカウンセリングを受けることに。


 三沢さんも同席してもらった。



「正時。最近、疲れているな」

「分かるのか、先生」


「顔色で分かる。それに風の噂で聞いた。トラブルが多いようだな」

「まあね。今日は特に多かった。瀬戸内さんのことや……男たちが俺を目の敵にしていたり……」



 熊野先生は納得して、三沢さんを見つめていた。


 な、なぜ?


 そして、意外な情報を教えてくれた。



「それは三沢さんのせいだろうね」


「「え!?」」



 三沢さんのせいってどういうことだよ。

 頭が追い付かなくて混乱した。



「なんでだよ、先生」

「聞いたのさ。これは確実な情報だ」


「だから何だよ……?」


「マラソン大会で一位を取れたら、三沢さんと結婚を前提に付き合えるとな」



「「はぁ!?」」



 俺も三沢さんも同じタイミングで叫んで立ち上がった。

 な、なんでその情報が漏れているんだよ!?

 それは俺と三沢さんだけの約束なんだぞ。



「二人とも驚いただろうね。私も驚いたよ。だが、事実そのような情報が広まってしまっていた」


「く、熊野先生……なんでそれが!」



 焦り顔の三沢さんが先生に聞いた。



「少なくとも三沢さんがそう言ったと噂になっている」



 そう言われると“結婚を前提に付き合える”という会話は、教室内していることだ。地獄耳の誰かに聞かれたのかもしれない。


 ……くそ、しまった。


 それで男共が必死になって三沢さんにアプローチを仕掛けていたのかも。多少、瀬戸内さんの嫌がらせもあるだろうけれど。



「そうかもしれない。三沢さん……!」

「うん……ごめんね、熊野くん。わたしのせいだ……」


 しゅんと落ち込む三沢さん。そんな悲し気な顔も可愛い――じゃなくて、これはイカンな。

 三沢さんの人気上昇の秘密が明らかになった。


 確かに、マラソン大会で優勝できれば結婚を前提に付き合えると言っていた。でも、それは俺に対しての話だ。


 それが勝手な解釈で広まってしまったようだ。


 一体だれがこんなことを!


 あのヒソヒソ話でよく聞こえたな。


 こうなってしまった以上は仕方ない。



「大丈夫だ。俺が一位を取ればいい」

「そ、そうだよね。熊野くんが一位を取ればいいんだよね……!」


「ああ。任せろ! 今まで三沢さんのおかげで鍛えられているんだ。残りの僅かな時間もトレーニングして努力するよ」


「うん。わたしも支えるね!」



 そうだ。俺が勝てばいいだけの話。

 この世界は弱肉強食。

 勝つか負けるかの単純明快なルールだ。


 勝者だけが栄光を掴めるのだから。



「よぉし、今夜から猛特訓するぞ!」

「その意気だよ、熊野くん!」



 あと少ししかないが、出来る限りのことをしていく。最後まで諦めないぞ、俺は。



「まて、正時」

「な、なんだよ、姉ちゃん」

「先生と呼べ」

「先生……」


「マラソン大会は三日後。勝てるのか?」


「大丈夫。三沢さんと毎朝一緒に走っているんだよ」

「なるほど、それで最近は早起きだったのか」

「そういうこと」


「そうか。可能性はありそうだな」



 また三沢さんを見つめる先生。もしかして三沢さんのことが気になっているのかな。そりゃ、美人で可愛くて、しかも強いからな。まだまだ謎な部分も多い。

 俺だって知らないことが山ほどあるんだ。


 そうだ。


 俺はもっと三沢さんのことが知りたいな。

 この後、ドーナツでも食べながら聞いてみようかな。

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