◆二人きりでゾンビ映画
コモダ珈琲へ入った。
メニューよりも増し増しのサンドイッチ。
それを灯と談笑しながら食べる……なんて幸せな一時なのだろう。
「ここお店の雰囲気も良いし、メニューも豊富だし、量もあって最高だよね」
「そうだね、正時くん。コモダ珈琲って満足度高いよね~」
同意しようとすると背後から声がした。
「ああ、私もそう思う。三沢さん」
「「!?」」
聞き覚えのある声に頭が混乱した。
ま、まてまて……!
この声は間違いない。
「ね、姉ちゃん……なんでここに!」
「おはよう、正時。それと三沢さんも」
至って冷静に姉ちゃんは挨拶をした。灯も驚きながらも「おはようございます」と挨拶を返していた。そんな律儀に……。
いや、それよりもなぜコモダ珈琲に姉ちゃんが?
「なんでいるんだよ」
「なんでって、コモダ珈琲の常連客だからだ」
「マジで」
「土曜日はここでモーニングと決めているからな。ほれ」
姉ちゃんは相変わらず哲学書を愛読しているようでタイトルは『この人を見よ』だった。またニーチェか。好きだなー。
あ、でも確かアレは自伝だったかな。知らんけど。
「へえ、そうだったのか」
「そっちはデートか」
「そ。じっちゃんに車を出してもらってね。外にいるよ」
「そういうことか。じーが朝からなぜか張り切っていた。不思議に思っていたが、こういうことだったとはね」
姉ちゃんは、じっちゃんのことを“じー”と呼ぶ。
納得したのかコーヒーを味わっていた。
「姉ちゃんに頼んでも良かったけど、いつも家にいないからさ」
「そんな面白そうなことなら請け負ったけどね。まあいい。私は貴重な休日を楽しむとするよ」
「分かったよ。じゃ、俺たちは行くから」
「うむ」
姉ちゃんと別れ、料金の精算へ。
コモダ珈琲を後にした。
「まさか姉ちゃんがいたとはな」
「そうだね、正時くん。わたしもビックリしちゃったよ」
世間は狭い、ということかな。
じっちゃんと合流し、車へ乗り込んだ。
車の中で朝食をとっていたのか、コンビニ袋があった。おにぎりを買って食っていたらしい。
「戻ったか、正時。灯ちゃん。次はどこへ行く?」
「映画館で頼む」
「分かった。じゃ、ショッピングモールだな」
車のエンジンを掛け、目的地へ走らせてくれるじっちゃん。ここから確か十分ほどだ。
しばらく道を走り――到着。
この街の一番大きなショッピングモールだ。
映画館だけでなく、スーパーやホームセンター、様々なお店が入っている。ゲーセンもあるから暇つぶしに最適だ。
屋上の駐車場に止めてくれた。
「それじゃ、終わったら連絡するよ」
「了解だ、正時。ワシは適当にぶらぶらしている」
「あいよ」
車を降り、じっちゃんと別れた
ここからはガチの二人きり。本格デートだ。
「正時くん、映画を見るんだね?」
「そそ。気になる映画があるんだ」
「どんなの?」
「ゾンビ映画だ」
「へえ、面白そうだね。わたし、ゾンビ映画は好物でいろんなの見てる」
「そりゃ丁度いいな!」
まさか灯がゾンビ映画好きとはな。
グロいから嫌だと言われたら、どうしようかと思って一応第三候補まで考えていたが、その必要はなくなったな。
断られていた場合は、恋愛映画かアニメ映画になる予定だった。
ホッとしたところで映画館へ。
券売機でチケットを購入。
二人席の場所が空いていて良かった。
「なにか買ってく?」
「そうだな、灯。飲み物くらい買っていくか」
「わたし、チュリトス食べよっかな」
「お、なら俺も買おうかな」
飲食売店に並び、コーラとチュリトスを購入。俺の奢りで。
「ありがとう、正時くん」
「いいんだよ、これくらい。さあ、上映時間だ」
「うん」
ゾンビ映画のタイトルは『バイオオブザデッド』。
ショッピングモールで籠城してゾンビ世界を耐え抜くストーリーだ。主人公にはゾンビを眠らせる特殊なフェロモン能力があり、その力を駆使して仲間を守り抜くという。
どんなオチになるか楽しみだ。
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