第29話 解決

「死因はなんだったの? 事故だったわけでしょ?」


「焼死だ」


「転落で混乱の中、迫りくる火の手に」


「全員、精神安定剤を飲んでいた」


「自殺?」


「これが巧妙でみながそれぞれ使っていた精神安定剤だ。誤って飲んだといっても言い訳はつく」


「それでどこに向かっているの?」


「イクの実家だ」


「イクって亡くなった」


「イクは死んでいない。あとは別で動いているから今日中には結果が分かる。おぞましい事件がな」

 普通の一軒家だった。


「金持ちがみな大きな家に住むわけではない。大きい分だけ金を持っていると思われるからな。こういう家の方がちょうどいい。降りろ」


「気をつけて降りてください」


「傷をつけるなよ。その服高いからな」


「ゴシックスタイルすごく好きなのよ」

 インターフォンをハルカさんが押した。扉が開くと高校生くらいの青年が出てきた。



「中さん。お疲れ様です」


「それでイクはどんな感じだ」


「そろそろだと。そちらの方は」


「どうでもいいだろう」


「この家にいれるには名前を名乗っていただかないと」


「日記にはお前が従姉妹に筆おろしを強要したと書かれていた」

 小さくはっきりと青年は「だから処分にぬかりはないようにと」と言った。


「ハルカさんどういう意味」


「入るぞ」

 そういって玄関を土足で進み、奧の部屋に入った。


 たくさんのケーブルと管。ただれた皮膚。


「先日、空の罪を暴いてくださいと投書があった」

 気づいていたのか。ということは私に見せようとわざと。

「上手くやったな。ただ不幸は非常口が開かなかったことだ。薬を飲まなかったことが幸いして焼死は免れたが、熱した窓を開けるのはかなり苦労しただろう。火傷は自分で負った。最も少しのつもりだったが、想定以上だったろ」


「出ていけ」

 青年はハルカさんを押し倒した。そして殴った。


「イクは僕の物だ。どんな形になっても愛している」


「自動音声に起こせたらしい。青年聞くといい。この女の絶望がいかばかりであったかを知って、己の罪を自覚しろ」




 イクはおそらく死なない。

 私はイクの身代わりで殺される。だから、誰かの目に留まって、イクに罪があったことを知らせたい。どうやってその方法を取るか悩んだ。生徒会だと潰される危険性がある。学校の掲示板の裏でもすぐにバレる。家の引き出しかな。私はそう思って、校舎を練り歩いた。

 図書室の前に投書箱があった。ほこりをかぶっていて、中にはカサカサと音がするばかりだ。この日記を書いたメモリーと紙を入れておこう。もし誰かの目に留まって、イクの罪が明らかになったら、あの可哀そうなイクも救われるかもしれない。

 好きでもない男とセックスをさせられて、気丈にふるまわらなければいけない女の子。可哀そうで愛しい彼女。私は彼女が好きだった。だから自分がイクの代わりに死ぬのは異議はない。

 どうやっても生きて欲しい。でも他の子たちは違う。私はバスの下見で非常扉に細工をした。私以外に犯した罪を一生償うといい。さて日記はここまで、未来の後輩よ。あとは頼んだ。




「結局、なんだったのよ。投書箱はちゃんと毎回確認していたわよ」


「香住が回収したのだろう。出世に響くからな。椚円佳くぬぎまどかは保険を用意していた。歳の離れた当時小学生の妹に私が死んでも時が来る。必要だと言ってくる。でもイクの親兄弟に渡してはならないよ。そういってメモリーを渡していた。うちのメイドが椚家に駆け込んだのだよ」


「なんで赤点のテスト用紙をいまさら、もしかして妹に」


「妹なりの合図だろう。恥ずかしい三点のテストを、姉がいないことを不穏に感じさせたのだ。いつか時が来たら、図書室に解決させてくれそうな神様が現れたら」


「神様まで言ったの?」


「さあな」


「テスト近いけど大丈夫?」


「私を誰を思っている天才の中ハルカだぞ」

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